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映画秘宝インタビュー傑作選4 ライアン・レイノルズ『デッドプール2』「今、広く大きな包容力を持つヒーローが必要だ!」R指定のマーベル異端のヒーロー、デッドプールはMCU入りで変化するのか?

取材・文:町山智浩
初出:『映画秘宝』2018年8月号

——『デッドプール2』、全世界で5億ドルの大ヒットおめでとう!
ライアン サンキュー! でも5億ドル全部僕に入るわけじゃないよ(笑)。
——R指定映画としては、『テッド』(2012年)の記録を抜きましたよ!
ライアン やった!
——『テッド』では、さんざん『グリーン・ランタン』(2011年)をネタにされたから、してやったりですね!
ライアン 僕は『テッド』に出る前から、『デットプール』を自分の映画にしようとして映画会社と格闘してたんだ。
——『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009年)で、口無しデッドプールをやらされてから苦節10年ですからね。今回は『LOGAN/ローガン』(2017年)のパロディでウルヴァリンにも復讐したし……。前作もそうでしたが、『デッドプール』はまずドン底に叩き落とされて、いちど死んで、そこから蘇って、失ったものを取り戻す。そこには、俳優ライアン・レイノルズ自身の人生も反映されているように見えます。
ライアン もちろん。僕は自分自身を脚本の段階で物語に混ぜていったんだ。現実と物語の境界線を乗り越えるデッドプールというキャラクターにしかできないことだよね。
——そう。境界線がないんですよね。だから劇中でデットプールが話すことは、キャラのセリフなのか、俳優ライアン・レイノルズのつぶやきなのか判別できない。ところで、今、こうして話しているあなたは、完全にライアンなんですか? それともデッドプールのキャラに入ってるんですか?
ライアン うーん(笑)。どっちでもあるね。デッドプールは完全に僕と無関係なキャラクターではなくて、僕から出てきた僕の一部だから、切り離せないね。
——『テッド』に出たときも思いましたけど、よくそこまで自虐ギャグをやれますよね。普通は過去の失敗って触れたくないものでしょう?
ライアン いや、僕は逆に、なんで自分を笑えないのかな?って思うなあ。僕は昔から、自分で自分を笑っちゃうタイプなんだ。笑われる前に笑っちゃうんだ。
——でも、ジョージ・クルーニーは二度とバットマン演らないでしょう?
ライアン いや、彼はいちばん自分を笑うユーモアのセンスがある俳優だよ。でも、バットマンは自虐ギャグが許されないキャラクターだからさ。
——自虐ギャグができるヒーローって、やっぱりデッドプールしかいませんね。もうひとつ、俳優としてあなたがすごいと思うのは、「世界一セクシーな男性」にも選ばれた美男子なのに、『デッドプール』では素顔をいちども見せないことです。どうやってスターとしてのナルシシズムを克服したんですか?
ライアン (笑)いやー、それは逆だよ。デッドプールのマスクをかぶることで、僕は自由になれる。表現が解放されるんだ。表情のないマスクだから、全身で喜びや悲しみを大きく表現しないとならないからね。パントマイムのマルセル・マルソーや、サイレント映画のバスター・キートンやハロルド・ロイドのように、顔は無表情のまま、身体全部を使ってダイナミックに感情や物語を語って笑わせるんだ。——それに、デッドプールは顔にひどい障害があるのに、決して暗くならず、恋人もそれを気にしない。前作は『美女と野獣』以上に正しく「愛は美醜を超える」というテーマを描いていました。これは同じような障害を持つ人々にとってのレプレゼンテーション(マイノリティーが公の場で発言したり、活躍することで、同じ境遇の人々に勇気を与えること)かと。
ライアン そうなればいいと思うよ!

●見捨てられた子供を助けるだけだ

——『デッドプール2』には、たくさんのレプレゼンテーションがありますね。同性カップル、アフリカ系、インド系、視覚障害、肥満児、SEXワーカー……。世の中の反主流派の人々がみんなデッドプールの仲間になる。ペド野郎以外(笑)。
ライアン うん、「今回はファミリー映画だ」と言ったのはジョークじゃないんだ。そう、この映画のテーマはインクルーシビティ(包容すること)なんだ。デッドプールはヒーローの落ちこぼれで、障害もあって、ドン底や失敗や大事なものを失う辛さを知っているからこそ、アウトサイダーたちを鷹揚に包み込んでいくことができる。劇中のキャラクターだけじゃなくて、観客に話しかけ続けることで、観客をも仲間にしていく。彼の何よりも大きなスーパーパワーはその包容力なんだよ。
——劇中でデッドプール自身が「X-MENは1960年代の反差別運動のメタファーで……」と言いますが、落ちこぼれのデッドプールが実はいちばんX-MENの思想を体現しているわけですね。
ライアン 映画はその時代を映す鏡だからね。世界中で排他的で非寛容な声が高まっている今、広く大きな包容力を持つヒーローが必要なんだ。デッドプールは、地球を救う、みたいな大きな正義を振りかざさない。世間から見捨てられたひとりの子供を助けようとするだけだ。でも、その小さなやさしさが、世界の未来を変えることになるというお話なんだよ。
——FUCKと下ネタを連発し、血みどろで、チンコまで出しちゃう下品で最低の劣等生なのに。
ライアン 正義を掲げた優等生ヒーローじゃなくて、メチャクチャで、ヨゴレで、モラル的にも自由で寛大なデッドプールだからできることさ。
——筋肉モリモリで四角いアゴのマッチョな男らしさの塊のようなヒーローではなくて、デッドプールには性的な曖昧さがありますね。音楽のチョイスも前作のWham!に続いて、セリーヌ・ディオンとかシェールとか、ゲイ・フレンドリーですよね。
ライアン 僕自身が好きな曲と、意外な選曲をねらったんだ。
——デッドプールって、キリストじゃないですか?
ライアン ダーレン・アロノフスキーの映画じゃあるまいし(笑)。なんで?
——どちらもガールフレンドが娼婦で、手のひらに穴を開けられ、人々のために死んで、蘇る。
ライアン なるほど(笑)。そのネタ、よそでしゃべっていい?
——喜んで(笑)。ところで、ディズニーが20世紀フォックスの買収に成功すると、デッドプールはマーベル・シネマティック・ユニバースに吸収されてしまうんですかね? 個人営業の通好みのレストランが大型チェーンに呑み込まれるみたいに。
ライアン デッドプールは僕だけのものじゃないけどね。どうなろうと、僕はデッドプールを優等生にされないように守るつもりさ。それに、『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』(2014年)のジェームズ・ガン監督とは仕事がしてみたいな。
——もし、MCUと合体したら、デッドプールは原作のコミックみたいに、スパイダーマンを口説こうとしますか?
ライアン いや、それはまずいよ! 40のおっさんが男子高校生を追っかけ回したら。
——『君の名前で僕を呼んで』(2017年)みたいにすれば大丈夫ですよ。
ライアン 考えとくよ!(笑)

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