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(サッカー)2023.11.10_地域CL_FC刈谷×ブランデュー弘前FC@めぐみA


introduction

今年も全国地域サッカーチャンピオンズリーグの時期がやってきた。全国9つの地域のリーグ王者と、10月に行われた全国社会人サッカー選手権大会で勝ち残った3チームの計12チームにより、JFL昇格を賭けて争われる国内屈指の過酷な大会である。なおこの書き出しは去年と同じである(笑)。3グループに分かれて行われる1次ラウンドは11/10(金)〜12(日)の3日間連続で消化する日程となっており、大会初日は平日開催。個人的には家庭の都合もあって平日昼間の方が調整がつけやすい。昨年と同じく、予め仕事の休みを入れ、この大会初日を観戦することに決定。今年の1次ラウンドはAグループが宮崎県宮崎市のひなた陸上競技場、Bグループが宮城県宮城郡利府町のみやぎ生協めぐみ野サッカー場、Cグループが滋賀県彦根市の平和堂HATOスタジアムとなっており、日帰りで行ける中からBグループをチョイスした。

朝7時に自宅を出発し、大宮から東北新幹線で仙台へ向かい、在来線に乗り換えて利府へ。東北本線を下って岩切から利府支線に入り、10:20に終点の利府に到着。ここからは路線バスが会場の近くまで走っているが、路線バスだとキックオフまでの到着にギリギリ間に合わない懸念があったため、駅前からタクシーで一気に会場へ移動。そのおかげで、無事キックオフ前に現地到着。試合前に大会プログラムも購入することができた。

今季の地域CLは、大会優勝チームがJFLに自動昇格、準優勝チームがJFLとの入替戦に進出するというレギュレーション。まずは1次ラウンドで1位に入るか、各グループの2位チームのうち最上位に与えられるワイルドカードにより決勝ラウンドに進む必要がある。今回観戦するBグループには、東北1部リーグからブランデュー弘前FC、東海1部リーグからwyvernとFC刈谷、中国リーグから福山シティFCの4チームが入った。10:45キックオフの第1試合は、「FC刈谷×ブランデュー弘前FC」の対戦である。

東海1部リーグから参戦のFC刈谷は、地域CLは2年連続の出場。今季は東海1部で2位に終わり、東海リーグ代表としての出場権は得られなかったが、10月に佐賀で行われた全国社会人サッカー選手権大会で見事に優勝を果たし、いわゆる「全社枠」での地域CL出場を決めた。昨季の地域CLでは1次ラウンドを突破したが、決勝ラウンドで最下位に終わり、悔しい敗退を喫している。昨季から選手も入れ替わっているが、去年の経験を糧にどれだけ戦えるかが注目だ。

対するブランデュー弘前FCは、東北1部王者としての参戦。今季はリーグ最終盤までコバルトーレ女川との優勝争いを繰り広げ、最終節に迎えた女川との直接対決の時点で同勝点というデッドヒートだったが、得失点差で「+84」と優位な立場にあった弘前が直接対決をドローで凌ぎ、2020年シーズン以来3年ぶりのリーグ優勝&地域CL出場を果たしている。リーグ戦で92得点8失点と攻守に圧倒的な実力を示した弘前だが、その実力を全国の舞台でも発揮できるかどうかが課題だ。

第1試合が行われるAグラウンドのピッチはなかなかの荒れ具合で、土が剥き出しになっている箇所が多く、プレーへの影響がありそうだが、両チームがどう対処するかも注目ポイント。平日デーゲームの試合ということもあり、スタンドに集まった観客数は165人と僅少。しかしスタンドには両チーム共にサポーターが駆け付け、手拍子と声でイレブンを盛り上げる。地域CLらしい良い雰囲気の中、注目の大会初戦が幕を開けた。

1st half

前半はミドルゾーンでプレスをかけにいく刈谷と、裏を意識したロングパスを織り交ぜる弘前という好対照の構図となった。ベーシックな4-4-2を敷いて嵌めに行く刈谷に対し、4-1-2-3を採用する弘前は特に右ウイングの平尾が広めにポジションをとってスペースを狙っている。荒れたピッチの影響でどちらもややボール運びに難儀している様子が窺えるが、支配率では刈谷が優勢。11分には左サイドを齋藤がドリブルで切り崩し、中に繋いだところから小沼の狙ったミドルシュートがゴールマウスの上を僅かにかすめるチャンス。刈谷にとっては悪くない入り方といえる。

しかし13分、刈谷はGKの兒島のゴールキックがミスキック気味の低い弾道となり、弘前が中盤で跳ね返すと、裏のスペースにこぼれたボールにFWの高木が反応。刈谷はDFラインの足が止まってレスポンスが遅れ、GKの兒島が慌てて前に出てくるが、鼻先で高木が先に触ってこれをかわし、刈谷のDFがカバーに入るより先に無人のゴールへシュートを流し込んで0-1。弘前が相手のミスからの決定機を確実に決め、大きな先制点を挙げる。

弘前に先制を許してもなお、刈谷はボールを繋いでゴールに迫る姿勢を続けるが、リードを得た弘前は中央を固めてサイドに追いやり、最後は跳ね返して刈谷の攻撃の芽を摘んでいく。25分には刈谷が最終ラインで繋ぐところに板橋が引っ掛けて攻め込み、スローインからのセカンドアタックを再び板橋がカットインしてシュートへ持ち込む決定機。刈谷は29分にFWの一角に入っていた伊藤がアクシデントで小澤に交代。その小澤は35分にゴール前でフリーとなってシュートへ持ち込む場面を迎えるが、ミートしきれず枠の上へシュートを外してしまう。刈谷もある程度形は作れているが、最終ラインのもたつき、負傷交代、そして逸機など、良くない流れが重なる。

前半が終わりごろを迎えた43分、弘前はインサイドの八田が刈谷の最終ラインの跳ね返したボールを拾うと、ドリブルでボックス内に侵入。するとボールを奪うために寄せてくる刈谷の守備を鮮やかな切り返しでスイスイとかわし、ハーフスペースから中へ折り返し。ここに詰めていた高木が押し込んで0-2。良い時間帯で弘前が加点し、リードを広げることに成功する。八田の個人技が生み出した見事な1点だった。これにはリードを許してもなお気勢高く応援を続けていた刈谷のサポーターも少し沈黙する。大事な大会初戦での2点差はちょっと重い。

前半はこのまま0-2で終了。終わってみれば、ボールを支配したのは刈谷だが、ゲームを上手くコントロールしていたのは弘前という印象だ。刈谷は荒れたピッチと上手く付き合うことができずに地上戦でごり押しすることしかできず、危険なエリアでプレーすることができていない。後半にどのような修正を施してくるか。

2nd half

後半に入り、2点を追う刈谷は早い時間帯で1点を返したいはず。どうするか・・・と思いながら観始めた矢先の49分、刈谷は中盤での味方のクリアボールが裏のスペースにこぼれたのを、相手DFが後ろ向きで処理しようとしたところへ背後から迫った野村が追走し、ボックス内でインターセプト。一瞬で局面がGKとの1vs1に変わる。野村がこのチャンスを冷静にゴール左隅へ流し込んで1-2。刈谷にとってなんとしても欲しかった追撃の1点が、この時間帯にいきなり入る。

後半の刈谷は「配給役」の小沼が中盤の底に落ち、小澤を前に残す4-1-4-1のような可変システムに変更。これが功を奏した形で前に出てくるが、弘前も背後のスペースを狙ったシンプルな狙いを継続し、あわよくば追加点を狙う構え。刈谷の押し込む流れは一旦落ち着きを取り戻す。

次のビッグチャンスは66分、刈谷は左サイドで得たFKを小沼がボックス内に蹴り込むと、ゴール前に両チームの選手が雪崩れ込み、ゴール前はスクランブル状態に。そんな中、刈谷がどうにかキープしたボールに詰めた大友がゴール至近の位置からプッシュしようとするが、これをGKの河野が身体を張ってセーブ。刈谷はこのビッグチャンスを生かすことができない。

その後も刈谷は前からボールを引っ掛けに行くアグレッシブな守備で主導権を握る。弘前は一貫した裏狙いでワンチャンスを生かそうとするが、刈谷に傾く流れを変えることができない。70分には守備の中心的存在でもあったCBの成田が足を痛めた様子で交代。疲労も心配になってくる。弘前も必死の守備を続けて試合は終盤に入り、迎えた89分、刈谷は右サイドを強引に突破した齋藤がハーフスペースのやや狭い角度ながらパワーシュート。これをGKが弾き、こぼれた先に詰めていたのは小澤。もはや枠内に蹴り込むだけという場面を迎えたが、小澤がワントラップから右足を振り抜いたシュートは枠の左に外れてしまう。刈谷の選手たちが一斉に膝をつくほどの逸機となり、スタンドの刈谷サポーターからも悲嘆の絶叫が漏れる。

もはやこれまでかと思われた後半追加タイム4分、諦めずに猛攻を仕掛ける刈谷は右CKを獲得。この試合、再三にわたり良いプレースキックを見せていた小沼がゴール正面へボールを送りこむと、中央に空いた僅かなスペースへ潜り込んだDFの井塚がヘディングシュート。これがなんとゴールに突き刺さり2-2。土壇場の土壇場で刈谷がタイスコアに戻す。窮地から一転、起死回生の同点弾に刈谷のベンチもサポーターも大騒ぎとなった。その後も刈谷が逆転を狙う構えを見せたが、ほどなくしてタイムアップのホイッスル。まさかの展開となった大会初戦は、ドローでの決着となった。

impressions

これぞ地域CLというべき、劇的な展開の試合だった。この大会にはそれなりに足を運んで観てきたつもりだが、とんでもない展開、想像を絶する結末を迎える試合が毎度のように続出するので、良い意味で「観戦慣れ」することがない(笑)。そして今日も早速そんな試合を観ることができた。個人的には、決勝ラウンドへの進出経験が無く、実力面で未知数の部分が多い弘前よりも、決勝ラウンド進出経験があり、10月に全社の連戦もこなしている刈谷の方が優位だと思っていたが(思い入れの要素もあるが)、蓋を開けてみれば弘前の予想以上の健闘が光った試合だった。

弘前は前半の戦い方が良かった。各ポジションにボールを運ぶことのできる選手を揃えていた印象だったが、ピッチが荒れていたこともあり、無理に地上戦をせず、空中戦を中心に、刈谷のミス待ちの戦い方を選択。この戦術で刈谷よりも早く試合にアジャストすることができた。1点目の高木の出足の早さなどはその典型だった。その一方で、2点目は八田が相手陣内でドリブルを仕掛けてゴールを切り開く値千金の働き。全体の狙いは統一しつつ、局面に応じて個人の良さも出していく、その匙加減が素晴らしかった。後半は刈谷に早い時間帯で1点を返され、基本的に防戦一方となったが、ワンチャンス狙いの戦い方は妥当だったように思う。最後の最後に追いつかれてのドローは悔しいのではないだろうか。

刈谷は入り方はそんなに悪くなかったが、全体的に後方のもたつきが気になった。1失点目はGKのミスキックはもちろんとしても、守備の対応が少し遅かったし、その後もピッチ状態が悪い中で無理に繋ごうとして相手に引っ掛けられるなど、ちょっとしたミスが相次いだ。結果として、早い時間帯にアジャストした弘前に2点を先行される難しい試合になってしまった。刈谷は地域CLの難しさ、怖さをよく知っているチームだと思っているが、その刈谷ですらこのようなミスが出たのは少し意外だった。

しかし後半の刈谷の粘りは凄まじかった。前半のチームとは全く別物のようなサッカーを見せていた。ゴール前での逸機はあったものの、重心の低いドリブルで運べる小澤の存在感や、セットプレーで見せ場を多く作った小沼のキック精度は見ものだった。前半の4-4-2から、4-1-4-1に近いシステムに変更して中盤からボールを配給しやすくしたのが、流れを変える主要因になったと思う。ただ、1点もののビッグチャンスが後半に2回あっただけに、そこは決めておきたかった。ドローに持ち込んだ底力は称えたいが、「自分たちで試合を難しくしてしまった」という現実は直視すべきだろう。

総合的には、刈谷が後半の勢いで押し切ってもおかしくない内容だったが、弘前の前半の「貯金」でどうにか持ちこたえた試合だったといえる。試合後、刈谷の選手たちはまるで勝ったかのように喜んでいたが、前述したように課題の残る内容であったことは事実。この短期決戦においてはネガティブ要素を引きずるのが一番良くないので、ポジティブ要素に目を向けた方が良いのだろうと理解するが、ピッチ条件への対処も含めてどのように次の試合に臨むのかは気になるところ。逆に「勝点2を失った」形の弘前は、いかにメンタル面で持ち直せるかが明日の課題だ。

この後に行われる第2試合の「福山×wyvern」がどのような結果になるかは分からないが、刈谷と弘前にいずれにとってもグループ内で優位に立つチャンスを失ったことは間違いなく、残り2試合は勝たなければ決勝ラウンド進出は厳しくなる情勢になったといえるだろう。明日行われる第2日は、刈谷が福山と、弘前がwyvernとそれぞれ試合を行う予定になっている。10月の全社で連戦を経験している刈谷と、そもそも全社に出場していない弘前とで命運が分かれるのかも含めて注目といえそうだ。

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