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REVIEW 『MEG ザ・モンスターズ2』サメの持つ強力な美しさを超えたハイパーUMA映画

Size Does Matter.(大きさがモノをいう) ローランド・エメリッヒ監督版『GODOZILLA』予告編

 ローランド・エメリッヒの『GODZILLA/ゴジラ』のティーザー予告編は、当時上映されていた『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』の主役T-REXの化石をゴジラの足が踏み潰すという洒落たモノだった。映画の完成度からすると、エメリッヒ映画は『ロスト・ワールド』に劣ったが、巨大生物がニューヨークに巣食うスケール感には優れたものがあった。
 さて、ここからサメ映画である。もはやアニマル・パニック・ホラーの枠から独立したジャンル映画として独立した感もあるサメ映画はDVDスルーのふざけたものに始まり、ソリッド・シチュエーション・ホラーの変形としての海洋サスペンスまで、実に幅広い世界でサメを暴れさせている。シンプルで美しいスタイルを持つ海の殺し屋はCGIのプログラムが出来上がっているので、自在に活躍することができるようになった。サメ映画の最高峰とされる『JAWS/ジョーズ』のメカニカル・シャークが思うように動かず、3つの黄色い樽を引っ張ることで、スピーディで力強い動きを表現する工夫はもはや不要になってしまった。80年代に全盛を誇ったハリボテのマカロニ・シャークは、レニー・ハーリンの『ディープ・ブルー』の成功によって引退することになった。
 あとはハイ・コンセプト(わかりやすい)ドラマさえあれば、サメ映画は天下を取れる。そこで注目されたのが、スティーヴ・オルテンの書いた小説『MEG メグ』(文庫化で題名を『メガロドン』に変更)である。

メガロドンの顎化石

 白亜紀に存在した最も凶暴な海洋生物カルカロドン・メガロドンがいまも深海に生きていたら? オルテンが『メグ』を執筆中から映画化権を巡ってディズニー、ニューライン、そしてワーナーが争奪戦を繰り広げ、一時はイーライ・ロスが監督するという噂まで流れた(ロスは製作上のすり合わせが合わず辞退)。映画『MEG ザ・モンスター』は最終的にワーナーが映画化、監督はジョン・タートルコープが引き受け、サメ映画としての興行収入が『JAWS/ジョーズ』を超える成績を叩き出した(中国をはじめとするアジア圏で大ヒットした)。原作で描かれたメガロドンの脅威よりも、ジェイソン・ステイサムを主役に置き、人類とメガロドンとの対決に見せ場を持っていった作りは微妙に退屈ではあるが活劇映画としては誰でも喜べる内容となった。
 しかし『MEG ザ・モンスター』が微妙に退屈に感じられるのは、メガロドンという巨大なサメのサイズが、その洗練されたスタイルゆえに“デカく見えない”ところにあった。

『MEG ザ・モンスター』でメガロドンのサイズを誇張して作られたポスター

 全長8メートル、体重3トンの『JAWS/ジョーズ』のメカニカル・シャーク「ブルース」がオルカ号の前に姿を現したときの衝撃の方が“デカさがものをいった”。『MEG ザ・モンスター』の怪物は巨大すぎてクライマックスの海水浴場襲撃を俯瞰で見せたため、緊迫感が逆に削げてしまった。

『MEG ザ・モンスター』ポスター。サブタイトルの
THE TRENCH(海溝)は小説シリーズから取られた

 そこで続編となる『MEG ザ・モンスターズ2』はカルカロドン・メガロドンがまだ生きていた、という枠組みを解体し、海から謎の巨大生物がやってくる(しかも3頭。『ディープ・ブルー3』も3頭の青ザメが並んで背びれを見せて襲ってくるが、今回は“サイズがデカい”)。オープニングの深海でのメグ目撃で監督のベン・ウィートリーは巨大なサメと人間の対比を明確に見せる。この比較こそが『MEG ザ・モンスターズ2』を怪物映画、しかも未確認動物映画として成立させている。自らも60〜70年代のゴジラ映画の熱心なファンだと語るウィートリーは、巨大な生物と人間のサイズの比率をワンカットで見せることで、野性時代の恐怖を表現した。
 ウィートリーが使ったテクニックは、未確認動物に興味のある者ならば馴染みの深い「オーストラリアで撮影された巨大オタマジャクシ」の写真、正確には「フック島の怪物」でフランス人カメラマンのロベール・ル・セレックが使ったトリックに通じる。

ル・セレックの撮影した「フック島の怪物」写真

 ル・セレックの撮影した大海蛇も、ウィートリーが描いた3頭のメガロドンもいずれも30メートルの巨体をほこる。その巨大さを示すため、手前を大きく見せ、対比物として人間(ル・セレックの場合はボート)を置く。この方法を超常現象ウォッチャーの皆神龍太郎は「写真としてカッコいい」ゆえ、いまも人気があると評している。
『MEG ザ・モンスターズ2』ではオープニングでその全盛期〜白亜紀に海岸に現れたT-REXを海に引き摺り込むメグの巨大さが描かれる。実際にはカルカロドン・メガロドンはその巨体ゆえにホホジロザメに機動性で負けてしまうのだが、映画では深海に逃れて生き続けたメガロドンのサイズは観客を圧倒する。3頭のメグのうち1頭は全身傷だらけである。よく見れば、その傷はタコの吸盤によってつけられたものであることがわかる。『MEG ザ・モンスターズ2』は海洋未確認生物の代表であるクラーケンも登場するのである。

NHKが深海で撮影成功したダイオウイカによって、クラーケンはイカと考えられて
いるが、中世に描かれたはタコ(ギガント・オクトパス)である。

 メガロドンが生きている世界ならばクラーケン(しかもイカではなく古式ゆかしき巨大なタコなのだ)もいるし、得体の知れない肉食両生類も出現する。未確認生物ファンにとっては、もう至れり尽くせりなのだ。

『MEG ザ・モンスターズ2』中国公開ポスター。クラーケンの脚が描かれてノリノリである

 そのせいあってか、ステイサムも、彼を取り巻く研究員たちも、そしてメガロドンに食われてしまう中国人の富裕層たちも、印象としては薄くなっている。こればかりは仕方ないだろう。スティーヴ・オルテンが書いた原作もパニックもの以上のドラマはなかったし、とにかく巨大で美しく凶暴な“Eating Machine”をうっとりと観察する1時間56分なのだ(このタイトな時間も素晴らしい)。夏の終わりの超大作サメ映画は海洋怪獣映画として見事な仕上がりを見せた。(田野辺尚人)

MEG ザ・モンスターズ2/MEG2 : THE TRENCH/2023年・米/監督:ベン・ウィートリー/出演:ジェイソン・ステイサム、リー・ビンビン、エイブル・ワナマコック/ワーナー・ブラザース配給/8月25日より全国ロードショー

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