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■ 其の65■ まったく言う事を聞かない生徒がいたので、どうしたかというと・・

🔣数年前のことです。塾に来ているけれど「大人の言う事は聞かないぞ!」という感じの生徒がいました。ちなみに前の塾は先生が気に入らないから辞めたと言っていました。 わたしが「このプリントをやったらどう?」と勉強を勧めると、とたんに「あっ、用事があったので帰ります」と言って速攻で帰ってしまう始末です。 世間話的なことは普通に会話するものの、あとは勝手にスマホを見ているだけという状態が続き、わたしはストレスで気分が重くなり最悪でした。そんなですから、すぐに辞めるだろうと思っていたのに、全く辞める気配はありません。

🔣生徒が来るのも辞めるのも、それはお店を選ぶのと同じで自由だから仕方ありません。しかし「辞めて下さい」というのはこちらの敗北です。どうしたものかと思ったわたしは、彼に刺激が強めの本を勧めました。

🔣はじめは、伊藤比呂美著「女の一生」です。 
これは詩人で多くの著作もある伊藤さんが、十代から中高年まで幅広い年代の女性の質問に、ド・ストレートで答えているものです。 

本の説明文には、
「月経とは?」「摂食障害について教えてください」「セックスが苦痛です」「むなしくてたまりません」「子どもが引きこもっています」「別れたい」「恋をしました」「ピンピンコロリで死にたい」‥‥。年を経ても尽きない女の悩み。いくつもの修羅を引き受け、ひたすら生き抜いてきた著者が、親身に本音で語りかける人生の極意とは・・・とあります。 
中3男子には、ぐさぐさ刺さる内容のオンパレードです。

🔣その次は、梯久美子著「昭和二十年夏、僕は兵士だった」です。
俳優の三國連太郎さんや、漫画家の水木しげるさんなど五人の男性が、青春時代を兵隊として過ごしたときの体験を記録したノンフィクションです。
兵士の生の証言は重みがあります。

・・・もうねえ、死体慣れしてくるんです。紙くずみたいなもんだな。川を新聞紙が流れてきたのと同じです。(水木しげる)

・・・脚にすがってくる兵隊を、燃えさかる船底に蹴り落としました。わたしは人を殺したんです。十八歳でした。(大塚初重)

・・・マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦、そして沖縄特攻。二十歳の頃に経験したことにくらべれば、戦後にやったことなんか大したことはない。(池田武邦)


🔣彼は、来るたびにこれらの本を静かにずっと読んでいました。
のちに一緒に車に乗っていたとき、彼が友達との話しの流れでこんなことを言いました。「自分の両親は家庭内別居のような感じで、もう何年も口をきいていない」と。 それが大人の言うことを拒絶したくなる背景だったのかもしれません。 

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