真悠子

頭に浮かんだ短編小説を書いています。 死ぬまでに「やりたい事」「思いついた事」の箱を空…

真悠子

頭に浮かんだ短編小説を書いています。 死ぬまでに「やりたい事」「思いついた事」の箱を空っぽにしたいです。

最近の記事

小説 下戸の気遣い

「ホーリー塚本の人生相談のコーナーです。 早速、ご相談を読んでいきます。 『ホーリーさん こんにちは。 私は29歳 女性です。 最近、健康や節約について考えています。 その中の一つとして断酒をしようと思っているのですが、おすすめの断酒方法はありますか?』 という質問ですね。 念の為の確認ですけど、 アルコール依存症ではないですよね。 もし依存症なら専門家に聞いて下さい。 あくまで普通に断酒する方法ですね。 断酒の一番いい方法は、転職と絶縁です。 例えば、 会社の飲み会でウーロ

    • 小説 最高の誉め言葉

      復帰したくない。 これが坂本奈津子の本心だった。 彼女は妊娠19週目で長男を死産した。 12週以降の流産、死産は産休の対象となる。 奈津子は産休を取ったが、復帰は1週間後だ。 死産のことは職場の人は知っている。 「残念だったね」 「まだ若いんだから」 「実は私の友達も死産だった」 職場復帰初日。 励ましの言葉をたくさんかけてもらった。 有難い。有難い。有難い。 奈津子は自分に言い聞かせた。 励ましの言葉ならまだいいのだけど、 産休を取ったとしか知らない取引先の人から 「おめで

      • 小説 懇親会ブルース

        「来週の土曜日は懇親会やるんだけど、 久美ちゃん来れる?」 楽譜を片付けながら、 講師の小林正美が聞いてきた。 「懇親会ですか?」 「毎年この時期になってるんだけど、 生徒さんとか生徒さんの友達が 集まるパーティーなの。 場所はここで、食べ物は持ち寄り」 「はい。行きます」と久美は即答した。 なんか楽しそうだなあ。と思った。 「食べ物はどんなものを 持っていけばいいですか?」 久美の質問に、 正美は「なんでもいいの」とだけ答えた。 3か月前から久美は フラワーミュージックスク

        • 小説 彼女達の理由

          「美穂はもっと楽しそうな顔しないと」 へっ?美穂は驚いた。 楽しそうな顔?何が? ポカンとしていた美穂に向かって,父親の誠が 再び言った。 「つまんなそうな顔じゃなくて、もっと楽しそうな顔をしないと」 私の顔ってつまらなそう? 美穂は自室のベッドに腰掛けて鏡を見た。 彼女は17歳。市内の公立高校2年生だ。 何もかもが普通の中の普通だと思っていた。 私ってつまらなそうな顔してるの? 突然、父から言われた言葉に美穂は戸惑っていた。 「何が違うんですか?って、逆にどこが同じだと

        小説 下戸の気遣い

          小説 職場物語 偉大なるアドバイス

          「職場ではいつも笑顔で、頼まれた事は何でも 『はい』って快く引き受ける事が一番大切だよ」 これは山川春香の父親が彼女が新入社員に なる時に送ったアドバイスだ。 春香はそのアドバイス通りに頑張った。 「山川さん この見積作っといて」 「はい。わかりました」 「山川さん シュレッダーが一杯なんだけど」 「はい。ゴミ袋入れ替えます」 「山川さんプ リンター用紙切れ。  プリンターの近くにいる人が  チェックするんだよ」 「はい。わかりました」 「山川さん 今週中に成約できる?」 「

          小説 職場物語 偉大なるアドバイス

          小説 80%の人生

          「6時に時計台ね」と約束して 私は電話を切った。 今日は研修センターで研修だった。 いつもより早く帰る事ができる為、 学生時代の友人の冴子と飲みに行く 約束をしたのだ。 約束の時間まで2時間ほどあるので、 街を散策することにした。 当てもなく歩いていると、 1人の高齢女性が路上にシートを敷き、 簡易型の椅子を用意している。 どうやら路上の占い師のようだ。 占ってもらおう。 普段はさほど占いに興味はないけれど、 何故か占って欲しかった。 「あんた、なかなか強運の持ち主だよ。

          小説 80%の人生

          小説 階段話

          「私、階段が大好きなんですよ。 怖い方じゃなくて、昇り降りする階段の方。 怪談は嫌いですよ。怖がりなんで。 階段が使えるって奇跡なんです。 小さい頃は使えないでしょ。 年取ったら膝が痛くて使えない。 それ以外にも怪我したら階段の昇り降りは難しい。 階段は本当に奥が深いんです。 私は子供の頃、毎日のように母と 母の友達のお兄さんに殴られたり、 蹴られたりしてたんです。 本当に痛かった。 だから殴られたくなくて、どうしたらいいかを 必死で考えたんです。 それでテレビドラマの真似を

          小説 階段話

          小説 あなたを見ている人

          「合わないのかも知れませんね」 臨床心理士は、のんびりと言った。 「でも、この職場はもう3箇所目なんです。 最初は生命保険会社、次が損害保険会社、 今の保険代理店です。 私、33歳で結婚の予定はありません。 これからの事を考えると転職はしない方がいいと 思うんです。あんまり転職の回数が多いと 変な目で見られますよね」 クライアントの女性は泣きそうな顔で話す。 窓の外はすっかり日が暮れている。 「いい人もいるんです。 給湯室のペーパータオルを補給したら、 ちゃんとお礼を言ってく

          小説 あなたを見ている人

          短編小説 お金は払うのに

          20XX年。 「もう取りに来ては頂けないんですか?」 和樹はスマホに向かって、 ゆっくり大きな声で話しかけた。 「そうですか。お金払いますけど。  取りに来て頂く手数料は払います。  それでもダメですか?」 和樹は懇願するように言った。 「わかりました」 和樹は電話を切った。 「あーあ。ダメだって。もう持ち込むしかない」 和樹は頭の後ろで両手を組んで目を閉じた。 「手数料払っても取りに来てくれないの?」 私は尋ねた。 「ダメだって。 そういう職員はもういないんだってさ」 和樹

          短編小説 お金は払うのに

          小説 職場物語 お昼休み

          派遣社員で良かった。 不安定で何かと不利な派遣社員だけど、 良かった、と思うこともある。 理由は些細な事ばかりだけど、 ランチミーティングに参加しなくて良い事も その一つ。 今の派遣先では週に3回のランチミーティングが  あり、正社員は全員参加。 とは言っても、正式な業務ではない。 社員の高杉さんの提案で始まったようだ。 高杉さんは30歳過ぎ。 そのまま雑誌に出れそうな容姿だ。 仕事はあまりできないけど、 喋りや目立つ事が大好き。 自分が提案したランチミーティングを 社内報に

          小説 職場物語 お昼休み

          小説 職場物語 愛の対義語

          「幹事お疲れ様。いい送別会だったよ。 全部やってくれて有難う」 来週から異動する小川部長の送別会の幹事を やった私に、宮崎主任が労いの言葉を かけてくれた。 帰宅後、送別会が上手く行った満足感に浸っていた時、小川部長から職場のLINEグループに メッセージが来た。 「今日は有難う。去り行く私から愛する皆さんへ 最後のメッセージです。 矢野はリーダーとしてみんなを引っ張って下さい。藤田は宮崎主任を助けてあげて下さい。 池田さんには派遣スタッフさんの成長を 任せました。清水さん、

          小説 職場物語 愛の対義語

          小説 職場物語:仕事の天才

          私は高橋亜由美 30歳 企業系保険代理店に勤務している。 3か月前から私の部署で時差出勤が始まった。 時差出勤のパターンは3つ。 朝8時から午後4時迄 朝9時から午後5時迄 朝10から午後6時迄。 私は朝9時組になった。 朝8時スタートも魅力的だったが、 希望者が多く、通常組が少なくなる為だ。 時差出勤が始まった時から気に なっていた事が2つある。 1つは時差ボケ。 午前8時50分 出社 デスクを拭き、 パソコンに電源を入れようとした時だった。 「高橋さん。この書類なんだけど

          小説 職場物語:仕事の天才

          小説 君はエティエンヌ

          「あれは冗談だったんです」  某宗教団体の会議室で  福田はうつ向いて言った。 「こういう事を中途半端に語ったら  困るんですよ。現場からクレームが  あったよ」   責任者の梶は大きな溜息をついた。  福田はある既存宗教の宗教家だ。  世間が持つ宗教の怪しいイメージを  払拭したい。  そして宗教団体も、派閥闘争なんてしてないで  もっと人を救う事に注力すべきだという  考えを持っていた。  普通に宗教を語っても誰も振り向かない。  そこで彼が編み出したのが、  極悪宗教

          小説 君はエティエンヌ

          小説 ハリウッド俳優とプロレスラー

          典子 21歳 或る春の日 部屋で1人ゴロゴロしていたら 携帯が鳴った。 麻由さんからだ。 出たくないなぁ、と思いながらも 「はーい」と明るく電話に出る。 「典ちゃん。もう私、死にたい」 麻由さんの沈んだ声が聞こえた。 「どうしたんですか?」 私はベッドに寝転んで尋ねた。 「レニが亡くなったの」 レニー・モーリス。 洋画好きしか知らないハリウッド俳優。 名前は知らないけれど顔は知っている、  と言われる名脇役だ。 レニが亡くなったのか。 あんまり沈んだ声だから、彼氏か家族が亡く

          小説 ハリウッド俳優とプロレスラー

          小説 チケット狂騒曲

          「明後日なんだけど、Go Hell Quicklyのライブ  行けない?」  ずっと無視していたけれど、  あまりにもしつこくかかってくる  電話に出たら、いきなり言われた。 「すいません。明後日は予定があるんで」 「そう。お友達で行けそうな人いない?  Go Hellが来日するにはもう最後かもしれないよ」 「ヘヴィメタル好きな友達いないんで。  すいません」 「お姉ちゃんはメタル好きじゃなかった?  曲知らなくても全然楽しめるから大丈夫だよ」 「姉も明日から出張なんで」と私

          小説 チケット狂騒曲

          小説 職場物語 透明人間が見える時

           「三島さん、浦野様からお電話です」  三島さんって誰だろう?と思いながら、  私はフロアに声を掛けた。  痩せた中年男性が「知らない」とだけ  言った。あの人が三島さんなのか。  と思ったと同時にパニックになった。  確か、三島さんと言ったはず。  聞き間違い?  もう一度確認しよう。  「お恐れ入ります。浦野様ですよね。  三島におつなぎ致します」  受話器の向こうから苛立ちが伝わってくる。 「三島さんあてに浦野様からお電話です」  私はもう一度言った。 「だから俺は知ら

          小説 職場物語 透明人間が見える時