見出し画像

#57【シェイプ・オブ・ウォーター】ep.1「メインテーマの持つ魅力とその使い方」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#57にあたる内容を再編集したものです。

 下記のアドレスでは投書も受け付けております。
info@eiganimimittake.com

 twitterでも配信情報を随時更新中です。
https://twitter.com/mimittake


【シェイプ・オブ・ウォーターについて】

 2017年公開(日本2018年公開)
 監督:ギレルモ・デル・トロ
 音楽:アレクサンドル・デスプラ

作曲家紹介

 作曲家紹介は#29で紹介しているので、今回は割愛します。

作曲家作品

 真珠の耳飾りの少女
 真夜中のピアニスト(ベルリン国際映画祭銀熊賞(音楽賞)受賞)
 クィーン
 ライラの冒険/黄金の羅針盤
 ベンジャミン・バトン 数奇な人生(アカデミー賞作曲賞ノミネート)
 ニュームーン/トワイライト・サーガ
 ファンタスティック Mr.FOX
 ゴーストライター
 英国王のスピーチ
 ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1、2
 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
 グランド・ブダペスト・ホテル(アカデミー賞作曲賞受賞)
 GODZILLA ゴジラ
 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
 リリーのすべて
 シェイプ・オブ・ウォーター(アカデミー賞作曲賞受賞)
 犬ヶ島
 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

登場人物

 イライザ・エスポジート:
 航空宇宙研究センターで働く清掃員の女性。
 言葉を発することができない。
 
 不思議な生きもの:
 アマゾンで発見された生物。
 
 ジャイルズ:
 イライザの隣人の絵描き。
 
 ゼルダ・フラー:
 イライザの同僚の清掃係。
 
 ロバート・ホフステトラー博士:
 謎の生き物の研究者。
 ソ連のスパイ。
 
 リチャード・ストリックランド:
 謎の生物の警備を務める軍人。
 
 フレミング:
 研究センターの警備主任。
 ストリックランド赴任後は彼の部下になる。
 
 ホイト元帥:
 アメリカ軍の元帥で、ストリックランドの上司。

あらすじ

 1962年、冷戦下のアメリカ。
 口のきけない女性、イライザ・エスポジートさんは、航空宇宙研究センターで清掃員として働いていました。
 彼女の生活は孤独なものでしたが、それでもアパートの隣人ジャイルズさんや同僚のゼルダさんに支えられながら、静かに日々を送っていました。
 ある日、彼女の働く研究センターに新しいメンバーが加わることになりました。
 やってきたのは、いかめしい軍人のリチャード・ストリックランドさんと、研究者のロバート・ホフステトラー博士。
 そして彼らと一緒に、水の詰まった巨大なタンクも運びこまれてきました。
 中には何かの生き物が入っているようでしたが、はっきりとはわかりません。
 気になりはするものの正体は分からずじまいで、結局イライザさんは清掃係としての日々に戻っていくのですが、
 あるときストリックランドさんが手に大怪我をし、病院に運ばれるという事件が起こりました。
 血まみれの現場の清掃を命じられたイライザさんは、ここで再び研究室のタンクを間近に見ることになります。
 そして驚くべきことに、タンクの中に入っていたのは半魚人のような姿をした正体不明の生物だったのです。
 謎の生き物に興味を惹かれたイライザさんは、その後こっそりと研究室に忍び込み、その生き物と交流をはかるようになっていきます。
 ゆで卵を与えたり、音楽を聴かせたりしながら次第に生き物と心を通わせていくイライザさん。
 そしてその生き物も、イライザさんの手話を覚え簡単なコミュニケーションをおこなうという高い知性を見せはじめます。
 しかしその一方で、ストリックランドさんはこの生き物を生体解剖することを計画していました。
 これを知ってショックを受けるイライザさんと、計画に猛反対するホフステトラー博士。しかし博士にも秘密があり、実は彼はソビエトのスパイとして研究センターへと送り込まれていたのです。
 アメリカに研究成果を渡すくらいなら、その前に生物を殺害するようにと指示を受ける博士。
 そしてイライザさんも生き物を救うため、ジャイルズさんの協力を得て救出作戦に乗り出しました。
 こっそりと研究室に忍び込み、生き物の鎖を外そうとするイライザさんですが、運悪くこの現場をホフステトラー博士に見つかってしまいます。
 しかし意外なことに、博士は鎖を外す鍵を渡し、生物の運び出しに協力してくれるのでした。
 その後計画に気づいたストリックランドさんの妨害にもあうのですが、最後にはとうとう無事に生き物を助け出すことに成功したのです。
 救出された生き物はアパートの浴槽に運ばれ、そこでイライザさんとともに暮らすことになりました。
 そしていつしかイライザさんと生き物は互いに愛し合うようになっていきます。
 しかしそんな生活も長くは続きませんでした。
 環境が合わないためか次第に生き物は弱りはじめ、そして失態を犯して、後のないストリックランドさんも、執拗に生き物の行方を追いはじめていたのです。

【メインテーマ】

 この映画、とても不思議な世界観の映画でして、1960年代アメリカの話なのですが、話の主軸は半魚人のような生き物が出てきて、声が出せない主人公イライザさんとのロマンスを描いた作品です。
 この60年代のアメリカと半魚人というみたことのない組み合わせが、なんとも不思議で世界観に引き込まれますね。
 そんな不思議な世界観に引き込んでくれる楽曲が映画冒頭0:37から演奏される、アップルミュージック シェイプ・オブ・ウォーター オリジナル・サウンドトラック 1曲目に収録されている「ザ・シェイプ・オブ・ウォーター」という楽曲です。
 冒頭一部だけですけれどもこのような楽曲でした。
 (演奏)
 まるで水の中にいるかのような浮遊感のある音と、不思議なメロディ、アプぺジオが刻むハーモニーがこの映画を1曲で表していると言っても差し支えないくらい不思議な楽曲です。
 水の中のような浮遊感のある音は、ハープの影響が大きいです。
 これは古の映画音楽から脈々と使われている手法で、水の中といえばハープですね。
 不思議なメロディ、ハーモニーの細かい話は無しにしますが、細かな転調や借用和音を使うことで、世界観を表現していますね。
 この楽曲は映画冒頭でナレーションベースで展開されるシーンで演奏されます。
 オープニングクレジットではメロディがしっかりと演奏されていて、ナレーションが入るとメロディは簡略化されます。
 このあたりの編曲技術はさすがですね。
 ナレーションは映画全体の時代感や内容を表した若干抽象的な表現で、水中の映像も相まってとても美しいですね。
 このメインテーマのメロディが劇中で演奏される機会は3度あります。
 それが、

メインテーマ シーン1

 29:42
 卵の殻を不思議そうに見る謎の生き物とそれを想うバスに乗る主人公のシーンです。
 ここで演奏される楽曲はOSTでは見つからなかったのですが、イライザズ テーマからメインテーマへと移り変わる様に演奏されます。

メインテーマ シーン2

 そして次に
 1:33:40
 イライザさんが謎の生き物を帰らせるための桟橋の下見をしに行ったり、隣人の絵描きが絵を描いたりするシーンです。
 ここで演奏される楽曲は演出上少しわかりにくいですが9曲目に収録されている「ザ サイレント オブ ラブ」です。
 シーンも会話はないですが、主人公の謎の生き物への愛を感じるシーンです。
 タイトルの「ザ サイレント オブ ラブ」にとてもマッチしていますね。
 ではこれらがどの様なタイミングでの演奏だったかを考えていきます。
 一つ目はこの映画の大枠の説明のようなナレーションです。
 これはオープニングクレジットも兼ねていそうなので、一旦置いておきます。

メインテーマ シーン3

 次に卵の殻を見る謎の生物とバスに乗る主人公のシーンです。
 ここでは初めて主人公と謎の生き物が交流をしたシーンとかかっていますね。
 それは24:17頃からのシーンですね。
 ゆで卵を謎の生き物にあげようとするのですが、とても警戒されてしまうシーンですね。
 しかしこれがきっかけとなって主人公と謎の生き物の距離が縮まります。
 音楽的な演出でも、謎の生き物のシーンではイライザさんのテーマが演奏されていることから、主人公のイライザさんのことを考えていることが示唆されていますね。
 そしてバスに乗るイライザさんのシーンではメインテーマが演奏されています。
 このことから、メインテーマが謎の生き物のテーマなのかなといった印象を受けますが、少し早計なので次のシーンも見ていきます。
 イライザさんが謎の生き物を帰らせるための桟橋の下見に行ったり、二人で一緒に寝たりするシーンは、この先別れる未来を暗示する悲しいシーンにも見えます。
 ここでもわからないので、映画全体として見ていきます。
 この映画のイライザさんと謎の生き物のロマンスでは、ほとんどが「イライザズ テーマ」が演奏されています。
 このことから、この映画はイライザさんにかなり比重が置かれていることがわかります。
 ですので、謎の生き物がイライザさんへの気持ちを表すシーンがあまり出てきません。

メインテーマ まとめ

 まとめると二人の出会いと別れを示唆するシーンで演奏されていました。
 出会いでは相手の気持ちや自分の気持ちがわからない時に、別れでは気持ちがわかったのに住む世界が違うことがわかるシーンで演奏されていました。
 ということはメインテーマは悲しいバラードのような使われ方がされていたということになります。
 全体通してもっと演奏されていると思ったのにこの使われ方は意外でしたね。
 少し脱線しますが、サウンドトラックはよく、映画の演奏される順番で曲順が決められることが多いんですが、シェイプ・オブ・ウォーター オリジナル・サウンドトラックが劇中での演奏順で曲順が決まってなさそうです。
 というかかなり違いそうです。
 OSTの2曲目に収録されているのは「ユール ネバー ノー」という楽曲ですが、実際に演奏されるのは4曲目に演奏される「イライザズ テーマ」です。
 これは結構珍しいケースですね。
 ですが、アルバムとして通して聴くととてもいいですね。

【イライザのテーマ】

 先ほども登場したイライザさんのテーマについて見ていこうと思います。
 アップルミュージック シェイプ・オブ・ウォーター オリジナル・サウンドトラック 4曲目に収録されている「イライザズ テーマ」という楽曲がイライザさんのテーマです。
 このようなメロディでしたね。
 (演奏)
 このメロディが演奏される機会は結構あります。
 この楽曲もライトモチーフとしてどの様に機能していたかを見ていこうと思います。

イライザのテーマ シーン1

 まずは
 3:52
 イライザさんの登場シーンです。
 このシーンではイライザさんの生活が描かれているシーンですね。

イライザのテーマ シーン2

 次に
 8:43
 イライザさんと同僚のゼルダさんの仲の良さが描かれるシーンです。
 この楽曲はゼルダさんのテーマというわけではないと思うのですが、2つの楽曲を合わせた様な楽曲でとても美しいですね。
 話すことができないイライザさんの代わりに、ゼルダさんが自分の出来事を話してくれます。
 面倒見がよくて、友達思いのいい同僚ですね。

イライザのテーマ シーン3

 次は
 24:53
 イライザさんが謎の生き物のためにゆで卵を持ってきて、殻を割る音で現れるのを待つシーンです。
 この時にうっすらとメロディが演奏されています。
 ここが初めて直にコミュニケーションをとる機会でしたね。

イライザのテーマ シーン4

 次は
 29:41
 謎の生き物が卵の殻を不思議そうにみるシーンです。
 これは前半でも出てきた、シーンがバスにのる主人公に移った時メインテーマに切り替わるシーンですね。

イライザのテーマ シーン5

 次に
 38:22
 謎の生き物と仲良くなってきたイライザさんが出社が楽しみになっているシーンです。
 演奏が続いたまま、カメラをみつめるイライザさんが出てくるので、逃がすための作戦を思いついたタイミングかもしれませんね。

イライザのテーマ シーン6

 次に
 47:21
 謎の生き物を逃がす作戦を、隣人のジャイルズさんに相談するシーンです。
 イライザさんは本気で逃したいと思っていてその意思をジャイルズさんは最終的に認める形になります。

イライザのテーマ シーン7

 次に
 1:19:54
 逃げ出した謎の生き物を映画館で見つけるシーンです。
 心配していたけど、みつかってホッとした様子のイライザさんで、この時に本当に大切な相手であることを認識したようにも感じますね。

イライザのテーマ シーン8

 つぎに
 1:29:28
 二人でお風呂場を水槽みたいにするシーンです。
 ここはとてもポジティブなバラードという印象です。
 映画館にまで水漏れしてしまってみていてちょっとそわそわするシーンですね。
 その他にもジャイルズさんの怪我が治ったり、頭の毛が生えたことが謎の生き物のおかげであることに気づくシーンも兼ねています。

イライザのテーマ シーン9

 最後に
 1:56:25
 謎の生き物が銃で撃たれたイライザさんの怪我を治して、エラを与えるシーンです。
 ここでイライザさんのテーマが演奏されてから、メインテーマも1フレーズ演奏されるので、どこか深読みしてしまいますね。

イライザのテーマ まとめ

 9シーンでイライザのテーマのメロディが演奏されていました。
 ここで見えてくるのはとてもストレートなイライザさんのライトモチーフとして使われていたということです。
 ポジティブな印象を受けるシーンでイライザさんに関する場面だった場合に演奏されるということですね。
 昨今あまりみかけないストレートなライトモチーフの手法は、もしかしたら1960年代という舞台設定が関わっているのかもしれません。
 当時放映されていたであろう映画やテレビ番組が映画内でよく登場します。
 このことから、原点への回帰も含めたライトモチーフの見直しがあったのかも知れません。
 それと少し脱線しますが、この映画の音楽は少しフランス映画のようなニュアンスを受けます。
 これはアコーディオンの採用や3/4という拍子がそのように聴こえさせている様に感じます。
 それとソースミュージックではフランス人ジャズシンガーソングライターのマデリン・ペルーさんの起用などが要因のひとつかもしれません。
 世界観は完全にアメリカとロシアの冷戦時代で、アメリカの話なのですが映画全体からどことなくフランス映画のような雰囲気を感じるのはそのあたりが関わっているのかも知れませんね。

【エンディング】

 今回はシェイプ・オブ・ウォーターから、メインテーマとイライザさんのライトモチーフについて見ていきました。
 メインテーマは悲しいバラードのような印象を受ける作りが非常に面白いですよね。
 イライザさんのテーマと対比的に使われているようにも感じられるので、そのようにみてみるととてもおもしろいですね。
 イライザさんのライトモチーフではとてもストレートな使われ方がされていました。
 これは意外な気もしますし、なるほどなーという気持ちにもなりますね。
 映画としても音楽で明確に状況を書き分けることで実際に内容の情報整理がとてもしやすくなっています。
 なので、一見難解になってしまいそうなシーンでもわかりやすく見ることができますね。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?