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【研究報告書】仕事好きなママ300人を調査したら、育児と仕事の両立方法を科学することはできるのか!?

2021年4月下旬。18時間の戦いを経て、第一子となる息子を出産しました。

それまでお腹の膨らみでしかなかった存在が、自分の腕の中でか弱い泣き声をあげる生き物に代わった瞬間、
「今、私の人生、大きく変わったんだな・・・」
と、胸がいっぱいになりました。

不安や困惑を、嬉しさと愛おしさが包み込んでくれました。そして、自分のなかの優先順位がガラガラポンっと変わり、これからは、私の判断や言動のすべてが「この子のため」になるんだ、という気持ちが胸にストンとおちました。不思議だけど幸せな感覚でした。

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その2週間ほど前の、4月上旬。
新しい働き方LABでは、新しい働き方を実験・研究するコミュニティである「研究員制度」を立ち上げました。そして、私自身も一研究員としてこんな「実験」を行うことを宣言しました↓

育児と仕事の両立という未来を前にして、正直不安しかなかった私。
仕事が大好きでたまらない私に子どもができたとき、ちゃんと両方をこなすことはできるのだろうか?自分の価値観はどれくらい変わってしまうのだろうか?
そこで、「ワーママ生態調査」を通じ、先輩ワーママさんたちから色々学ぼうと、この実験をスタートしたわけです。

本noteは、それからの半年間での活動内容を振り返り、気づきや学びをありのままにご報告することを目的としています。
ワーママの方、ワーママになる方、ワーママと一緒に働いている方やご家族の方、そして新しい働き方LABの研究員の皆様に読んでいただけると嬉しいです。
※「ワーママ生態調査」の詳しいレポートはまた後日、別の形でもまとめる予定です。

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目的と背景

この調査の目的は、自分自身が一番不安に思っていたことでもある、

・仕事と育児の両立を上手くできている人とそうでない人の違いって何だろう?どんな秘訣があるんだろう?
・出産・育児前後で、自分のキャリア観や仕事への想いは実際にどれくらい変化しちゃうんだろう?

という疑問について明らかにすること、としました。それが、私だけでなく他のワーママさんたちの力になるはずだから。

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検証したかったこと

本調査で検証しようとしたのはこちらの5つ:

【育児と仕事の「両立満足度」とその要因について】
1.仕事が好きなママたちは、自身が育児と仕事を両立できていると思っているのか?(=「両立満足度」と呼ぶ)
2.家庭環境、職場環境、仕事内容、キャリア観などの要因のうち、両立満足度にもっとも影響を与えているのは何か?
3.両立満足度の高いママたちに共通している要素とは何か?

【出産・育児前後の変化について】
4.出産・育児を経て、ママたちのキャリア観は実際にどこまで、どのように変化するのか?
5.結果として、自身の仕事へのコミット度合い、出せる成果やアウトプットの量は、どこまで、どのように変化するのか?

活動の概要

4月から活動をしてみて、気づいたことがありました。
それは、自分自身が生まれたばかりの子どもを育てながら本実験を進めるということ自体が、まさに仕事と育児を両立するワーママの「プレ体験」みたいなものだということです。

つまりこの半年間の活動では、1)他のワーママさんを調査することによる学びに加えて、2)自分自身の「プレ体験」を通じて得られた学びも同時に得ることができたわけです。本報告書でも両方の考察をまとめていきます。

で、実際にこの半年間何をしたのか。

今回行いたかった調査は2種類ありました。アンケート調査とインタビュー取材です。
ですが、実は結論からいうと、目標を100%クリアすることはできませんでした。

◆アンケート調査は、300名の目標に対して実績が323名。
(展開したアンケートはこちら
◆インタビュー取材は、20名の目標に対して実績が5名。

アンケート調査は目標を上回ることができたものの、インタビュー取材はたったの25%しか達成できなかったのです。
新しい働き方LABの所長という立場上、なんとしてでも目標を達成しなければならなかったのですが…。とても悔しいし、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

ですが、そうなってしまった理由は明白でした。その理由こそが、実は、「ワーママのリアル」でした。
研究員制度の「実験」の本質は、結果がどうなるかだけでなく、その過程でどんな学びがあったのか、というところにあります。なので、目標を達成できなかった反省はしっかりと胸に刻みつつ、達成できなかった理由についても本noteの後半で向き合っていきます。

ちなみに、調査の数としては未達でしたが、内容としてはものすごい示唆に富んだ調査となりました。特にアンケートでは、記述式の質問に長文で回答してくださる方が多く、「これからママになる方々に同じ辛い思いをしてほしくない」という気持ちが表れていました。
ご協力いただいた323名のワーママの皆様に、心から感謝しています!

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結論:ワーママ調査から得られた学び

「仕事好きなママ300人を調査したら、育児と仕事の両立方法を科学することはできるのか!?」というタイトルに対する結論としては、YESです。
両立のための秘訣を探るだけでなく、両立状況の深掘り、そしてワーママの価値観の深掘りも行い、気づきの多い調査となりました。

それでは、ワーママ調査を通じて検証したかった5つの事項それぞれについて振り返っていきます。

◆1.仕事が好きなママたちは、自身が育児と仕事を両立できていると思っているのか?

「両立満足レベル」および「ストレスレベル」を1~5点で評価してもらいました。両立満足レベルについて4点・5点を選んだ人は46.1%、ストレスレベルについて4点・5点を選んだ人は59.8%。平均スコアでいうと、満足レベルが平均3.3点、ストレスレベルが3.6点。
「両立できているかどうかでいうとできているけれど、毎日が壮絶なバトルです」というコメントに表れているように、「なんとかこなしているけれどストレスはすごい」という方が多そうです。

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もう少し深くみていくと、「もっと自分の時間がほしい」という方が86%、「もっと育児に時間を割きたい」方が76%と非常に多いのに対して、「もっと仕事したい」方は55%と比較的少ない。これは私にとっては少し意外でした。ワーママの皆さんは仕事を犠牲にしているという印象が強かったのですが、どちらかというと犠牲になっているのは自分の時間や育児の時間だったのですね。ただしいずれにしても過半数であることから、やはりとにかく「時間がもっとほしい」というニーズが明白です。

◆2.家庭環境、職場環境、仕事内容、キャリア観などの要因のうち、「両立満足度」にもっとも影響を与えているのは何か?

ここの調査方法としては、「パートナーは協力的か?」など合計22の項目に関する回答と両立満足度スコアとがどの程度相関しているかを分析(相関係数を算出)し、もっとも相関の強い要因を探りました。その結果、以下の項目が重要であるという結果が見えてきました:

・仕事の内容・環境・制度に満足している(相関係数-0.43)
・仕事内容をある程度自分でコントロールすることができる(-0.41)
・勤務時間や場所を柔軟に調整することが可能だ(-0.39)

反対に、以下の項目についてはほとんど相関がありませんでした:

・本当はもっと仕事に時間を割きたい(0.04)
・両親・義両親が同居している、もしくは気軽に行き来できる距離に住んでいる(0.05)
・現在(もしくは両立当時)の勤務時間 (0.05)

上記から見えてくることとしては、やはり仕事の内容および柔軟性が鍵なのではないかということ。

また、興味深いと思ったのが、「パートナーはご自身の仕事について理解・応援してくれている」(-0.32)のほうが「13.3. パートナーは育児に協力的だ」(-0.19)よりも相関が強い。つまり、育児に協力してくれること以上に、仕事に関する理解や応援のほうが重要なのかもしれない。これは、私自身の実感値としても納得感がありますし、大切な気づきだと思いました。

◆3.両立満足度の高いママたちに共通している要素とは何か?

上記2で見出した結果に加えて、定性コメントからも非常に多くの学びを得られました。

多かったのは:

・なるべく家事の負担を減らす(便利家電をフル活用する、最低限の家事しかやらない、夫婦間で分担する、等)
・お金で時間を買う(家事代行、ミールキット、宅配等)
・夫婦のコミュニケーションをしっかり取る(家事育児の分担はもちろん、予定管理や未来のことまで)
・マインドセットとして、完璧を目指さない、自分にも家族にも期待しすぎない。(家が汚くても家族が健康ならOK!)

という4点。

ひとつひとつは真新しいものには見えないかもしれませんが、案外実践できていないワーママさんや夫婦も多いのではないでしょうか。
「家事代行は高そう」
「夫婦で一応コミュニケーション取れてると思う…」
「家電もなんだかんだ出産前から特に変えていない」
私も、そんな風に思ってました。でもこのアンケート結果をみて、出産を機にこれまでの生活方式にしっかり線引きをして、夫婦で意識的に新しい生活のありかたを設計していくことが重要だと感じました。

ちなみに「お金で解決」する方法については、私の予想以上に利用者が多かったです。
・宅配サービスやミールキット:39%
・家事代行:21%
・ベビーシッター:18%
日本には「なるべく自分で家事も子育てもしなきゃ」という風習がまだまだありますが、もっと気軽に外注できるものはして良いんだということに気づかせてもらいました。

◆4.出産・育児を経て、ママたちのキャリア観は実際にどこまで、どのように変化するのか?

「出産前後で、ご自身のキャリア観・人生観については変化があったと思いますか」という質問に対して、「とても変化した」と回答した人はなんと53.9%。「まあまあ変化した」と合わせると87.6%もの方が変化を感じているわけです。やはりそれだけ出産というのは人生の大きなターニングポイントなんですね。

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では、どんな変化なのか。出産前後のキャリア重視度の比較をしてみました。

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出産前は最も多いのが「キャリア志向(プライベートも大事だが、仕事を優先しがち)」(43%が)であったのに対して、出産後は半分近くが「バランサー(両方同じくらい重視)」(48%)になっています。やはり、多くの方にとってプライベート(≒育児)の重要度が上がっていますね。

面白いのは、実は13%の方については、むしろ出産後によりキャリア重視になったという回答でした。

自分が子に最低限与えたい経験を考えたときに、お金を稼ぎたいと考えるようになりました。また、時間の価値が上がったので、つまらない仕事に時間を投下するよりも、生産性や収入の高い仕事につきたいです。
子育てしてると将来のことを考えパートナーに依存せず経済的自立が必須だと考えるようになった。
第1子出産後、半年くらい仕事を休んでいたのですが、その期間がつらかった(そのことに自分自身驚きました)。自分にとって、妻でもない・母でもない時間がとても重要だと気づき、仕事(もしくは何らかの自分が輝くアクションなど)を少しずつでいいから日常に取り入れたいと思うようになりました。

など、子どもがいるからこそ仕事へのモチベーションが上がったという声や、むしろ子育て以外の時間が必要だったという声をみて、なるほどそういう変化もあるのかと驚きました。

また、仕事の意義を考え直すキッカケになった方も多かったようです。

子供を保育園に預けるようになって、「こんな小さい子どもを預けてまで、やりたい仕事だっけ?」という問いが出てきた。
キャリア選択=生き方の選択だと強く感じた。仕事はつらいもの、我慢するものという概念がなくなり、常に自分が幸せでいることが大事だと思うようになった。
仕事と育児を二項対立的に捉えるのではなく、育児もキャリア・仕事も子により良い未来を手渡すためのもの、という感じで、ワークアズライフ的価値観が強化されている気がします。
産前は自分の時間の価値といったら給与を時給に換算した値段くらいしか思いつきませんでしたが、産後はその時間価値が高騰してプライスレスなもの、最重要資本と考えるようになりました。そして、その時間をこどもを預けてまで捻出して働くからには、本当に意義を感じられる仕事しかしたくないと思うようになりました。

出産が、自身にとっての「仕事」の意味を考え直す機会になったというのは、意外な(嬉しい)発見でした。出産を機に、自分にとってより意義のある仕事を探すことができたら素晴らしいですよね。

◆5.結果として、自身の仕事へのコミット度合い、出せる成果やアウトプットの量は、どこまで、どのように変化するのか?

振り返ってみて、この検証事項については、適切な設問を設計できていなかったなと反省。成果やアウトプットに関して明確に問うべきでした…。追加調査を何らかの形でできるよう検討します。

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考察:自身の「プレ体験」から得られた学び

育児と研究を両立するという自分自身のワーママプレ体験から学んだことは主に三つありました。

◆ひとつは、想像以上に自分の時間が取れないということ。

もちろんそれなりのハードさは覚悟してました。でも、自分が思っていた以上にとにかく時間確保が難しかった。
いや、正確にいうと、時間自体はなくはないんです。授乳している最中とか、子どもが寝ているときとか。でもそれらは、邪魔されることもなく自由に思考できる時間ではない。その時間がいつ訪れるのかもいつ終わるのかも分からない。自分のコントロール下にない時間なんです。(しかも私の子どもは、昼間まったく寝ないモンスターでした・・・)
また、「子育て」以外にも「家事」の負担が爆増するというのも意外な盲点。さらに、子どもの健康が自分の健康にかかっているわけです。本当だったら夜更かしして作業したいところだけれど早めに寝ないと体がもたない…
そんなこんなで、頑張っているつもりなのに気づいたら作業時間を取れずに一日が終わる、という日々の連続でした。

二つめの学びは、子どもと過ごす時間がいかに貴重でかけがいのないものなのかということ。

子どもができることは、もちろん楽しみではあったものの、心のどこかで「仕事を我慢しないといけなくなるんだよなー」という不安がありました。
でも実際に産んでみるととにかく可愛すぎて。四六時中一緒にいても、飽きるどころかどんどん愛おしさが増していくんです。そうなると「仕事を我慢しないといけない」というよりは、むしろ「仕事するためには子育てを我慢しないといけない」という感覚が芽生えてしまいました。
それは、仕事人間だった私にとってはかなり衝撃的な価値観の変化です。でもその変化を受け止めて、「今の自分にとって一番優先すべきなのは子育てだ」ということを明確に意思決定し、そのうえでできる範囲で研究をしようと決めました。
とはいえ、子育てに専念していては研究が一切進みません。そこで週に2日は家族に預けるなどして、自分の納得できるバランスを追求しながら活動をつづけていきました。

三つめの学びは、「子育て」って、どの親も大体同じような道を通るものだと思っていたけれど、実際は親・子によってぜんっぜん違う体験だということ。

例えば、私は、上記のようにほぼ自分の時間を確保できない状況でしたが、一方で「暇すぎて起業しちゃった」という衝撃的なママ友もいます。また、私の息子は母乳以外を受け付けてくれず、離れられる時間は最大3時間でしたが、朝から晩まで保育園に預けても大丈夫だという赤ちゃんももちろんいるわけです。
大変さも、考え方も多種多様なわけだから、「ワーママはこういうものだよね」と一括りにはできない。だから例えば会社の制度や、ワーママとの付き合い方・働き方を考えるうえでも、個々人の事情に寄り添う必要があるなと改めて感じます。

上記が、私が調査の目標を達成できなかった理由でもあります。時間が取れなかったことと、子育てを何より優先したいという意思決定をしたこと。その結果、インタビュー取材を当初想定していたほど実施できませんでした。

言い訳だといえばそうなのかもしれません。でもこれこそがまさに「子育てと仕事の両立が難しい本当の理由」だと感じます。なんとなく分かっていたつもりだったけれど、出産してみてから初めてリアルに実感し、言語化することができました。だから、反省はしているけれど、悔いはありません。
私が今できることとしては、この学びを生かして、他のワーママさんの力になれるような活動をすることだなと思っています。

まとめ

簡潔にしようと思ってたのに長くなってしまいました…。
ここまでお読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか。

私が今回の実験を通じて得られた一番の気づきとしては、出産・子育ては、新しい自分に出会うキッカケなんだなということでした。本記事の冒頭で書いたとおり、私自身にとっても大きなターニングポイントになりました。

・生活スタイルを見直すキッカケ
・自分にとっての仕事の意義を考え直すキッカケ
・自分の時間の価値が上がるキッカケ

どう変わるかは人ぞれぞれですが、共通しているのは、このようなキッカケが何かしらの変化を生んでいるということ。

どうせ変わるなら、ポジティブに変われたほうが良い。
だから、今後この「ワーママ生態調査」が、ポジティブな変化を呼ぶキッカケとしてたくさんの方に届くと良いなと思います。先人たちの知恵をしっかりと未来のワーママたちにつなげられるよう、調査レポートづくりと発信を引き続き頑張りたいと思います。

※「ワーママ生態調査」の詳しいレポートは後日公開予定です。上記に記載したものはほんの一部でしかないので、より詳しい結果や定性コメントを見たい方はぜひそちらを楽しみにしていてください。

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お読みいただき、ありがとうございました!

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新しい働き方LABの研究員制度第1期生は、2021年4~10月までの半年間、働き方の「実験」を行ってきました。
それらの集大成となる「新しい働き方AWARD」という一般公開イベントを2022年1月に開催予定ですので、ぜひご参加ください。
また、第2期生の募集も2022年度にむけて準備中です。ご興味ある方はぜひ新しい働き方LABの公式ツイッターをフォローください。



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