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映画秘宝インタビュー傑作選9 シルヴェスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』ロッキーは究極の楽観主義者。ランボーは究極の悲観主義者。光と影のアメリカン・ヒーローを両方演じることができた俺は、本当にラッキーな俳優だぜ!


取材・文:町山智浩
初出:『映画秘宝』2008年5月号

スタローン How ya doin?(はう ゆ どぅーいん。ささきいさおより低いモゴモゴした声)
−−前作『ランボー3/怒りのアフガン』からなんと20年ぶりの続編ですが、いままでどうしてたんですか?
スタローン ずっと続編を作ろうとしてたけど、実現しなかったんだ。メキシコで麻薬ギャングと人身売買の組織を叩き潰すってのを考えたけど、不法移民についての政治的に微妙な問題を踏むことになるからやめた。首都ワシントンを守って闘うという案もあったけど、裸のランボーは都会には似合わないし。しまいにゃ地球を侵略する宇宙人を迎え撃つなんてアイデアまであったな(笑)。そんな風にランボーの敵を探し続けて、ビルマを見つけた。ミャンマー……、これだ! って。で、やっと企画が動き出したわけだ。
−−冒頭にはミャンマーの軍事独裁政府が、仏教僧の反政府デモに銃撃して死者を出し、日本人カメラマンが射殺されたニュース映像が出てきますね。
スタローン あの事件は撮影した後で起こったんだけど、編集で入れたのさ。企画したのは数年前で、その頃のアメリカでは誰もビルマなんて知らなかった。ミャンマー軍がカレン族という少数民族を弾圧し続けていると知って、うーん、これは『荒野の七人』みたいな映画になるぞと思った。山賊みたいなミャンマー軍に苦しめられる農民を、ランボーが救うんだ。
−−実在の軍事独裁国家を敵役にして、問題なかったんですか?
スタローン 当然、妨害されたよ。ロケはタイのミャンマーとの国境近くで行ったんだが、タイ国内には大勢のミャンマーの秘密警察が入っていて、ドラッグ密売などの非合法活動をしているんだ。しかも国境近くは無法地帯で、誰かが殺されても死体すら出てこない。でも、俺たちは現地で撮影したかった。登場するカレン族の人たちも本物を使いたかった。彼らは難民としてタイに流れてきてるんだ。そうやってキャストを集めていたら、ミャンマーの秘密警察に知られたわけだ。奴らは「あんな映画に協力したら死ぬぞ」って地元の人々を脅迫したので、キャストが集まるまでに1ヶ月もかかったよ。映画にはミャンマー軍のばらまいた地雷で、手や足を失ったカレン族の人々が登場するだろ? 彼らはすべて本物の被害者たちだ。それにミャンマー軍の凶悪な司令官を演じてるサングラスの男、彼はじつはカレン族の反政府ゲリラなんだ(笑)。でも、この映画に出たせいで、ビルマ国内に残してきた家族が逮捕されてしまったらしい。

●50口径の弾丸を食らったらどうなるかをリアルに見せたかった

−−カレン族の人たちはランボーのことを知ってました?
スタローン 驚いたことに知ってたよ! 電気も通ってないジャングルに住んでるのに。
−−もう還暦を過ぎた身で、アクションはキツくなかったですか?
スタローン スタントは全部自分でやったよ。1箇所だけ除いてね。デカい爆弾が爆発して、ランボーが爆風に吹き飛ばされながら山の斜面を駆け下りるシーンは、さすがにやめといた。「こりゃ死ぬな」と思ったんで(笑)。撮影はケガの連続だった。俺以外もね。毒蛇に噛まれたり、転んで竹に突き刺さったり。アメリカから連れていったスタッフやキャストは「もう嫌だ。帰りたい」って泣いてたけど、それが映画にリアル感を出したんだ。言ってやったよ。「まるで戦場みたいだろ? だって戦争映画だからな」って(笑)。ロケが終わって家に帰ったら、カミさんや子供に言ってやればいいんだ。「ジャングルの戦場に比べたら100倍楽な生活をさせてやってんだから、もう二度と父さんに逆らうな」って(笑)。
−−それにしても今回は、すさまじい残虐描写の連続ですね。これは『ランボー3』で打ち立てた「史上最もバイオレントな映画」のギネス記録更新ですか?
スタローン 今回は観客が痛みを感じるようなリアルさを表現したかったんだ。50口径の弾丸を食らったら人間はどうなるか。それをちゃんと見せたかったんだ。たしかに『ランボー3』はヘリコプターを撃ち落としたりして、見栄えは派手だけどリアルじゃなかったろ? マンガみたいで。最初の『ランボー』は地味だがリアルだった。次の『〜怒りの脱出』は、もっと筋肉をつけてスーパーヒーローみたいになった。そこからエスカレートが始まって、『ランボー3』は俺がひとりで800人のソ連兵と戦うハメになった(笑)。このままいったら、もう空でも飛ぶしかないだろ!(笑)最近のアメリカ映画はCGを使ったアメコミのヒーローものばかりになっちまったけど、観客もそれに飽きていて、そろそろ昔のリアルなアクションに戻る時期が来てるんじゃないか。昔、ハリウッドの映画がだんだん甘っちょろい絵空事になった反動で、60年代終わりにリアルな描写の映画が一斉に作られただろ? コッポラの『ゴッドファーザー』とか。あれと同じことが起こりつつあると思うんだ。
−−たしかにリアルなアクション・ヒーローも出てきましたね。ジェイソン・ボーン(マット・デイモン)みたいに。
スタローン あんな若造、ランボーなら朝飯代わりに片付けてやるさ!(笑)でも、ジェイソン・ボーン・シリーズは素晴らしい映画だよ。バカげた筋肉なんかなくても、リアリズムだけで超人的なヒーローを描けるんだと思った。
−−でもランボーなら朝飯前なんでしょ?
スタローン え? 冗談だよ。代わりに『トランスポーター』のヘナチョコ・ハゲをシメてやろうかな(笑)。

●平和を築くには数十年、戦争を始めるのは10分

−−今回はひとりで企画、製作、脚本、監督もこなして、ランボー並みのワンマン・アーミーですね。
スタローン 自分でやるのは楽しいよ。ラクだし。「俺、この演出はどうするんだ?」って自分に聞けばいいだろ? シナリオがダメなら「俺、脚本を書き直せ!」って自分に言えばいい。多重人格みたいだけどな(笑)。シナリオで苦労したのは、ランボーのラブストーリーを組み込もうとしたけど、どう頑張ってもうまく機能しないんで、諦めたことだな。悲しいけどね。
−−『ランボー3』ではアフガンのムジャヒディーン(イスラム・ゲリラ)を支援しましたが、その後、ムジャヒディーンはタリバンやアルカイダになって911テロを起こしました。そのことを後悔してませんか?
スタローン そりゃしてるさ。でも、あの頃はムジャヒディーンが悪い奴になるなんて、誰も知らなかったからしょうがない。『ランボー3』は当時からちょっと困った映画でね、企画したときはレーガン大統領がソ連に対して強硬策を取っていたから「次のランボーの敵はソ連だ!」って言うと、みんな「それ最高!」って盛り上がってたのに、公開されたときはレーガン大統領がソ連と仲直りして、ナンシー夫人がゴルバチョフ総書記と抱き合っちゃうんだもの(笑)。ランボーは米ソ友好に水をさす厄介者にされちゃった。政治は難しいよ(笑)。
−−いまもアメリカはアルカイダやタリバンと戦ってるわけですが、ランボーは責任とってアフガンに行って、オサマ・ビン・ラディンをやっつけてもよかったんじゃないですか?
スタローン それも考えたけどね。でも、ランボーという架空のヒーローがアフガンに行ってあっさり敵を倒してしまったら、実際に戦ってる兵隊さんたちへの侮辱になるからやめた。でも、いまのイラク戦争に対する考えを今回の『〜最後の戦場』の脚本に盛り込もうとしたんだ。ミャンマーに入ろうとする平和活動家を止めようとして、ランボーがこんなセリフを言う。
「この世界で平和とはアクシデントだ。不自然な状態だ。戦争こそが自然なんだ。年寄りどもが戦争を始め、戦うのは若者で、勝者はいない。その中間にいる者はみんな死ぬ。あきらめて帰れ!」
 これはもちろん、イラク戦争で若者たちが死んでいることを言ってるんだが、ちょっと考えてこのセリフはばっさりカットした。だって、ランボーにこんな難しいことが言えるはずがないって!(爆笑)残ったセリフは「帰れ!」のひとことさ(笑)。
−−そのセリフはあなたの考えですか?
スタローン ああ、いまの世界を見れば判る。平和を築くには数十年もかかるけど、それが戦争に突入するまではたった10分しか、かからない。10分だ。

●次回作は『メカニック』のリメイクでブロンソン役!

−−今回はキリスト教の平和活動家が本物の戦場を体験して、神の不在を実感するという物語に見えますが、あなた自身はどんな宗教観をお持ちですか?
スタローン 宗教? うーん……、フィットネス・ジムが俺の宗教だ!(笑)
−−80年代に、同じ筋肉アクション・ヒーローとしてあなたのライバルだったアーノルド・シュワルツェネッガーは現在、カリフォルニア州知事を務めていますが。
スタローン じつはアーニーとは毎週土曜日、カフェローマで一緒に昼飯を食う仲なんだ。あの店はロサンジェルスでは珍しく、中庭で葉巻が吸えるんだよ。アーニーとは昔はライバル同士だったけど、ここ数年は親友だ。あいつは会うたびに俺に「早くランボーの続編作れよ! 観たいよ!」って言ってたな。だから俺は「お前も本当は映画の世界に戻りたいんだろ?」って言ってやるんだ。
−−最後に、『〜最後の戦場』でランボー・シリーズは本当に終わりなんですか?
スタローン ああ。いつも今度で最後だと思って作るしね。でも、続編がないとは言い切れない。ロッキーは完全に終わりだと誓えるけど、ランボーはわからないな。
−−じゃあ、ロッキーとランボーを自分で終わらせて、あなた自身の俳優生活に幕を下ろすわけではないんですね。
スタローン 当たり前だよ! もう次の企画は動いてるさ。『メカニック』(72年)のリメイクだ。チャールズ・ブロンソンがベテランの殺し屋で、彼の弟子がジャン・マイケル・ヴィンセント。ふたりはコンビで殺しを続けるが、弟子はいつしか師匠を殺してナンバーワンになろうとするという話。もちろん俺はブロンソンの役だ! でも、俺は本当にラッキーな俳優人生を送ってきたと思うよ。ロッキーはどん底でも希望とアメリカン・ドリームを信じ続ける、究極の楽観主義者だ。ランボーは、人間にとことん絶望した究極の悲観主義者だ。この光と影のアメリカン・ヒーローを、両方演じることができたんだからね。

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