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音楽の釈義 #6 СОЮЗの宇宙瞑目

#6 СОЮЗの宇宙瞑目


 『音楽の釈義』第六回はベラルーシのバンド、СОЮЗ(英SOYUZ / 和ソユーズ)。

▼ SF世界×ブラジル音楽
 'Мируз"を聞いてみよう。イントロはブラジル音楽の風合いを持つGt.。すぐにDr.と一緒にJazz Funk的フレーズを奏でる籠ったBa.が合流する。Ba.はIndie Rockのような埃っぽさがあり、弦振動の映像が浮かぶようなウッドベース然とした味わい深い音だ。これらの基盤となる音の上で、気の抜けたヴォーカルと神妙なシンセ、ストリングスが奇妙な景色*を描き出す。彼らの音楽はシネマティックな落ち着きとダークで不気味な哀愁を兼ね備えている。それでいてグルーヴのあるインストバンドとして、限られた要素で高度に構築された物語性もあるため聞き応え抜群だ。中でも際立つシンセは彼らの世界観をミステリアスで唯一無二なSFサウンドに昇華させている。もしこのスタイルが気に入った方がいれば、Surprise ChefKarate Boogalooもオススメできる。

*この景色について、次の章(▼)である小説を引き合いに出して話そうと思う。

▼ 宇宙の果てより、最期の信号
 ところで、СОЮЗ(ソユーズ)とは団結、結合、同盟を意味する単語であり、且つソ連の1〜3人乗り有人宇宙船の名前でもある。

ソユーズTMA-7 - 画像: Wikipedia

この意味を知ったとき、衝撃を受けた。というのも彼らの音楽を初めて聞いたときに思い描いた映像が、まさに「宇宙」だった。それは、Pink Floydの「The Dark Side of the Moon」、Arctic Monkeysの「Tranquility Base Hotel & Casino」など宇宙を題材とするコンセプトアルバムに近い感触だった。 さらに、現代ロシアSF文学における巨匠ヴィクトル・ペレーヴィンのスペースファンタジー小説「宇宙飛行士オモン・ラー(以降オモンラー)」はまさに"宇宙船ソユーズ"に乗る少年の話で、もしこの物語にサウンドトラックがあるとしたらСОЮЗの音に違いない。オモンラーはソ連の宇宙開発を、月面着陸を成し遂げたアメリカのそれとは対照的に書いており、現実世界でもソ連はソユーズ船の事故により何度も帰還失敗している。СОЮЗの音楽は、そんな「ソ連の宇宙開発における無惨な事故」を想起させる寂しさや空虚があり、「(希望や成功は存在しない)宇宙という陰(かげ)で瞑目する運命」を受け入れた宇宙船が送る、儚く美しい信号なのである。


 ソ連の宇宙開発から影響を受けた創造物は少なくない。この思想の潮流は「ロシア宇宙主義」と呼ばれる。人類と宇宙の接点としてたびたび持ち出される月で例えるなら、アメリカは太陽光の当たる部分、ロシアは陰(The Dark Side of the Moon)の部分であり、ロシアは"内宇宙(人間の内部に広がる未知の領域)"を表現する黒幕役を請け負うには十分すぎる失敗をしてきた。明るく瞭然としたところにはない、(多様なカルチャーを巻き込む)ドロドロした人間の哲学は陰で蠢いているのだ。

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