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【舞台挨拶取材】中村優一の初プロデュース映画『YOKOHAMA』が公開。「狂気めいた魅力を持っている」と秋沢健太朗も称賛した中村の人徳が多くの人を巻き込み、狂想の街映画を作り上げた!

取材・文:後藤健児

タイトル写真 フォトセッションにて。(左から)中村優一、秋沢健太朗、鶴嶋乃愛、賀集利樹、高山孟久

 俳優、中村優一がかねてより温めていた企画が親交あるスタッフ、キャストと共についに実現。中村の初企画・プロデュースのオムニバス映画『YOKOHAMA』として完成した。4月20日、東京・シネマート新宿での上映後、中村とキャストたちが登壇し、撮影裏話に花を咲かせた。
『YOKOHAMA』は横浜出身の中村が自身の生まれ育った街への思いを込めた作品だ。しかし、いわゆる”ご当地映画”によくある人情話ではなく、”狂想”をテーマとし、心に闇を抱えた人間たちが横浜の裏ストリートを疾走するダークなサスペンス物語となった。

念願の初プロデュース映画を作り上げた中村優一(於:池袋シネマ・ロサ)

 第一話の金子智明監督「贋作」は妻に出て行かれ、孤独に生活する男・ノボル(賀集利樹)がある日、家の前に包丁を持って現れた謎の女・サエコ(鶴嶋乃愛)と出会ったことをきっかけに、自身の心のうちと対峙するストーリー。山下公園や赤レンガ倉庫、ベイブリッジなどの横浜の美しい名所を背景に、きれいではないかもしれないが正直ではある自らの気持ちと折り合いをつけていく登場人物たちのいびつな人間模様が描かれる。
 鶴嶋は「すごく考えさせられる作品」と言い、「(賀集演じる)ノボルさんと一緒にいる間だけは少しでも癒しだったり、ほのぼのとする時間が、撮影の中でもあったなと感じました」と振り返る。賀集は「(サエコに)振り回されるところは楽しかったです」とコメント。眼前で妻と浮気相手の男が口づけをするシーンについて、賀集はどういう気持ちになればいいのかわからないと思ったそうだが「金子監督を信じました」と演出家へ信頼を寄せ、演じきれたという。温厚だったノボルが垣間見せる狂気の顔について鶴嶋は「ノボルさんはそういうことをするように見えなかったのに、やっとそこで怒りの沸点が上がっちゃったんだろうなと感じて、切なくなりました」とキャラクターの心情を慮った。

ダーク横浜テイストの同居物語

 第二話のヨリコ ジュン監督「横濱の仮族」は一風変わったブラック仕立てのファミリードラマ。数年前に家族を亡くした大富豪の横濱権蔵(高山孟久)が、亡き家族に似た人間たちを誘拐し、自分を殺してくれた者に全財産を譲ると告げる。そこから、仮面家族たちが日常生活を送りながら『逆噴射家族』や『ローズ家の戦争』よろしく家庭内戦争を繰り広げる。巨大な邸宅を舞台に何日もの時間経過や爆破シーンもありつつ、全編ワンカットで撮影するという、まさに狂想なアイデアの撮り方にも驚く。
 舞台挨拶ではワンカット撮影の難しさに話がおよぶ。ワンカット撮影は事前のリハーサルが重要となるが、多忙なキャストたちの事情もあり、一日にも満たない数時間ほどしかリハーサルに費やすことができなかったという。だが、それぞれが撮影ルートを完璧に把握し、見事にやりきった。ワンカット撮影中はスタッフがカメラに写り込まないよう、役者自身でメイクを整える必要があり、その努力に中村は感動したという。横濱権蔵を演じた高山について中村は「あの独特な演技は高山さんにしかできない」と賛辞を送る。高山は「すごくクセのあるキャラクター」と言い、「リハーサルでイメージしていたものから、本番ではまったく変わった」と明かす。本番の直前にヨリコ監督から受けた言葉もあり「狂気度が増した」のだとか。

殺しと隣合わせの団らん風景

 最後を飾る作品「死仮面」は中村自身がメガホンを取った(脚本は作道雄)。仕事にこだわりすぎる気質から落ち目になった特殊造型作家の米村(秋沢健太朗)が、かつて教え子だった世渡り上手の造型作家に追い抜かれたことで、狂気に包まれていく怪談風ミステリードラマ。特殊メイクの特性を活かした仕掛けが面白く、『YOKOHAMA』三作の軸となっている”仮面”という要素を最も強く印象づける。秋沢がジョーカーかペニーワイズばりのマッドピエロメイクで笑みを浮かべる場面は、ジャパニーズ・ピエロヴィランの誕生と呼びたくなる名シーンだ。
 秋沢は過去の主演作でシネマート新宿の舞台挨拶に立った経験があり、古巣に帰ってきたように「お久しぶりです、シネマートさん」と頭を下げる。そのときの共演者だった中村と一緒にサイン会をしたことを懐かしそうに振り返り、「(サインを書きまくったので)新宿のインクが一時期なくなっていた(笑)」と冗談を飛ばして場内を沸かせた。一転して真面目なトーンに変わった秋沢は、仕事への狂える想いから一線を越えてしまう米村のキャラクターに思いを寄せた。「観てくださった方たちみんな、本当はもっとできるのに、という感情がどこかにあると思うんです」と語り、その感情が暴走してしまった米村を「わからなくもない」と役柄にシンクロしていたことを明かす。中村は「アーティストの苦悩が行きすぎた結果、ああいう行動になってしまったけど、ただのモンスターにはしたくなかった」と言う。米村自身の心の危うさや葛藤を描きたいと思っていたそうで、「(秋沢が)表情や目、手の動きとかをひとつ一つ丁寧に演じてくださったのをワンカットずつ見せれたことがうれしかった」と語る。また、「狂気じみたキャラクターはセクシーに見える」と言って、その要素が秋沢自身にあると言うと、秋沢は「色気の消し方は全然わかんないんです(笑)」とおどけるように返す。旧知の仲だからこその掛け合いに客席からはほっこりするような笑いが漏れた。
 中村と秋沢には現場において、無言で通じる気持ちのつながりがあったという。そういった思いを「二人で共有して本番に挑めたのが幸せだった」と語る中村。撮影期間は3日間だというが、秋沢は「撮影は3日間だけど、それだけの関係性じゃなく、出会いから数えてみるとお互いをよく知っている期間があったからこそ撮れた3日間」と話す。以前に中村と共演したとき、一緒に映画を作りたいという気持ちを語り合ってから、多くの人々とのめぐり合わせの末に今日のこの場に至ったことを感慨深さそうに思い返した秋沢は「優一くんが狂気めいた魅力を持っているのかもしれない。それだけ、人を引きつけ、形にして、表に出していく力が」と盟友を讃えた。

狂える特殊造型作家・米沢(演:秋沢健太朗)
入場者に配布されたポストカード。秋沢演じる和製ジョーカーの邪悪な笑みは必見

 中村は三作全体を通して「自分の出身地、横浜をテーマにして作品を作ろうと思ったときに、あたたかい作品のほうがいいのかなと思う部分もあったんですけど、自分が好きなジャンルで挑戦してみようと、”狂想”をテーマに作らせていただいた」と信念に従ったことを明かす。そして最後に「東京1館でも……というところから3年前にスタートして、ご協力いただいた出演者の皆さま、スタッフの皆さまと共に作った映画が全国31館で上映され、皆さんに観ていただいたことがとても幸せです」と感謝の気持ちを伝え、集まった観客は拍手で応えた。

『YOKOHAMA』はエクストリーム配給で4月19日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺他、全国公開中。

※本記事の内容はシネマート新宿上映後の舞台挨拶を取材したものですが、掲載したフォトセッションの写真のみ池袋シネマ・ロサ上映後に撮影されたものです。【本文敬称略】©2024 TerraceSIDE

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