見出し画像

■ 其の90■ Scripta no.70 winter 2024(紀伊國屋書店発行の季刊誌)より

タイトル‥外古典のすすめ 12  執筆者‥斎藤美奈子

🔣 『ボヴァリー夫人』(フローベル著)の解説より
 精神が不安定になり、女中をクビにし、トストは嫌だと訴える妻。転地が必要だと考えたシャルルは、ここで四年間に得た信頼も患者も失う覚悟で引っ越しを考え、春、トストを発って新天地のヨンヴィル=ラベイに向います。このときエンマは妊娠していました。 と、ここまでが第一部。
 なんちゅう困った女なんだ、と大方の読者は思うでしょう、エンマを捉えているのは、非現実的な物語への果てぬ夢と、大都会パリへの憧れ、そして物欲です。十九世紀半ばのフランスは資本主義の発展期。消費経済が拡充し、エンマのような女性を刺激する要素には事欠きませんでした。
 一方、夫のシャルルは、今の暮らしに充足しており、妻がなぜ苛立っているのかわかりません。職務に忠実なよき医者で、妻のワガママにも寛容で、彼女を束縛もしない。しかし野心も出世欲もない善良さがエンマには愚鈍で退屈な男に映る。エンマがロマンチストなら、シャルルはリアリストなのです。                            (P3)

 しかしここには経済が人の幸福を左右する資本主義社会の現実が刻印されています。副題は「地方風俗」。新聞記事にもならないような物語内容だからこそ、それは今も古びないのかもしれません         (P5)


タイトル‥RОADSIDE DIARIES  移動締切日 執筆者‥都築響一

🔣タイ・バンコクを訪れたときの話より
 ちなみに東南アジアで中華系人口比率がダントツに高いのはシンガポールで76%。でもタイもマレーシアに次いで14%。タイ人が10人いたらひとりかふたりは華人ということになる。日本の中華街ではまとめて華僑と呼び習わされているが、「僑」はもともと仮住まいという意味があり、華僑とは中国を離れて外国に住むけれど、いつかは故郷に錦を飾ろうという人々のことを言った。対して華人とは移住先の国籍を取って、その国に同化した人々のこと。                          (P10)


タイトル‥未来を生きるための漢文 14   執筆者‥安田登

🔣荀子の性悪説の説明より
 「人の性は悪だ」と断言したあと、「其の善なるものは偽なり」と荀子は言います。この「悪」と「偽」についてはあとでお話することにして、次を見てみましょう。
 荀子は、人が生まれながらにして持っている「性」は三つあるとして、この三つがさまざまな「悪」を生み出すと言います。
 ひとつは「利を好む」という性。「利」というのは「もっと、もっと」と思う気持ちです。    〈中略〉
 ふたつめは「疾悪」(しつお)です。嫉妬したり、憎んだりするという性質。           〈中略〉
  もうひとつは「耳目の欲」で、耳や目など五感から入ってくる感覚とそれが生み出す欲望です。                   (P24)
 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?