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翻訳から見つけた、インタビューライティングで一番大切なこと

2023年最終日、どうしても作りたかった動画を1本作った。好きなアーティストさんが披露した洋楽のカバーに、日本語訳をつけてまとめること。駆け込みで何とか着手することができた。

曲は、エド・シーラン『Shape of you』。男女の出会いから恋の駆け引きを経て、恋人に夢中な様子を歌い上げる1曲。オトナなストーリーではあるけれど、男性側は若く、恋に落ちるのは初めてに近いのだろうという人物。これを、あまりにセクシーに、歌配信の1曲目として世界に誘う様に歌い上げたのがどうにも好きで、動画にして取っておこうと思ったのだ。


問題は、どの日本語訳を用いるかだった。動画制作に入る前、エド・シーラン本人やカバーした人の歌動画に日本語を添えているものや、「訳してみた」的な人のものを調べてみた。原曲は同じなんだからどれでも変わらないだろうと思っていたら、大間違い。大枠は変わらないけれど、主語の男女が入れ替わっていて別ストーリーに仕上がっていたり、意訳の度合いによっても受け取る印象は大きく違っていたりするという発見をした。

さて、どうしよう。

翻訳をしようなんて試みたはいいものの、わたし自身は英語ができる訳ではない。外国人の方に道を尋ねられても緊張しながら、最低限の「とりあえずここは右です」くらいしか伝えることはできない女だ。

わたしが伝えたかったのは曲の世界観と、それが手に取るように見える鮮やかな表現をした彼のパフォーマンス力だった。それなら、彼が頭の中に描いたであろう世界を読み取り、それを日本語にする翻訳をしたいと思った。受験英語のような直訳では目的を果たせない。必要なのは、原曲の言葉選びを尊重しながらも、日本語として素敵だと感じられる表現を選んで仕上げること。これだ!という翻訳は見つけられなかった。自分なりに、やってみるしかなかった。

実際に翻訳に取りかかってみると、思いのほかスムーズだった。「この作業は、インタビュー記事をつくるのと同じだ」と、不思議な慣れを感じる。今回は英語の歌詞を日本語に起こす作業だけれど、言葉を整理して、言いたいことをより伝わる形で整えるのは、わたしのインタビュー記事づくりでいつも一番に心がけていることじゃないか。

例えば「Come on now, follow my lead」というフレーズが曲中で何度か繰り返される。これは、男性がいうバージョンと、女性がいうバージョンがあるとわたしは受け取った。このストーリー、先に態度で仕掛けるのはお姉さんだけれど、そこにのせられた男の子がちょっと年上のお姉さんをナンパ的に上記のフレーズで誘う。しかし、経験がないからどこかぎこちない。そんなところまで見透かしたお姉さんは、誘いに余裕をもってこたえつつ、誘い返す。そんなバーでの密やかなやりとり。

いろいろ迷った末、
大人ぶる男の子には「おいで、僕に任せて」
対するお姉さんには「こっちに来て、私についてきて」
の訳をあてることにした。

同じ意味でも、言葉の選び方で与える印象は大きく変わる。より魅力的に、この人のメッセージとらしさが伝わる表現はどれか。インタビューライティングはいつだって、翻訳の要素を含んでいる。

だれかの世界を、別の誰かに届ける。日本語の中だって、いる業界や年代によって 言語は大きく異なる。その間に入ってうまく繋がるように、翻訳的に振る舞うのが、インタビュアーとライターには求められる。

世界をつなぐには、両方の言葉を知らなければならない。それぞれがもつ背景に想像をめぐらす必要もある。そして、本人の言葉の真意を失わないようにしつつ、自分の手持ちの言葉を使って、もっと届くように整える。

常に外側にいるからこそできる、誰にでもできる訳ではない能力なんだなぁと、自分の一年間の仕事をいつもと違う角度から振り返れる時間だった。2024年も楽しもう。

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