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GPSウォッチはたまに嘘をつく。

東京マラソン2024のレースの途中、TWOLAPS横田コーチからLINEが入った。「ちょっとペースが遅いんですよね」。と。この日、「100人100カメ」企画(100人を超える人がスマホで新谷選手の走りを沿道で録画するというもの)で沿道にいる人たちからの報告では「新谷さん楽そうに走ってます」と報告が続いていた。楽そうだから、序盤は押さえているのだろう。と思っていたが、どうやらそうではないらしい。

女子マラソン日本記録更新を狙うペースメーカーの設定タイムは1kmあたり3分17秒。5kmあたりなら16分20から25秒くらいが想定タイム。応援ナビで確認すると最初の5kmが16分37秒。そのあとも16分39秒、16分27秒と想定タイムから大きく遅れ、フィニッシュ予想タイムも2時間20分台をさしており、ハーフ通過前に日本記録更新はすでに黄色信号が点滅していた。

この日、東京マラソンには男子エリート、女子エリート、MGCファイナル、そして新谷仁美の日本記録チャレンジというタイムが異なるコンテンツが同時進行ですすんでおり、レースディレクターのタイム指示もいつものようにきめ細かくできるものではなく、ペースメーカーの判断でレースは進みつつあった。「もしかしたら、遅れていることに気づいていないのかもしれない」そう考えた横田コーチはコースを先回りして、ペースメーカーと新谷選手に大きくタイムが遅れていることを知らせた。ハーフ通過が予定より大幅に遅れて通過しそうだということがわかった新谷選手はそこで大幅にペースアップ。次の5kmは16分10秒まであがったが、ここで急激にペースを上げるも序盤で貯金を作れなかったことはペースメーカーがいなくなった30km以降に響いた。


ペースメーカーは箱根駅伝を経験した実業団、学生のトップレベルの選手。秒単位の調整でロードを走る経験が豊富な選手がアサインされてたはずだ。マラソン博士がとった新谷選手のいた集団のラップを見返すと3分17秒で走れたラップはほぼなく、3分16秒から22秒の間で乱高下している。ここで気になるのは、横田コーチが知らせるまで、集団の誰もがペースが遅れていたことに気づかなかったことだ。

これは東京マラソンのような高層ビル群の中で走るマラソンでよくあることなのだが、GPSウォッチと衛星間でのやりとりが高層ビルに阻まれることで、その精度が落ちるという現象が起こり、本来の距離よりも長く走った距離で計測される傾向がある。極端にいえば、0.9kmであってもGPSウォッチ上では1kmという表示が出てしまうのだ。

新谷選手の集団には多くの準エリート市民ランナーが集まった。彼らも皆、GPSウォッチをつけて走行していただろう。そして、同じようなタイミングで1km通過を知らせる音が鳴っていたはずだ。集団全体がGPSウォッチが示すずれた距離表示のまま推移したと考えられる。だから違和感に誰もきづかなかった。いや、気付いていたかもしれないが、GPSウォッチを信じた。しかし、東京マラソンはスタートそのものが高層ビル群に囲まれた新宿副都心。スタート直後から「ズレ」ははじまっていたのだろう。

写真は大阪国際女子マラソンのフィニッシュ後の前田穂南選手の後ろ姿。左腕のつけた腕時計はセイコースーパーランナーズ。昔からランナーの定番といわれてきたランニングウォッチである。腕振りに影響が少ない軽さもあるのだろうが、天満屋の武富監督が「GPSウォッチがたまにつく嘘」を知り、この時計を選ばせていたのであれば、凄みがある。大阪国際女子マラソンも途中、高層ビル群を抜けるポイントがあるからだ。

東京マラソンのオフィシャルタイマーはセイコーである。東京マラソンを走るならGPSウォッチではなく、「セイコー」が1番正しく時を刻むというキャンペーンをあえてするのもいいのではないかと思う。ペースメーカーにもセイコーのスーパーランナーズをつけて。

追記(2024年3月7日)
記事を出して、ほどなく前田選手からXを通じてこういうことらしい。

久しぶりにスーパーランナーズを買っちゃいました。同じ色のものを笑

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