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(サッカー)2023.11.3_J2_ヴァンフォーレ甲府×ロアッソ熊本@JITス


introduction

今週末は11/3の文化の日が金曜日となっており、週末に繋がっての3連休。自分は連休初日の11/3がフリーで、日帰りならばある程度自由に予定が組めることになった。しかしサッカーはJ1の試合が無く、ルヴァンカップ決勝も翌日の11/4開催。先月開幕したBリーグも本日の開催は少なく、これは参った・・・と思っていたところ、J2で唯一、「ヴァンフォーレ甲府×ロアッソ熊本」のカードだけが11/3に組まれていた。昨季の天皇杯王者でもある甲府は23/24シーズンのACLに出場しており、来週のミッドウィークに試合が組まれているための過密日程緩和措置だが、これを利用しない手はない。さっそく観戦チケットと中央線特急の往復指定席を予約した。

迎えた当日、天気は快晴。甲府の最高気温は26℃まで上がる予報となっており、初夏を思わせる陽気だ。連休初日ということもあり、下りの中央線特急は「あずさ」「かいじ」共に軒並み満席。自分は臨時で運行される「かいじ97号」での甲府入りだ。既に中央線特急の定期運用からは退役したE257系での運転で、沿線からはシャッターを切る撮り鉄の姿もちらほら。甲府駅に着いてからは特に寄り道せずシャトルバスで小瀬へ向かう。甲府にとっては今日が小瀬でのシーズン最終戦となっており、サポーターの出足も良く、観客数は10,096人の大台に乗った。小瀬名物のスタジアムグルメで小腹を満たしながらキックオフを待つ。

J2リーグの状況を整理しておきたい。リーグは残り2試合となっており、既に1位のFC町田ゼルビア(勝点81)はJ2優勝およびJ1昇格を決めている。自動昇格2枠目は清水エスパルス(同70)、ジュビロ磐田(69)、東京ヴェルディ(69)による三つ巴の争いだ。3〜6位に与えられるJ1昇格プレーオフの出場権争いは、現在5位以降のジェフユナイテッド千葉(64)、ヴァンフォーレ甲府(61)、モンテディオ山形(61)、V・ファーレン長崎(59)あたりにチャンスがある。下位では22位のツエーゲン金沢(33)が21位以下確定となっており、21位の大宮アルディージャ(39)もその可能性が濃厚。J2ライセンスを持たないJ3のFC大阪が最終的に2位以上に入らない限り、この「ボトム2」がJ3降格となる。

甲府にとって今節は前述のとおり、ホーム・小瀬でのシーズン最終戦。プレーオフ圏内の6位に位置する甲府にとっては、残り2試合で勝点6をとればほぼ確実にプレーオフ出場を確保できる状況なだけに、なんとしても勝点3を確保したいところ。前節は残留争いで崖っぷちの状況にある大宮とのアウェイ戦という難しい試合だったが、2-0の無失点で勝ち切ることに成功しており、チーム状態は悪くなさそうだ。4日後にはACLの浙江FC戦を控えているが(開催地はホーム扱いの国立競技場)、スタメンは前節と全く同じラインナップ。基本的にはベストメンバーと考えて問題ない陣容だ。

対するロアッソ熊本は勝点46で16位。昨季はJ1参入プレーオフの決定戦にまで進出する躍進を見せたが、オフに主力選手の大半が流出し、今季は一転して苦しいシーズンとなった。しかし残留ラインぎりぎりのところで踏ん張る戦いを見せ、前節にはJ1自動昇格圏内の2位につける清水をアウェイで3-1と撃破。2試合を残してJ2残留を確定させることに成功した。今季の熊本は天皇杯でJ1勢を次々に撃破して準決勝まで進出。存在感のあるシーズンを送ることができている。今季の残りの公式戦はいわば「消化試合」であるが、ゴール裏には目算で100〜200人程度の熊本サポーターも駆けつけた。来季に繋がる戦いをしたいところだろう。

1st half

先に主導権を握ったのはホームの甲府。後方からボールを繋ぎ、縦に崩す出しどころを窺う。8分、中盤に下りてきたクリスティアーノの収めから味方の縦パスに三平が抜け出し、後方からサポートした宮崎がボールを引き取ってシュートへ持ち込むが、僅かに枠の右に外れてゴールならず。対する熊本は、選手が入れ替わる中でも大木監督が継続して採用してきた3-3-3-1のシステム。真っ向勝負の地上戦で応じるかと思っていたが、こちらの攻撃は裏のスペースを狙ったものが多い。11分には最前線の伊東が収めようとしたこぼれ球に、右サイドから詰めてきた大西がミドルシュートで狙うが、僅かに枠の左に外れてスタジアムがどよめく。

16分、甲府は右CKのこぼれ球をPA外から松田がミドルシュートで狙うと、リフレクトしたボールがゴール右ポストに跳ね返され、惜しくもゴールならず。甲府はゴール前の場面を多く作るが、チャンスを生かせない。20分を過ぎたあたりからは熊本もボールを保持できるようになり、試合は落ち着きを見せる。甲府のポストプレーに対してハードに当たり、簡単に前を向かせないことで、縦パスをつける流れを食い止められるようになってきた。

30分、熊本は甲府GK・渋谷のスローイングミスからボールを回収し、相手陣内で繋ぎながら右サイドからグラウンダーの折り返し。ゴール正面の松岡がダイレクトで撃ったシュートに渋谷は一歩も動けず、一瞬時が止まったような空気がスタンドに立ち込めるが、シュートはゴール右隅をなめるように枠外に外れ、スタンドからは安堵の溜息。熊本は35分にも竹本がハーフスペースの平川へパスを差し込み、折り返しに島村が押し込もうとするが甲府の守備がブロック。10分間程度、熊本のワンサイドゲームとなる。

前半の終盤は甲府ももう一度盛り返し、特に宮崎が右のハーフスペースまで侵入する場面が複数回見られたが、いずれもラストパスは決定機に至らず。熊本もゴール前まで迫る場面があったが、甲府がどうにか跳ね返した。ハイテンションながら両チーム決め手を欠いたまま、前半は0-0で終了。やや甲府が優勢であるが、熊本にも充分チャンスのありそうな内容だった。先制点が命運を分けそうな予感がするが、後半はどうなるだろうか。

2nd half

ハーフタイム明けから両チーム共に選手交代。甲府は宮崎に代えて鳥海、熊本は阿部に代えて大本が入り、それぞれ同じポジションに入る。そして先にチャンスを掴んだのは甲府。50分、中盤からの松本の縦パスに鳥海が反応して守備ラインの裏をとり、GKと1vs1の局面になるが、切り返しからのシュートにブロックが入って決めきれず。56分には自陣から持ち上がった蓮川のパスに長谷川が抜け出してハーフスペースからシュートへ持ち込むが、これもGKの田代が立ちはだかり、ゴールを割らせてもらえない。

甲府の猛攻がしばらく続き、この時間でどうにか1点が欲しい(裏を返せば、ここで1点が取れないと少し嫌なムードが漂ってくる)中で迎えた58分、甲府は中央で三平→鳥海→クリスティアーノと繋ぎ、クリスティアーノが身体を張って収めたボールを松田がエリア外からパワーシュート。GKがキャッチしにくいバウンドする低い弾道のミドルに田代が反応するが、ボールが正面にこぼれ、そこにすかさず詰めた鳥海が押し込んで1-0。後半から途中出場の鳥海が注文どおりの働きを見せ、甲府に貴重な先制点をもたらす。この1点の持つ意味は、途轍もなく大きい。

しかし、甲府にとってはここからのゲームプランも難しい。引き続き人数をかけて追加点を狙いに行くのか、あるいは守備を固めるのか、ピッチ内ではっきりとした意思統一が必要になってくる。少し「揺らいだ」空気を察したか、熊本は67分、ここまで目立った働きの出来ていなかった伊東を下げて粟飯原を1トップに投入。ボールポゼッションを増やして攻勢を強めようとする。応じて甲府もベンチワーク。71分に松田とクリスティアーノを下げ、関口とウタカを投入する2枚替え。サイドの守備を強化しつつ、攻撃は基本的にウタカに任せる狙いだろう。

そしてこの采配がピタリと的中する。75分、甲府はゴールから離れた位置でウタカがドリブルを開始すると、一瞬の加速で裏街道を決めてマーカーを抜き去り、ボックス内へ侵入。そのままシュートへ持ち込み、これは田代がどうにか弾いたものの、こぼれ球がふわりと浮いて落下してきたところをすかさずウタカがダイレクトで叩く。必死の帰陣でカバーに入った熊本の選手を嘲笑うかのようにシュートが転々とゴールイン。ウタカの圧巻の個人スキルにより、甲府が2-0とリードを広げる。熊本に押し込まれかけていた甲府にとっては願ってもない追加点となった。

今日の甲府にとって、この2点のリードは心理的安全性を得るには充分すぎるものだった。79分には左SBの三浦を下げてCBのエドゥアルドマンシャを入れ、代わりに蓮川を左SBにスライドする徹底的な守備固め。粘る熊本も85分にエリア外でフリーとなった粟飯原が絶妙なコントロールショットを狙うが、僅かにゴールマウスの右に外れる。そしてこれがこの試合で最後のチャンスらしいチャンスだった。甲府はこの後もウタカのキープなどで着実に時間を使い、タイムアップのホイッスル。2-0のクリーンシートで熊本を封じ、今シーズン最後の小瀬でのホームゲームに勝利。J1昇格プレーオフ進出にリーチをかける大きな勝点3を手にしている。

impressions

甲府の勝負強さが表れた一戦だった。J1昇格プレーオフ進出を狙うにあたり、順位上優位に立っているとはいえ、残り2試合で確実に勝点6を確保するというのは、当たり前だが簡単なことではない。実のところ、今回の観戦計画を立てた時点では、熊本はJ2残留を確定できずにこの試合を迎える想定でいた。ところが熊本が前節にJ2残留を決めたことでノープレッシャーになり、良い意味で緊張感を保つことのできる甲府が早い時間帯で試合を決めてしまうのではないかという予想を立てていた。だが、蓋を開けてみれば熊本も練度の高いサッカーを見せて甲府に対抗し、見ごたえのある試合展開になったと思う。

甲府は90分トータルのマネジメントで熊本の上を行った。前半から積極的にゲームを動かしに行き、チャンスも作れていたが、熊本の好守もあってなかなか仕留めきれず。このような試合展開では、相手にワンチャンスを決められて最終的に敗戦というケースがありがちだが、今日の甲府は後半の頭から鳥海を投入し、ゲームの流れを切らさなかった。前半のみで交代となった宮崎も組み立ての部分で献身性を発揮し、それほど悪いパフォーマンスには感じなかったが、鳥海がより中央のゴールに近い位置でプレーすることで、前線の怖さが増していたように感じる。

先制を許してもなお粘る熊本を振り切ることができたのも、また交代策による効果だった。サイドの守備を強化しつつ、前線にウタカを残して個の力でなんとかしようという狙いは、今日の試合では効果覿面。ベンチにウタカを置いておくことのできる層の厚さが勝利を決定づける要因になったといえる。今季の甲府はACLに出場することもあって実質2チーム組めるほどの選手層を有しているが、それが結果的に今日のような「決定打が欲しい試合」のアシストに繋がっているのは良いことだ。過密日程の中で選手をやりくりし、昨季J2下位に沈んだチームをプレーオフ圏内にまで押し上げている篠田監督のマネジメント能力も高く評価されるべきだろう。

熊本はゲームプラン自体は間違っていなかった。前半から前に出てきた甲府に対して裏のスペースを虎視眈々と狙っていたし、実際にチャンスも作れていた。しかし後半はベンチワークも含めた総合力で上回ることができなかった。特に攻撃に関しては、ある程度のチャンスまでは作ることができても一発を仕留めることができなかった。熊本は昨季にも現地観戦しており、J1参入プレーオフ決定戦まで進んだ豪華なメンバーを観ているので、どうしてもそれと比較をしてしまう。戦力が入れ替わった中でもJ2残留を勝ち取った大木監督の指導力はさすがであるし、今のチームにも魅力的な選手はいると思うが、年々レベルの上がるJ2で生き残り、更に上へ行くには、昨季の戦力に迫る(あるいは凌ぐ)ような戦力的上積みが必要と感じた。

今日の勝利によって甲府は勝点を「64」に伸ばし、暫定5位に浮上。J1昇格プレーオフ圏内の直下にいる7位・山形に3ポイント差をつけた。ACLの関係で他チームの試合より一足先に試合を行ったため、先に勝点を伸ばしてライバルにプレッシャーを与えることができたのは大きい。来週末に行われる最終節、甲府はその山形とアウェイでの決戦に挑むことになるが、引き分け以上であれば6位以内を確保できそうな公算が高まった。アウェイで「勝利が絶対条件」なのと「引き分けでもOK」なのとでは、世界がまるで違う。まずは明日と明後日に行われる他会場の結果を待つことになるが、勝った上で4日後に行われるACLに注力できるのはメンタル的にも大きいはずだ。

個人的には、久しぶりに都合をつけて他所の試合を観ることができ、良い気分転換になった。気楽に往復できて適度な遠足気分も味わうことができ、かつスタジアムグルメも楽しめるという点で、やはり小瀬はうってつけである。シャトルバスで甲府駅に戻り、事前に確保しておいた「あずさ」の時間まで余裕があったため、舞鶴城公園まで散歩。天守台から夕暮れの甲府の街並みを眺めつつ、来るサッカーシーズンの佳境がどんな結末を迎えるのか、思いを巡らせながら帰途につくことにした。

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