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017 土岐市美濃陶磁歴史館にてギャラリートーク

20204年3月3日、岐阜県土岐市美濃陶磁歴史館にて〈桃山デザイン〉のギャラリートークをしてきました。

〈桃山デザイン〉とは、京都市立芸術大学において開講している「陶磁器工芸史」の講義の中で、あまりにも嬉しそうに桃山陶器の話をすることに端を発します。本学では、木曜の午後の時間をぶち抜きで学生たちが聞きたいレクチャーや演習などを提案して行う「テーマ演習」という科目があります。15回×2コマを桃山陶器だらけで学びたいという奇特な学生により「考古楽(桃山デザイン)」というカリキュラムが2020年度から2021年度春セメスターまで120回行われることになりました。
そこでは、毎週毎週ひたすら私が桃山陶器に対する偏った愛情に満ちた話をする傍ら、学生たちはゆるくて可愛い桃山陶器を自由にいじるとういうことが繰り返され、期末の課題は桃山陶器にインスパイアされた作品を創作するというものでした。提出された課題には平面・立体作品に加えてアニメーションもありました(実は履修していないけれど勝手に演習に参加し、課題を提出した学生が幾人かいました…)。

真面目な話としては、この演習には2つの狙いがありました。
茶道具や文化財となって気軽にいじってはいけない存在になっている桃山陶器を、出土品に直接触れることをはじめ親しんでもらうこと。現在の桃山陶器は「文化」を学ぶ対象として存在していますが、当時は非常にポップで心浮き立つようなものであったに違いないのです。時代背景を学び、ものに触れることによって、学生たちに「楽しみ」を感じてもらいたかったのです。言葉を変えると、「学び」で埋め尽くされた文化財とは異なる価値を与える(自由に遊んでもいい)「余白」を提供したということになります。
また、文化財の価値論という視点からは、バラバラになって出土した陶片には大きな価値が与えられず、収蔵庫の隅に山積みにされるという問題に光をあてたいという思いもありました。存在しない部分から想像することから、歴史資料とは異なる価値づけ(新たな活用の形)を試みたいということです。
これらの狙いを知ってか知らずか、学生たちは旺盛な好奇心と創作意欲をもって、私が想定した以上の熱量でいにしえの陶工たちと向き合ってくれました。

提出された課題(作品)はいずれも興味深く、ここで終わってしまうのは勿体無いと考え、何らかの形で学外の方々と繋がっていければいいなと考えるようになりました。多くの方々のご理解とご協力を得て、実物の桃山陶器と学生たちの作品をコラボレーションした展覧会を企画し、2021年冬には京都市考古資料館、2022年夏には福井県陶芸館、2023年春には京都文化博物館において「桃山デザイン」を冠した展示を行うことができました。桃山デザインの演習自体は2021年度春セメスターで終了したのですが、展覧会のたびに作品が増えていくという不思議なこともありました。

京都文化博物館の展示を終えた時点で、大学での演習自体も終わっているし、この時点で大学を卒業・修了した人も増えてきたこともあり、そろそろ終わりかなぁと思っていました。また、関西人としては、受けたネタはもう一回敢えてしつこく繰り返すとはいえ、3回やったら既にしつこいと感じてもいたので、学生たちにも「これで終わりにしますから」と預かっていた作品を返却しはじめていました。
そんな最中、「次の桃山デザインはどこでやるのですか?」「まだ行ってないところがありますよね」といった声をかけられたのです。魔がさしたとでも言うのでしょうか。文化財関係者が見ているであろうSNSに「桃山デザインで遊んでみたいという方おられませんか」という独り言を全世界に向けて発信してしまったのです。
知人からは「撒き餌しましたね(笑)」と言われました…

それから程なく、数多の桃山陶器をつくり出した元屋敷窯と一体の関係にある土岐市美濃陶磁歴史館の学芸員さんから「桃山デザインとコラボしたいのですけれど…」という電話が入ったのです。
桃山陶器をこよなく愛する私にとっては土岐市美濃陶磁歴史館はいわば聖地。毎年という訳ではないですが、巡礼を繰り返しているところです。願ってもないお話しで、詳しく聞きもせず二つ返事をしました。お話を聞いてみると2024年3月31日をもって老朽化のためリニューアルされるのですが、その最後の展示として〈挑戦!重要文化財2000点並べてみる〉を開催し、その一角に展示させていただけるということでした。聖地の節目の展示に参画できるとなると興奮がおさまりませんでした。
ただ、展示スペースの関係で背の高い作品などは並べることができないことは非常に残念で、連れて行けなかった作品には申し訳なかったです。


ともあれ、ギャラリートーク当日は、出展した作家の中から大西由羽、北浦雄大、倉澤佑佳、山口汐璃乃さんの4名に来てもらい、楽しげに話をしてもらいました。一通りの作品紹介の後、お客さんたちともコミュニケーションをとってもらい、いつもとは違う話し声が聞こえる博物館になっていました。このような雰囲気でよかったのかどうかわかりませんが、心なしかみなさんがニコニコされているような気がしました(あくまでも個人の感想です)。学生たちもみなさんに親切にしていただいてとても喜んでいました。

さて、「桃山デザイン」の展示企画は、これで4回させていただいたのですが、よく考えてみれば桃山陶器に関わりの深い場所はまだまだありそうです。実は、今回の企画を詰めている間に、三重県の方からお話しいただいており、2025年度に開催できればいいなと考えているところです。
そんなことで、求めていただけるのであれば、「桃山デザイン」に連れて行ってもらって旅をしようかなと思っているところです。ご興味のある方、何卒よろしくお願いいたします。

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