見出し画像

Saras Sarasvathy教授の授業(1) Effectuationの紹介

こんにちは、広瀬です。
今日はEffectuationの誕生から、Effectuationの意味、Effectuationの5つの原則の概要を書いていきます。


Effectuationの誕生

Effectuationはサラスヴァシー教授がカーネギーメロン大学の博士課程時代に発見した理論で、今から23年前の2001年に経営学分野で最高峰の学術雑誌Academy of Management Reviewに論文発表しています。その後日本でも「エフェクチュエーション (【碩学舎/碩学叢書】)」、「エフェクチュアル アントレプレナーシップ(ナカニシヤ出版)」、「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(ダイヤモンド社)」などの本が出版され、起業のみならず新規ビジネス立ち上げまで幅広くEffectuationの効果が話題になり始めています。サラスヴァシー教授の研究の過程ではアマゾンのジェフ・ベゾス、アップルの故スティーブ・ジョブズ、ヴァージン・グループのリチャード・ブランソンなどの、今では錚々たる起業家が含まれており、彼らも創業時期はEffectuationの手法を使っていたそうです。今では世界的な大企業の起業家も、創業期にはEffectuation手法で会社を運営していたなんて、ちょとEffectuationに興味が湧きてきませんんか?

Effectuationってなに?

effect、effective、effectualは目にするけど、Effectuationってあまり目にしない、と言う意見をよく聞きます。語源はEffectual+ation(引用:英辞郎、〔期待どおりの結果を出すことができて〕有効な、効果的な、適切な、効力のある + ~する行為、~した状態[結果]、~で処理すること)です。単語の意味を説明するのであれば、期待する結果をもたらす効果的な行為・処理、でしょうか?

さて、実際にEffectuationとは何でしょうか? サラスヴァシー教授は研究の過程で、アメリカで現在も著名な経営者としてリストされていて、1社以上の起業経験と10年以上の勤務、および1社以上のIPO経験を持つ熟練起業家に対して意思決定の実験を行い、その結果をもとに次のように述べています。Effectuation is simply working with things already within your control to co-create all kinds of new features without having to predict the future. So it's a way of making decisions under uncertainty.(筆者訳:Effectuationとは、将来を予測することなく、自分のコントロール内にある物を活用してさまざまな新しい事を共同で創り出すことです。つまり、不確実性の下で判断を下す方法です。)と言っています。もう一つ、What is Effectuation?サイトでは「Effectuation is a way of thinking and decision-making that is based on the idea that entrepreneurs create their future by taking action and making things happen. It is a way of thinking that is focused on creating opportunities and solving problems by using the resources that are available to you, rather than making predictions and trying to plan for the future.(筆者訳:Effectuationとは、起業家が行動を起こし、事を成し遂げることによって未来を創り出すという考え方や意思決定の方法です。これは、将来を予測し計画を立てるのではなく、利用可能なリソースを活用して機会を創り出し、問題を解決することに焦点を当てた考え方です。)上記の英文と和訳で太字部分は私の判断で太字にしています。この2つの引用を、もう少し分かりやすく整理すると次のようになると思います。

Effectuationとは、起業家が不確実性の下で利用可能なリソースを活用して、将来を予測するのではなく自分がコントロールできる機会を活用して、新しい未来を共同で作り出す意思決定の方法である。

この文章が示すように、Effectuationとは熟練起業家の意思決定方法(将来を予測するのではなく自分がコントロールする)を取り入れたものであることがよくわかります。そしてあらゆる場面で意思決定をサポートするものが5つの原則と呼ばれるものです。

Causation(コーゼーション)ってなに?

この先Effectuationの話を進めていく上で、どうしても皆さんにご理解いただきたい言葉とその意味があります。それはCausationです。ここで特にご理解いただきたいのは、Causation的な物の考え方です。ここではあえて専門的な言葉を使わず単純な絵で示したいと思います。

Causationモデル(筆者作)

この絵で示したように、Causationとは皆さんよくご存知の方法だと思います。ある新規事業(起業・独立も同様)を立ち上げる際は、無事に新規事業が立ち上がるように(与えられた目的を達成するように)計画書をたくさん作り、承認を得て次のプロセスに移り、また想定できるリスクは初めから避ける方向で、避ける方法も計画書に盛り込み、万全を期して初めてGoが出てプロジェクトメンバーが動き出してプロジェクトが盛り上がっていく方法です。この立ち上げプロジェクトには初めから役割を決められた、事業部長、マーケティングマネージャー、プロダクトマネージャー、製品開発プロジェクトマネージャー、営業マネージャー、プロジェクト専属経理マネージャーなどのマネージャー各位がいて、その下に沢山の実働部隊がいることと思います。更に、各マネージャーの上には担当役員が目を光らせているかもしれません。このような作業プロセスと組織形態で仕事を進めることがCausation的な仕事のやり方とお考え下さい。

CausationとEffectuation

ここではCausationの考えを否定するためにCausationの説明をしているのではなく、Effectuationと比較するために説明している事をご理解下さい。多分、皆さんが旅行プランなどを立てる場合はCausation的な考えで立てる方が多いと思います。つまり旅行プランのように、決めた目的地が突然消えるような不確実性がなく、自分たちが目的地で観光している様子(将来)を予測でき、決めたプランを自分たちの都合で勝手にコントロールできない(目的地での予約を勝手に決める等)ようなものはCausation的な考えが適しています。
一方で、起業・独立や新規事業を立ち上げる際は、この先どうなるかわからない不確実性が高く、将来を予測してもそれが実現するかどうかも分からず、事業立ち上げ後は自分たちで色々とコントロールしないと仕事が回らないケースが多々あると思います。従って、そのようなケースではCausation的なアプローチよりも、Effectuation的にアプローチしたほうが効果的であるとサラスヴァシー教授は述べています。

もう一つ例を上げると、自宅でお腹が空いた時にどういう行動を取るかでCausation的かEffectuation的かを判断することができます。(出前を取るとか、コンビニ弁当を買ってくる、と言う選択肢は無いものとします。)
Causation的:何を食べたいか考え、そのレシピを調べ、食材の金額を計算し、近くのスーパーに買い出しに行き、レシピ通りに調理し、食べる。
Effectuation的:冷蔵庫を調べ、その他食材を調べ、その場で出来そうな料理を考え、チャチャッと作って食べる。

この対象的な2つを上手く表した図を以下に示します。

将来予測 vs. 現状コントロール
(コース資料から筆者が作図)

英語のままで恐縮ですが、PlanとCo-Createだけに注目し、以下のように考えて下さい。
Plan:将来予測が可能(不確実性が低い)、現状コントールが難しい仕事はCausation的に考える。
Co-Create:将来予測が難しく(不確実性が高い)、現状コントロールが可能な仕事はEffectuation的に考える。

この図にはこの他にも深い意味合いがありますので、それは今後のNoteに書いていこうと思います。

5つの原則(概要)

ここで、もう一度Effectuationの説明文を載せておきます。
Effectuationとは、起業家が不確実性の下で利用可能なリソースを活用して、将来を予測するのではなく自分がコントロールできる機会を活用して、新しい未来を共同で作り出す意思決定の方法である。
この言葉をモデル化すると、以下のようになります。

Effectuationモデル
(コース資料を抜粋し筆者が和訳と作図)

次に、この絵がどのようにEffectuationの説明文に対応するのか、キーワードを中心に説明します。
利用可能なリソース:起業手段、知人との会話
自分がコントロールできる機会:ゴール、知人との会話
未来を共同で作り出す:知人との会話、協力者のコミットメント
意思決定:協力者のコミットメント
新しい未来:協力者のコミットメント、新しい手段、新しいゴール
不確実性の下:環境変化をポジティブに受け入れる
このモデルでは、まず自分自身を棚卸しして、自分ができることを決め、知人に「自分ができること」がビジネスになるかどうか会話し、ビジネスになりそうであれば更に別の知人に協力者になってもらえないかどうか会話し、一緒にやってくれると約束できたら再度その知人の棚卸しや新たなゴールを模索し、このループを繰り返してビジネスを進めて行きます。
このようにCausationとは対象的な動きで、まずはできるところからビジネスを始めてみるというのがEffectuation的な仕事のやり方です。
そして、このモデルに5つの原則を当てはめて整理した図が、下記のEffectuationプロセスです。英語のままで恐縮ですが、流れはEffectuationモデルと同じです。

Effectuationプロセス(コース資料から抜粋)

だいぶ前置きが長くなりましたが、5つの原則と呼ばれるものを以下に示します。尚、各原則で使用しているロゴのような図はWhat is Effectuation?から引用しています。

1.Bird-in-Hand

市販の書籍では「手中の鳥の原則」と訳されています。
A bird in the hand is worth two in the bush(筆者訳:手の中の鳥一羽は藪の中の鳥二羽分の価値がある。)と言うことわざを引用しています。
自分の経歴、知っていること、知っている人を棚卸しする原則です。

2.Affordable Loss

市販の書籍では「許容可能な損失の原則」と訳されています。
Bird-in-Handの中から何ができるのか見つけ、それを始めるにあたり、どの程度の損失まで許容できるかを事前に見極める原則です。

3.Crazy Quilt

市販の書籍では「クレイジーキルトの原則」と訳されています。
クレイジーキルトとは、柄や形の異なる布切れを縫い合わせて作ったものです。起業・独立・新規事業立ち上げでも同様に様々な人達と会話することにより顧客になったりパートナーになったりすることをクレイジーキルトに例えて原則としています。

4.Lemonade

市販の書籍では「レモネードの原則」と訳されています。
So when life throws lemons at you, make lemonade(筆者訳:人生において辛いことがあっても、それを受け入れプラス思考に変えて行こう!)と言うことわざを引用しています。英文はコース中にサラスヴァシー教授が言った言葉で、市販の書籍やネットに掲載されているものと少し違いますが、環境変化や不測の事態、または批判などを受けた時、それらを無視したり避けることなく、次のステップに繋げるための経験や意見として受け入れプラス思考に変えていく原則です。

5.Pilot-in-the-Plane

市販の書籍では「飛行機のパイロットの原則」と訳されています。
一度ビジネスが始まれば、それは晴天時の飛行機の自動運転のようには行かず、何かが起きれば自分たちができる範囲でコントロールして切り抜けなければならない、と言う原則です。Effectuationの根底にある原則です。

次回予告

今回はEffectuationの誕生、Effectuationの説明、Causationとの対比、そして5つの原則の概要までを書きました。次回は5つの原則を更に掘り下げて見ようと思います。この5つの原則はEffectuationプロセスのように独立して順次連携していく原則ではなく、それぞれ相互に絡み合ってEffectruationプロセスを形成しています。この原則の相互関係や連携が理解できると、今独立を考えている方の背中をちょっと押して上げる一助になるかもしれません。一般企業で新規事業立ち上げを担当されている方々を納得させるまでの記事にはまだ至っていないかもしれませんが、回を追うごとに一般企業の方々も納得して頂ける材料を持っていますので、楽しみにしていて下さい。

次はこちらの記事をどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?