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音楽の釈義 #1 Lonnie Liston Smithの涼

#1 Lonnie Liston Smtithの涼


 『音楽の釈義』第一回はキーボーディストのLonnie Liston Smith。

▼涼のテクスチャ
 "Expansions"を聞いてみよう。この曲はリリース15年後の90年代にクラブ音楽という文脈で評価されたそう。確かに繰り返しのビートがスラスラと脈動していて気持ち良い。しかし、私はクラブジャズで身体を揺らすのとは異なる別の欲求によって彼の音楽にハマったと内省している。
 彼の曲を初めて聞いたとき、「涼しい」と感じた。この涼しさの元は間違いなくラテン由来のテクスチャだ。トライアングルが上(高音域)、ベースが下(低音域)にいて、その間にボンゴやコンガ、マラカスなどのラテンパーカッションによる荒涼としたリズムがある。そして彼のキーボードは、砂っぽい大地をラテン仕込みのステップで流麗に流れていく。Lonnie Liston Smithの音は、日本の鬱陶しい蒸し暑さが私に誘起した「涼への欲求」をオアシスの如く満たしてくれる。

▼緊張と弛緩
 Lonnie Liston Smithのアイデンティティは(ラテンパーカスによる)涼のテクスチャをエコーの効いたコズミックでスピリチュアルなサウンドに応用したところにある。浮遊感はあるが、ラテンのタイトなサウンドによりだらしなくなることはない。緊張(ラテンの皮物)と弛緩(エコー)がうまく併存しているのだ。さらに、前述のクラブシーンの評価のように、ライトなリスナーにウケる聞きやすさもありながら、精妙なタイム感を大事にするブラックミュージックリスナーも唸らせる、ジャズファンクとしての精巧さも当然のように兼ね備えているのが彼の音楽である。


 私は跡を濁さないタイトな音と入り組んだ組織的な音楽が好みなので、ラテンのサウンドがよく性に合う。今後もラテン由来のテクスチャを纏う様々な音楽をdigりながら、内省(何故好きなのかを探求)を経て音楽カルチャーのグラデーションを自分の耳で体感したい。

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