見出し画像

#54【ナイト ミュージアム】ep.2「マウジングの巧みすぎる使い方」

※この記事はPodcast番組「映画にみみったけ」内のエピソード#54にあたる内容を再編集したものです。

 下記のアドレスでは投書も受け付けております。
info@eiganimimittake.com

 twitterでも配信情報を随時更新中です。
https://twitter.com/mimittake


【ナイト ミュージアムについて】

 2006年公開(日本公開2007年)
 
 監督:ショーン・レヴィ
 音楽:アラン・シルヴェストリ

登場人物

 ラリー・デイリー:
 失業中の冴えない男。博物館の警備員に就職する。
 
 ニック(ニッキー)・デイリー
 ラリーの息子。週に一度ラリーの元へ遊びに来る。
 
 エリカ・デイリー:
 ラリーの元妻で、現在はドンと再婚している。
 
 セシル・フレデリックス:
 警備員のリーダー。
 
 ガス:
 警備員の一人で元ボクシング選手。
 
 レジナルド:
 警備員の一人で黒人。
 
 レベッカ・ハットマン:
 博物館の案内員。
 
 マクフィー博士:
 博物館の館長。
 
 
 (展示物)
 セオドア・ルーズベルト:
 第26代合衆国大統領。愛称はテディ。
 
 T-REX(レックス/レクシー):
 ティラノサウルスの化石。
 骨で遊ぶのが好き。
 
 デクスター(猿):
 いたずら好きのサル。
 
 ジェデダイア・スミス:
 西部開拓時代アメリカの探検家のミニチュア。
 オクタヴィウスと仲が悪い。
 
 ガイウス・オクタヴィウス:
 ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスのミニチュア。
 
 アッティラ:
 フン族の暴君。敵対者には容赦がない。
 
 サカジャウィア:
 ルイスとクラーク遠征隊に通訳として同行した、ネイティブアメリカンの娘。
 ガラス越しで声が聞こえない。
 
 アクメンラー:
 古代エジプトの王で、映画オリジナルキャラクター。
 石板の持ち主。
 
 ネアンデルタール人:
 いつも火を起こそうとしている。
 
 モアイ像:
 ガムが好き。
 
 クリストファー・コロンブス:
 コロンブスの銅像。


【前回の振り返り】

 前回はライトモチーフの考え方についてみてきました。
 キャラクターの持つ性質に合わせて決まったテーマを設けるのではく、ジャンルを決めることでキャラクターの性質を表現していたという話でしたね。
 例えばルーズベルト大統領にはヒーロー音楽が書かれていたり、フン族の暴君アッティラさんにはアクションチェイスの音楽が書かれていました。
 しかし大事な場面にはしっかりライトモチーフが用意されているという話もしましたね。
 これはある種の作家性とも言えますね。
 たくさんのライトモチーフを用意するのではなく、大事な場面にのみライトモチーフを与えるという手法ですね。
 毎回違う楽曲を書く大変さはありますが、シーンに合わせた楽曲が書けると考えるとそれだけ精度を高めることができますよね。
 そしてその大事な場面のライトモチーフというのは、親子の絆を感じさせるシーンでした。
 そのシーンでライトモチーフが使われていたという話をしました。

【マウジングの巧みな効果】

 この作品が持つ魅力の大きな部分は映像の面白さです。
 その映像を引き立たせるための手法として有効なのが、ミッキーマウジングと呼ばれる手法です。
 これは#10 アトランティスの回でもやったのですが、この映画でもたくさん使われているので改めて見ていこうと思います。
 まずミッキーマウジングをおさらいすると、映像の動きやエネルギーに合わせて楽器が演奏されるという名前の通りウォルト・ディズニー映画に関連していて、1930年代にマックス・シュタイナーさんによって開拓された手法です。
 この手法は根本的には感情ではなくスクリーン上のアクション、物理的な動きを描写する方法で、例えばキャラクターが手を挙げれば音楽も素早く上行するようなジャスチャーをとったり、キャラクターがつまづいて転んだら音楽は素早く下行したりと、とにかく映像のアクションに合わせて音楽を上行下行させることはもちろん、なにか衝撃が加わるような時は音楽をストップさせて、衝撃に合わせた演奏を行ったりするのもミッキーマウジングの一つです。
 この手法は主に遊び心に溢れたコメディ作品に取り入れられます。
 今作のナイトミュージアムはまさに遊び心に溢れたコメディ作品です。
 取り入れるのに持ってこいの作品ですね。
 さらにミッキーマウジングという手法を効果的に使う方法として映像の面白さに着目させる効果というのもあります。
 それは一種のアトラクションのように機能するので、ワクワクやドキドキを共有するのにもってこいというわけです。
 それが今回はバッチリはまるタイプの作品ですので、それは手法として用いますよね。
 前回のライトモチーフのように使われるジャンルの違いと、このミッキーマウジングの手法はまさに噛み合いが良く、作品の持つ性質をうまく書き分けることに成功していますね。

マウジングのあるシーン1

 例えば
 26:13
 主人公がなんとかフン族からエレベータに乗ることで逃げきり、そのエレベータから出て走り出し、ドアを閉めるシーンまでがミッキーマウジングを使っているシーンです。
 このシーンは走り出しとドアを閉めるシーンで特に印象に残る手法が使われています。
 まずは走り出しではヴァイオリンによる素早いメロディとトライアングルのような金物の打楽器がチーンとなります。
 これは走り出すシーンに合わせて演奏されていますね。
 そしてドアまで走ってドアを閉めた時に演奏はストップします。
 この間はスニークとアクションの中間のような音楽が演奏されます。
 主人公は周りに注意を払います。
 特にフン族や動物など、襲ってくるような展示物から隠れるようにドアまで移動しています。
 それがスニークとアクションの両方のイメージを持つ楽曲が演奏されるきっかけとなるのですが、それがミッキーマウジングの始まりと終わりにうまく噛み合っているんですね。
 これはとてもおもしろいですね。
 ただ映像に合わせて演奏されるという機会もあるので、前後の関係性に着目して演奏されているのはすごいことなんですよね。
 映像に合わせて演奏される機会で言えばこのシーンで使われています。

マウジングのあるシーン2

 32:08
 このシーンでは、ジオラマのマヤ文明に襲われるシーンです。
 スニーク音楽が演奏されていますが、それはゆっくりと近づいてくるマヤ文明のジオラマにかかっている音楽です。
 その後吹き矢が主人公の顔めがけて飛んできます。
 その矢が顔に刺さるタイミングで、木管楽器の早い上行するジェスチャーが演奏されます。
 これはスニーク音楽にかかっている訳ではなく、顔に刺さる矢に向けてのミッキーマウジングになりますね。
 そのため、ひとつ前の例とは少し違う意味を持ちます。
 その後2度目の矢が刺さる時までこの手法が使われますが、大量の吹き矢が飛んできた時にはマヤ文明の襲来として音楽が演奏されます。
 このように大量に用いるのではなく、あくまできっかけとなるシーンでミッキーマウジングという手法が使われているわけです。
 そしてこんな使われ方もします。

マウジングのあるシーン3

 1:00:15
 お猿のデクスターくんに鍵をまた取られてしまうシーンです。
 この前までは、フン族に襲われ動物たちも大暴れして主人公は動物の剥製ゾーンに急いで向かっているシーンです。
 そして剥製ゾーンについたら、猿の鳴き声と共に鍵が盗られていることに主人公が気づいて打楽器と金管楽器で衝撃のような音が演奏されます。
 この時直前までに演奏されていた音楽がストップしますね。
 そしてデクスターくんを追いかける時にまた演奏が始まります。
 しかし前後での音楽の関係性は一致しているのですが、ここで映像に合わせてストップしていることで前後のイメージを変えてます。
 このように走っているシーンと立ち止まってあたりを見渡すシーンという映像のエネルギーが極端に違う時にも、アクションに合わせることで、その前後関係に意味の違いを効果的に与えるという機能もありますね。

 そしてミッキーマウジングが使われているのは博物館内、しかも展示品が動き出す夜に多く使われています。
 これは明確に昼と夜、もしくは展示物が動くか動かないかに大きく起因しています。
 それは日常である昼のシーンにはコメディの要素はそこまで多く描かれていないというのが大きな理由です。
 昼と夜、仕事とプライベート、日常と非日常、のようにこの映画はある種で両極のイメージを共存させる演出が多く使われています。
 昼、プラベート、日常は主人公にとってもあまりいい状況とは呼びづらいものです。
 妻とは別れ、その再婚相手がお金持ち、かたや主人公は仕事に就けず息子からも心配されてしまっています。
 そんな順風満帆とは呼べない主人公の私生活に飛び込んできたのが夜、仕事、非日常である博物館の夜間警備なわけです。
 そのピンチがチャンスに変わり、息子との絆を取り戻したのが今回の映画なわけでして、その非日常にこそコメディとしての要素があるわけですね。
 ある種の裏切りを笑いに変えるという考え方は日本のお笑いにも通じるものを感じますね。
 人間の根本にコメディとしての仕組みみたいなものが備わってるのかもしれませんね。

【間の音楽】

 間の音楽というものに少し着目してみたいと思います。
 これは軽い小噺のようなものなのですが、今回のナイトミュージアムはエンドロールまでで1:44:03という長さなのですが、音楽が演奏される回数は75回もあります。
 そしてOSTは35曲収録されています。
 この場合数が2倍以上違いますよね。
 これは同じ楽曲が何度も演奏されているわけではなく、単純に収録されていないだけなのです。

間の音楽1 状況に合わせた音楽

 例えば前半でお話しした、
 26:13
 主人公はなんとかフン族からエレベータに乗ることで逃げきり、そのエレベータから出て走り出し、ドアを閉めるシーンの音楽は収録されていないわけですね。
 これはあくまで映像に合わせた、SEと音楽のミックスのような立ち位置の音楽となります。
 ですので、重要度で考えると大きいとは呼びづらく、あくまでも状況に合わせた音楽が演奏されているというわけになります。
 この映画にはこのような、シーンとシーンを繋ぐような間の音楽が多く書かれています。
 しかしこの音楽があるとないとでは大違いで、映画内の縁の下の力持ちのような効果があるわけですね。

間の音楽2 バンパーのような音楽

 それともうひとつ間の音楽には使われ方があります。
 32:40
 マヤ文明のジオラマが吹き矢を大量に撃ってきた後、西部開拓時代のジオラマから陽気な音楽がうっすらと聴こえてくるシーンです。
 手に矢を受けた主人公はその矢を痛そうに抜きます。
 その時に演奏されています。
 これはグロッケンシュピールのような軽い音色が演奏されるのですが、この演奏自体はマヤ文明にも西部開拓時代にもかかっていません。
 この両者を繋げるための演奏として機能しています。
 先ほどのエレベータから降りて走って、ドアを閉めるシーンの長さとは大きく違い、たったの2音だけの演奏で場面の切り替えをしています。
 これは主人公が別の何かに興味が移動したことを意味すると共に、大きな音楽的な隔たりのある2曲を繋げる効果としても機能していますね。
 これは少し関係のない余談なんですけれども、この映画が持つコメディの要素が、どこかアメリカのシットコムのようにも感じられます。
 実際にはシットコムの要素があるのかはわからないのですし、僕の主観の部分が大きいのですがテレビシリーズのような軽やかさをどこか感じる作品でして、それがコメディの部分でうまく機能しているようにも感じます。
 もちろんシットコムのような画作りという話ではなく、あくまで音楽によってこうした効果が生まれているのではないのかな、という印象を受けました。
 この作品ではたくさんの展示物が登場するため、ひっきりなしに次から次へと展示物が登場します。
 その際に先ほどのシーンとシーンを繋ぐ間の音楽が多く演奏されているという話でしたが、それこそがシットコムのような効果を与えているんじゃないかと思ったわけですね。
 アメリカのホームドラマやシュチュエーションコメディには、たくさんのシーンの切り替わりが登場してその切り替わりには音楽が用意されています。
 例えば、テレビドラマ「フルハウス」にはたくさんの登場人物が出てきて、シーンが切り替わる際にはバンパーに近い手法が使われていたりします。
 このバンパーというのは、CMの直前と直後の音楽のことで、コマーシャルブレイクの直前には完結感を、コマーシャルブレイク後は番組のスタイルに沿った音楽が演奏されます。
 これはCMから帰ってきて番組が始まったよと知らせる合図のような効果があって、アメリカのテレビシリーズでは様々なアプローチをする戦略が考えられています。
 シットコムではコマーシャルバンパーももちろん使われていますが、シーンの切り替えにもこのような短いフレーズや作品特有の音などが作曲されています。
 このバンパーのような音楽がこの映画に多く登場していることがシットコムのように聴こえる理由に感じました。
 様々なシーンが次から次に登場するこの映画にとって、バンパーがとても効果的に機能します。
 これはアラン・シルベストリさんやショーン・レヴィ監督の采配なのかはわかりませんが、バンパーの持つシーンを切り替える効果とコメディとしてのモチーフが、この映画に独特のコメディ要素として機能しているのではないかなと考えました。
 完全に余談でしたけれども、この間の音楽は本当に多く演奏されていて、聴き分け方も次のシーンで演奏が止まるのでとてもわかりやすいです。
 どこかシットコムの雰囲気を意識して観てみると新たな面白さもみつかるかもしれません。

【エンディング】

 2回に渡って映画「ナイトミュージアム」についてみてきました。
 とても明るい底抜けに楽しめるコメディ映画でしたが、音楽にはとても細やかなこだわりが随所に垣間見えて、エンターテインメントをやり切っているから素晴らしい映画だなと改めて感じました。
 1回目ではライトモチーフの代わりに、登場するキャラクターのジャンルを統一することでそのキャラクターのアイデンティティを確立していたという話をしました。
 そして大事な部分にはしっかりとライトモチーフが用意されていたという話もしました。
 この映画のテーマのひとつでもある家族との絆に関するライトモチーフが映画の方向性に一本の本筋としてあることが、この映画の内容が明快で年齢層を問わず面白いと感じさせる理由の一つになっていたように感じます。
 そして今回はミッキーマウジングとバンパーを使っていたかもしれないという話でした。
 後半は主観強めでお送りしていたのですが、新たな発見ができたと思うと映画音楽のさらなる発展につながるかもしれないので、こういった主観は思いついたら話していきたいなと思いました。
 そしてサブスクリプションではナイトミュージアムの続編であるナイトミュージアム2と今作のナイトミュージアムから一曲に絞って楽曲分析をしているので、ご興味がございましたら初月無料ですので聴いてみてください。
 次回は風の谷のナウシカを2回に渡ってやっていこうと思います。
 初のジブリ作品で非常に楽しみですので、ぜひ聴いてみてください。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
 映画にみみったけ、放送時のパーソナリティはヨシダがお送りいたしました。
 podcastのエピソードは毎週日曜日に配信中ですので、そちらでもまたお会いいたしましょう。
 ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?