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スカーレット・オハラに人生狂わされたランキング(男性編)

『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラに関わったために人生狂わされた人達をランキングしてみました。長くなってしまったので、2つに分けての投稿、前回の女性篇に続き今回は男性編をお届けします。

第6位:ジョナス・ウィルカートン

この小説は南北戦争時代のジョージアが舞台なので、奴隷として働く黒人と雇い主の白人が登場します。スカーレットの実家のような裕福な大農園の人々が話の中心になるのですが、白人がみな裕福というわけではありません。プアホワイト(貧乏白人)と呼ばれる、大農園ではなく小規模農園を営む白人や大農園に雇われている白人も存在します。母のエレンが看病に行ったプアホワイトのスラッタリー家で病気を移され死に至った話が描かれています。

ジョナス・ウィルカートンはもスラッタリー家ほどではないもののプアホワイトの一人に挙げられます。もともとオハラ氏が経営する大農園タラの農園監督として働いていました。ところが、スラッタリー家の娘エイミーを孕ませたことで解雇されます。戦後エイミーと結婚した彼は、かつて自分が雇われていたタラを奪い取ろうと画策し、スカーレット達が払えないような膨大な税金を土地にかけさせることに成功します。そして、前の家主を追い出して自分がそこに納まろうとしますが、スカーレットの働きによって阻止されてしまいます。

この人の場合、解雇されたことを逆恨みしてオハラ家をぎゃふんと言わせたかったのでしょうが、逆にぎゃふんと言わされてしまったようです。

第5位:ウィル・ベンティン

映画には登場しない原作のみのキャラクター。タラに流れ着いてきた負傷兵で、この人もやはりプワホワイト。命を救ってもらったお礼に何でもしますと申し出て、男手の乏しいタラの中心的働き手となる。力仕事だけでなく商いのセンスもあり、スカーレットから絶大な信頼を得る。要領よく仕事をこなし、口数も少なく奢らない、しかも智慧もあるとても実践向きな人物です。

看病してくれたキャリーンに思いを寄せていたが、キャリーンが修道院に行きたいと申し出るとそれを尊重し、自分はスエレンと一緒になってタラに残る道を選ぶ。この人の場合、いい方向に人生狂わされたと言える。スカーレットはもともと男性的なところがあるので、この人のようにビジネスライクに付き合うのならいい関係が保てるのかもしれない。人生は愛情だけでないので…そう考えると年を取ったスカーレットも案外幸せに生きていけるんじゃないかと思う。

第4位:チャールズ・ハミルトン

スカーレットの最初の夫。映画では彼女がやけくそになってプロポーズを承諾したように描かれているが、原作では女の見栄以外にもちゃんとチャールズを値踏みして結婚している。財産があることも勿論だが、扱いやすい男であることも見定めていたのではないか。結婚して間もなく戦死してしまい儚い生涯ではあったものの幸せの絶頂を味わえたのはよかったかもしれない。

第3位:フランク・ケネディー

妹スエレンの婚約者で、スカーレットの二度目の夫。タラの税金を払うためにその時お金を持っていたフランクを妹から奪って結婚してしまった。年が離れているのもあって若くて美人のスカーレットにぞっこんで甘やかしている。アトランタでそれなりに平穏に暮らしていたが、スカーレットを襲ってきた黒人を懲らしめようとして、アシュレーやミード先生やヘンリー伯父さん達と暴動に向い、銃殺されてしまう。

私が不思議に思うのは、長い間恋仲だったスエレンに未練を寄せてる様子がうかがえないことだ。勿論気位の高いスカーレットの前でそんな態度は出せないと思うが、むしろ最初からスカーレットを好きだったようにすら見える。おそらく彼はスエレンにもスカーレットにもそれほど激しい恋愛感情は抱いていなかったんじゃないかと思う。若くないこともあるが、このような男性は実は存在する。激しい恋愛などしないが、結婚した以上自分の妻であるから愛する。なので結婚する相手がスエレンであれ、スカーレットであれ彼にはあまり変わらなかったのだと思う。

そして、そういう男が実はいい家庭を作ったりする。世の独身女性達は大恋愛の末に結婚することを夢見ているかと思うが、結婚は最初から冷静であったほうが案外上手くいく。見合い結婚の離婚率が低いのもそういった要因があるからだと思う。愛情は生計を共にしながら育んでいく、そういう考えも一理ある。チャールズといえフランクといえ、スカーレットが偶然とはいえ夫を選別する目を持っていたと私は思う。

第2位:アシュレー・ウィルクス

スカーレットが10代の頃から思いを寄せてる金髪、碧眼、長身のインテリ青年。最初にこの本を読んだ時は私も子どもだったので、レットよりもアシュレーのほうが素敵に思えたけど、読み返す度にレットの株は上がりアシュレーの株は下がってしまう。他人から好かれること、まして異性から好かれることは、行ってみればまあ、幸せなことなのだけど…この人の場合、スカーレットに惚れられてしまったがために正に人生狂わされてしまった。本当にお気の毒なことに。

彼は本来学問やら芸術と触れ合って優雅に暮らしていくことを望んでいたのに、戦争に駆り出され、戦後は慣れない肉体労働をしなければならなかった。それ自体は戦争と言う特殊な状況の下で致し方ない。しかし、戦後の動乱も収まった頃、メラニーと二人でニューヨークに移住しようとしたところ、スカーレットに妨害されてしまう。おまけにやりたくもない製材所の仕事をやらされる羽目になる。

この人は言うなれば優柔不断、そのため自分では気づかないうちにトラブルの種をまいてしまう。ニューヨーク行きの時も頑として言い張ればよかったのに女達の勢いに押されてしまう。そもそも結婚前にスカーレットにきみを愛しているなんてことを、結婚する気もないなら口にしなければよかったのだ。そしたら彼女だって自分に気がないと思ってあきらめただろう。

優柔不断であると同時に真面目で正直であることも災いしている。彼はスカーレットを「女」として好きだった。今風に言えば「寝てみたい女」と言ったところだろう。フランスの宮廷貴族だったら、妻とは普通に結婚して別に愛人を持つこともあっただろうが、彼は真面目な清教徒なので、おそらく自分の彼女への気持ちが性的関心だということすら認めたくなかったのかもしれない。

スカーレットのアシュレーへの気持ちは、例えるなら芸能人やアスリートにまとわりつく「追っかけ」の女の子のようだ。ただ好きなだけで満足せず、相手にも自分の存在をわかってもらいたい、できれば好きになってもらいたいと願いつつ、あきらめずに追っかけていく。ま、ある意味雌の本能で行動している。

もしもスカーレットが醜女だったら、アシュレーもそんなに気にならななかっただろうが、女の魅力を感じるスカーレットが近くにいれば、常に自分の罪の意識と闘わなければならず、それはそれで大変だったのかもしれない。身から出た錆とはいえつくづくお気の毒に思う。

第1位:レット・バトラー

やはり、1位はこの人しかないでしょう。アシュレーがスカーレットから惚れられてしまったために人生狂わされてしまったのとは対照的に、この人はスカーレットに惚れてしまったがゆえに人生狂わされてしまった。彼はスカーレットの前では常に悪漢面して毅然とふるまっていたが、終盤になって本音をポロリと漏らすようになる。

もともと似ているところのある二人なので、レットは誰よりもスカーレットの心の内を見抜いて、常に彼女のためになるよう動いていた。そして誰よりも彼女の能力を認めていた。生まれたばかりの赤ん坊と産後のメラニーを連れてアトランタの戦火を逃れる途中で、馬車を降りた彼をスカーレットは非難したが、彼は彼女ならそれをやり遂げられると信じて手綱を渡したのだ。このあと彼は日頃小ばかにしていた軍隊に、敗戦が決まり切った南軍に入隊するのだが、それこそがこの人の人間味溢れる一面だと言えよう。

情熱的に惚れすぎてしまうのも悲劇なのだろう。一般的に結婚すると惚れた晴れたの感情は遠のいて現実的な生活を重視するようになる。スカーレットの母・エレンは結婚する時昔の恋人の面影を心の奥に抱えていた。エレンの恋人への思いはやはり女学生のような感傷的なものだ。父のオハラ氏は好きな女と一緒になれたならそれで万々歳で、相手が自分をどのくらい好きかなんてさほどこだわらない。女性よりも男性のほうがそういう傾向にあるように思う。しかしレットはスカーレットのアシュレーへの思いを「女学生のような」ものだと理解しつつ、気にしないようなふりをしながら常に気にしている。

きみは自分のことを好きな人間には冷たい
レットがスカーレットに投げた印象的なことばだ。確かに彼女は取り巻き達、過去の二人の夫、メラニーやピティパット叔母さんなど自分に好意を寄せてくれる人達を割と冷たくあしらう。それはある意味甘えている、気を許している証拠なのだ。だから自分は愛しているそぶりを見せなかった…と言っているが…愛しているのなら、信頼されているのなら冷たい態度をとられてもいいのではないか?この冷たい態度は信頼しているからだ、と頭でわかっていても、そうされると不安になってしまう。

スカーレットのアシュレーへの気持ちを「女学生のようなものだ」と揶揄しながら、レット自身もティーンエイジャーのようにスカーレットに惚れていたのではないか。好き過ぎるから、アシュレーのこともいちいちやきもちが焼け、冷たい態度を取られると不安になってしまう。そもそもこのカップルは結婚には向いていなかったのかもしれない。彼はチャールズのように小姓になりきることも出来ず、フランクのように爺やになりきることもできなかった。

レット・バトラーは強く、逞しく、生きていくためには違法行為も平気で行い、街のいかがわしい女とも堂々とつきあう悪漢風に描かれているが、一人の惚れた女の前には実に無力で苦悩に満ちていた。

結び

自分でも思わない方向にレビューが進んでしまいました。結婚や恋愛を夢見る若い人たちには少々ビターだったかもしれませんが、もう自分の子どもが結婚してもいい年齢に達したおばあさんの意見として大目にみてください。
私は現実にレット・バトラーのように誰かを情熱的に愛したことなどないし、そういう人も知らないので、このような人が実際にいるのかどうかわかりませんが、やはりこれは若い女子の見る夢物語の一面もあるのだと思います。マーガレット・ミッチェルさんも激しい恋にあこがれていたのかもしれません。



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