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現代の和菓子はおもしろい

「若者の和菓子離れが進んでいる」とメディアで聞くたびに、「今はこんなに可愛くてユニークでおいしい和菓子がたくさん作られているのに!??????!」と発言者の肩を揺さぶって問いただしたくなる。


「若者の和菓子離れ」をテーマに、インターネットの掲示板では「そもそも自分で買わない」「何にでもあんこが入ってる。そのあんこがおいしくない。バリエーションが少ない」「あんこが甘すぎる」「若者向けの包装じゃない」などの言葉が並んでいた。


あまりに辛辣すぎる。
和菓子屋さんが見たら泣くぞ……。


とはいえ言っていることの意味が全くわからないわけではないのだ。私も和菓子に強い興味をもつまでは和菓子は貰い物で食べる程度、可愛くなくて古めかしい、どこのお店のものを食べても大体一緒だし、違う種類の和菓子を食べても同じ甘さのものが多い。と同じような意見をもっていた。



でも今は違う。

「和菓子離れ」に足を踏み入れている人たち、今和菓子が進化しているのを知っているか。

あんこがただ甘い時代は変わりつつある。和菓子のバリエーションも豊富でお酒やスパイスとの掛け合わせや、ユニークな見た目の菓子も多い。和菓子とは思えない目を引くパッケージデザインのものも増えてきている。



現代の和菓子はおもしろくなってきているのだ。



今回は目新しい和菓子や、普段和菓子と縁遠い人でも食べたくなるようなお菓子を紹介しようと思う。







「餅匠しづく」(大阪)フランボワーズ大福


⁡「お菓子で百薬の長を目指す」を掲げているお店。はっと目を引く一見ショッキングなピンクは実は天然の色。艶やかな見た目とは裏腹にフワンボワーズも白餡も口当たりが軽くて、みずみずしくて、澄んだ味がする。


「花かんざし」(大阪)どら焼きの皮だけ


まさかどら焼きも自分が皮だけ売られる日が来るなんて思ってもいなかっただろうな。いろんなフレーバーがあって、自分が選んだほうじ茶は温めると焙じたての濃いお茶の匂い。すごくもちもちしている。


「TORAYA AN STAND」(東京と横浜)あんケーキレモン、あんほうじ茶

和菓子の老舗とらやが気軽に立ち寄れるコーヒースタンドならぬ、あんスタンドを立ち上げた。名前の通り自慢のあんこを使ったフード&ドリンクがメイン。


甘味は季節によって変わり、自分が訪れた時に食べたのは爽やかなあんケーキレモン。白あんが練りこまれているからか生地はしっとりしていておいしい。香ばしいほうじ茶にあんこで甘さを加えたあんほうじ茶はここに来たら同じのを頼むくらいにお気に入り。


あんこが様々な姿に七変化するあんスタンドは、ぜひあんこに馴染みがない人にも訪れてみてほしい。


「UCHUwagashi」(京都)落雁


○りすとどんぐり(季節商品)
ぷくっと膨らんだ真っ赤なほっぺが可愛くてたまらない。落雁と聞くとお供え用の大きくて食べづらそうなものしか知らなかったけれど、こんなかわいい落雁があるなんておどろきだ。和三盆のやさしい甘さが口の中で溶けていく。


○ochobo mini chai(季節商品)
心がそわそわする不安な時にポッケに忍ばせていたこの子。味わいはスパイスが効いていて本物のチャイそのもの。心をほぐすような、エキゾチックでいてやさしい甘さ。


「甘党茶屋 梅園」(京都)みたらしバターサンド


甘じょっぱ党がだいすきなあのタレがバターサンドに。封を切るとクリームに使われている大吟醸がふわっと香る。昔からあるみたらしだんごがおいしい変化を遂げているバターサンド。


「亀屋良長」(京都)スライスようかん、そんなバナナ


今でこそ色々なメディアに取り上げられているスライスようかんだけど、初めて見たときは本当に衝撃的だった。食パンに乗っけて、トースターの中でグツグツぼこぼこしてるのを見守って、熱々のようかんトーストを食べられるのってすごく楽しいしおいしい。


今の若い人に留まらず大人もなかなか食べる機会のないようかんを手軽に食べられるのは良い試みだと思う。

2020年、日本をはじめ世界が未曾有の事態になった時に「平和な日常に戻れるよう、クスッと笑える菓名を」と作られたのがそんなバナナ。免疫力向上に効果があると言われているバナナを使ったチョコバナナようかん。口に入れた瞬間笑みがこぼれる思い出の夏祭りの味。お菓子で健康を願って、祈りを込める。とても素敵だ。


「越乃雪本舗大和屋」(新潟)あまいおはじき


ときめきで胸が痛い。おさとうの魔法にかけられた、あまいおはじき。光に透かして綺麗だと眺めた子供時代の思い出がそのまんまビンに詰められている。おはじきの遊び方付き(紙)なのがニクくって、大人はときめき過多で倒れてしまうよ。


食べられるおはじきって子供の夢を具現化したようなものだよなあ。


「It Wokashi いとをかし」(東京)大福


最初こそ目新しかったクリームや果物が入った大福も今やごく普通の甘味として受け入れられているように思う。

いとをかしの大福はそんな普通にちょっと新しいエッセンスが加わっている。葡萄×ラム、烏龍×杏仁、苺×ピンクペッパーと組み合わせがユニークでおもしろい。求肥と生クリームの合わせワザ、だいすきです。

奥の小箱がパッケージ。大福が入っているとは思えないスタイリッシュなデザイン。


「桃林堂」(東京)バレン鯛ン

青山の一等地に静かに佇む和菓子屋さんでこんな洒落の効いたたい焼きと出会えるなんて思ってもみなかった。なぜだろう、看板越しに目が合うバレン鯛ンは見てはいけないものを見てしまった気持ちになる。


手のひらサイズの小鯛焼は季節ごとに鯛焼のおめかしパーツが変わるらしい。バレンタイン時期は薔薇で中身はラムレーズンだった。そんなに洒落込んでどこへ行くんだ、鯛子…。

ちなみにたい焼きといえば都内だと吉祥寺の「たいやきそら」、学芸大学の「目黒ひいらぎ」、人形町の「柳家」が好きです。

このお店たちに出会うまで厚めの生地のたい焼きしか知らなかったのですが、初めてパリッ、薄皮、香ばしいの三大ワードが揃うたい焼きと出会いました。好みにもよるだろうけどたい焼きの概念が変わったくらいには好きなたい焼き屋さんです。



「松翁軒」(長崎)チョコラーテ

名入れやメッセージ入りなどお祝い事の時に送られることが多いカステラ。子供ながらに(贅沢ながらも)またカステラかあと少し冷めた目で見ていた時期もあった。


なんとなくどこのを食べても違いを感じず、強いて言うならザラメ付きが好きだなあ程度に思っていた私をある日衝撃が襲った。松翁軒のチョコラーテだ。見た目の可愛さでお土産に選び気を抜いていた。


一口食べると濃厚で豊かなチョコレートが鼻に抜ける。それもそのはず、チョコラーテはチョコパウダーではなくカステラに合うように特注のチョコレートを使用しているらしい。しっとり具合も尋常ではなく、もはやじゅんわりに近い。おいしさが忘れられず、催事で見つけた時はリピート購入した。

高貴なお姫様が描かれたミニサイズもあり。





○古くさくない!知ればかわいい最中たち


何かと地味ポジションで古くさいイメージを持たれがちな最中。確かに進んで最中を買う人を自分の世代では見かけないかもしれない。でも思わず買いたくなるかわいいモナカだってこの世にはあるんだ。ちょっと見ていってはくれないか。

左上から「銀座甘楽(東京)」御餅最中、「いと福(青森)」バナナ最中、「peak(静岡)」富士山もち最中、「五勝手屋本舗(北海道)」雪だるま最中、「甘美堂(青森)」青森りんご最中、「中里」揚最中


銀座甘楽のハチ公を思わせる渋谷店限定の御餅最中。味も見た目もバナナそっくりないと福のバナナ最中。富士山から太陽が覗くなんとも縁起のいいpeakの富士山もち最中。ぽってりとした姿が愛らしい雪国ならではの発想の五勝手屋本舗の雪だるま最中。青森を代表する果物りんごを摸した甘美堂の青森りんご最中。


私が最中を買うようになるきっかけをくれたのは、一目惚れ買いをせざるを得ない最中たちに出会ったからだ。滅多に食べない最中だったけれど、いざ食べてみるとパリッとした皮は香ばしく、どこか懐かしい気持ちにさせられる。ついでにちょっと熱い緑茶なんかが欲しくなったりする。

そして最中とも和菓子とも縁遠い人に勧めたいのが、「中里」の揚最中だ。なんとこの最中、ごま油で揚げているのだ。ごま油で揚げた最中の皮にあんこを挟む…字面だけでよだれが出そう。


噛むとパリッと揚がった最中から香ばしいゴマ油の香り、たちまち口の中であんこの甘さ合わさって至福の味となる。ひとつ危険なのは、ひとつではやめられずパクパクと食べたくなってしまうところ。私はお土産用の分まで食べてしまった(ごめんなさい)


駒込の本店と東京大丸でも購入できるらしいので、ぜひとも一度食べてみてほしい。






今回紹介した目新しい和菓子たちは、実は老舗の和菓子屋さんが手掛けたものが多い。歴史があるから、新しいお店だから…と比べたいわけではなく、今まで築いてきたお菓子への知識や技術を今の世代にも受け入れられるように前向きに変化していく姿勢がすばらしいと思う。


もちろん紡がれてきた歴史を守り、多くの人に愛されてきたお菓子を作り続けるのも容易なことではない。お菓子の数だけ思い出もあるだろう。


でも和菓子の魅力をより多くの人に伝えられるように、新しい発想で時代に合うようなお菓子を生み出したり、気軽に楽しんでもらえるようにカフェスペースを作ったりと、柔軟に変化していく姿は学ぶべき作り手の生き方だと思うのだ。


中には斬新な発想で作られた和菓子を邪道だと思う人もいるかもしれない。


でもそれがなんだと思うのだ。私のように和菓子に興味がなかった人でも親しみやすい発想のお菓子で、かわいいパッケージデザインで目を惹かれて和菓子に興味をもつ人はかなりの人数がいると思う。


敷居を低く、入り口を広く。きっと最初のとっかかりさえ掴めれば和菓子の魅力に気がつく人も徐々に増えていく。


このnoteが和菓子にほんの少しでも興味をもつきっかけになったらとてもうれしい。だって現代の和菓子はおもしろい!


この記事に掲載したお菓子は時期や季節限定で製造されているものもあるため、現在の販売状況はご自身でお確かめいただきますようお願いいたします。


(2023年9月追記)note創作大賞2023への応募作品でしたが、今回は残念ながらご縁がなかった為、期間中は選考の対象とならない為掲載していなかった続編にあたる〈練り切り編〉のリンクも下記に載せておきます。ご興味あれば読んでいただけるとうれしいです。


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