短編小説 お金は払うのに

20XX年。
「もう取りに来ては頂けないんですか?」
和樹はスマホに向かって、
ゆっくり大きな声で話しかけた。
「そうですか。お金払いますけど。
 取りに来て頂く手数料は払います。
 それでもダメですか?」
和樹は懇願するように言った。
「わかりました」
和樹は電話を切った。
「あーあ。ダメだって。もう持ち込むしかない」
和樹は頭の後ろで両手を組んで目を閉じた。
「手数料払っても取りに来てくれないの?」
私は尋ねた。
「ダメだって。
そういう職員はもういないんだってさ」
和樹は天井を見ながら言った。
「そっか」
これからどうしよう?
お金さえ払えばサービスを受けられていた
時代が懐かしい。
値上げなんて、まだ可愛ものだった。
今は値上げされるものがない。
お金は払うのに。
お金ならあるのに。
(終わり)

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