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外の外「英語のそこのところ」第67回

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2015年3月12日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 いまはなかなか海外に行けないですが、海外のレストランで思わぬトラブルを引き起こすことがあります。気を付けたいものです。(著者)

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【本文】

 以前勤めていた英会話講師紹介の会社では、よくNative English Speakerとカフェに行ったものです。スタバやターリーズ、ドトールに、エクセルシオール、新宿や銀座、東京、御茶ノ水あたりの主なチェーン店は制覇していて、ああ、あそこの駅ならあの店が一番落ち着くとか、あそこの店は先に席をとらなきゃいけないとか、変に詳しくなっていました。
 Native English Speakerと遊んでるわけじゃないですよ、仕事。仕事です。
 何度もお話ししているので気がひけますが、前の会社ではお客様に英会話講師をご紹介する際に、カフェを利用させていただいていました。講師と駅で待ち合わせして、カフェに行ってお試しレッスンを申し込んでいただいたお客様を待つ、もしくは、わたしが駅の改札にお迎えに上がるわけです。
 当然、お客様が来られるまで、カフェでNative English Speakerと四方山話をするんですが、その時意外なことを言われたことがある。
「徳さんは、紳士なのね」
 ですって(/ω\)

「え? 紳士?」
 徳田は、怪訝な顔をしてMollyの顔を見た。ブルネットの髪のオーストラリア女性だ。
 紳士? どのあたり? 店のドアを開けたこと? 注文したコーヒーが載ったトレイをおれが持ったこと? それともお金を出したことか知らん? でも、それは仕事で領収書ももらっているし。紳士ってことにはならない。もしかして、Mollyはおれに気でもあるのではと徳田があらぬ想像をしていると、Mollyが話を続ける。
「さっき、あいさつ返したでしょ?」
「あいさつ?」
 これまた謎の言葉に徳田はますます怪訝顔になる。確かに、駅の改札で会ったときに、Hello! とはいったが。そんなのは社会人の常識だ。やっぱり、なにか下心が……、いや、でも、今おれ付き合ってる彼女がいるし、と更にあらぬ妄想へと発展。
「ほら、この店のスタッフが『こんにちは』って言うのに、『こんにちは』って返したじゃない」
「ん? そうだっけ?」
 予想外の指摘に、徳田はあらぬ妄想から現実に引き戻される。残念。
「そうよ。ちゃんとあいさつを返してたのよ。日本人でも、店員に返事するんだってびっくりしたわ」
「え? みんなしない?」
「いないわよ。店員にあいさつ返す人なんて」
「そう?」
 徳田は納得がいかず、首をかしげる。
「あいさつは社会人の常識だと思うけど」
「そうでもないと思うわ。ほら」
 Mollyがお店のカウンターに目をやった。徳田もつられてカウンターを見る。
 20代後半ぐらいの男性がレジの前に進むと、スタッフが
「いらっしゃいませ、こんにちは」
と、元気のいいあいさつをする。さすがスタバ、スタッフ教育が行き届いていてる。
 だが、男性はあいさつに反応することなく、希望のものを注文してお金を払うだけだった。
「ほらね」
 Mollyは自慢げに徳田を見た。そんなところで、自慢されても困るのだが。

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「あの人がぶっきらぼうだっただけかもしれないじゃん」
 徳田はちょっと納得がいかずに、食い下がる。日本人は、礼儀正しいという自分の意見を覆されそうに感じたのだ。
「いいわよ。じゃあ、ちょっとパーソンウォッチングね」
 Mollyは自信満々でノートを取り出した。真ん中に線を引き、saying hello, saying no hello と両側に書く。
「あたしが勝ったら、この地区の申し込みを優先してあたしに廻してね」
 抜け目なく、Mollyは勝負事にしてしまうと、またカウンターに眼をやった。

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