ゲームデザイナーインタビュー:Jamey Stegmaier

ゲームデザイナーインタビュー、と書きましたがゲームデザインについて聞いたわけではありません。ちょっとメールで話す機会があったので、ついでにクラウドファンディングについての意見を聞いてみたのでご紹介します。JameyはStonemaier Gamesの共同設立者でゲームデザイナーです。これまでにKickStarterでViticulture, Euphoria, Tuscany(Viticultureの拡張セット)のプロジェクトを展開し、どれも成功を収めています(これ以外にもボードゲーム用のアクセサリーセットのプロジェクトもありますが、とりあえずここでは触れません)。集まった額はViticultureこそ約$66kですが(それでも十分な成功ですけれど)、Euphoriaは$300k超、Tuscanyでは$450k超の額を集めています。ゲーム自体もスタンダードなユーロゲームで、歴史に残る名作、とまではいかないかもしれませんが、標準的な中量級ユーロゲームの質はクリアしている佳作だと思います。その上でコンポーネントの質にこだわったり、積極的に出資者とコミュニケーションしたり、と精力的に活動を続けています。極めて個人的な見解ですが、Jameyはアナログゲームに限って言えば、KickStarterで現在最も成功したインディーデザイナーの1人であると思います。集めた額面だけで言えばこれ以上のプロジェクトもありますが、そのほとんどがミニチュアに焦点をおいたものですし、いわゆるユーロゲームで考えた場合、Jameyの実績は特に優れていると言って良いのではないでしょうか。

彼自身のKickStarter(を中心としたクラウドファンディング)についての考えは、ブログ(http://stonemaiergames.com/category/kickstarter/ )にたくさん書いてあるのですが、さすがに量が多すぎて(KickStarterについてのコラムだけで既に111回分あります!)私も全部を読んでいるわけではありません。英語で読むのも大変だし、ちょっと簡単に意見をもらえないかな、と聞いたところ快く回答してくれたので以下に訳出します。一部適当に補足したりざっくりと訳したり、というところはありますが、大意は捉えていると思います。

追記:Jameyのブログで以下の回答を元にした記事が作成されました。8割方同じ内容ですが、興味のある方はそちらの記事もどうぞ。

クラウドファンディングの利点

ローリスク:新しいものを作るためにお金をたくさん集めなければならない時に、お金を借りたり自分自身のお金を注ぎ込むよりも、クラウドファンディングを利用することで(リスクを分散して)お金を集めることができる。

需要を知る:自分のアイデアが素晴らしいと思っていても、それをみんながどう思うかはわからない。それを知るためには、(まだ存在しないものに対して)みんながどのくらいお金を出すか聞いてみるのが一番だ(もう一度言うけれど、しかもそれをローリスクでできるのだ)。

コミュニティの形成:クラウドファンディングはクリエイターの周囲にコミュニティを作ることができる。これは、長い目で見ればずっと良い結果をもたらしてくれる。

消費者との直接的な繋がり:新しい商品を作ってウォルマート【訳注:北米の量販店】に売ることを考えてみて欲しい。商品をどんな人が買うのかなんてわからないだろう。でもクラウドファンディングを使えば、消費者1人1人についてたくさんの情報を得ることができる。こうした情報はとても役に立つ。

より良いものを作る:ストレッチゴール【訳注:出資金が一定の額に達した時に追加されるおまけ、のようなもの】によって当初の予定よりも製品を良くすることができる。みんなの興味を惹きつけて生産数を多くすることができれば、資金の不足によってゲームの必要最低限のものしか作れない、といった状況に陥ることなく、製造単価を下げてその分ゲームをより良いものにすることができる。それはみんなにとって良いことなんだ。

プロモーション:KickStarterはプラットフォームであって、宣伝してくれるわけではない。とはいえ、たくさんの人がKickStarterを見て新しいものを見つけようとしているから、結果としてたくさんの人に(あなたのことをまったく知らないような人に対しても)繋がる機会がある。

切迫感:クラウドファンディングではキャンペーンの期間は限られていて、切迫感【訳注:○日までに参加しないと入手できないかもしれない、というような危機感のことだと思われる】を生み出す。これは普通のプレオーダーではできないことだ。

信頼:10年前、多くの人はインターネットでクレジットカードの番号を入力することに強い抵抗があった。今は誰も躊躇わない。KickStarterは同じようなレベルの信頼を生み出している。サイトは洗練されて見た目も良いし、みんな出資する時にも信頼できるサイトに任せたと感じている。

欠点

思ったよりもずっと大変だ:(クラウドファンディングを使うなら)しっかり調べなくてはならない。KickStarterに近道はない。近道をすると出資者からの信頼を失い、将来新たにキャンペーンをしようと思っても難しくなってしまうだろう。

彼自身はクラウドファンディングの信奉者である、と自称していますし、クラウドファンディングに好意的な見解であるとは思いますが、それなりに説得力のある意見だと思います。もっと具体的な「クラウドファンディング/KickStarterでやるべきこと、やってはいけないこと」については上記のブログにたくさんの記事がありますので是非ご一読を。まあ、英語なんですけどね……(特定記事に興味がある、ということであれば、ご連絡いただければ和訳の検討をいたします)

とはいえ、彼の意見は基本的にアメリカ在住でKickStarterを使うことが前提ですから、そのまま日本ですべてが通じるわけではないと思います。以下は日本の状況を踏まえた個人的な意見を少し書いてみたいと思います。私は自分で同人作成をしたことがないので的外れな部分もあるかと思いますが、ご容赦下さい。

ローリスク:100万円を超えるのであればリスク分散のメリットは出てくると思いますが、50万円以下のお金だとどうなんでしょう?個人的には自分で資金調達してしまった方が早いのではないかと思いますが。

需要を知る:例えばゲームマーケットなどの経験があれば、需要の大まかな見積もりはできると思いますし、国内クラウドファンディングで需要が予想を大幅に上回る結果になる、とは思えません。もちろん(Indiegogoなどを使って)海外からも出資を募る、というのであれば話は別ですが。

コミュニティの形成:クラウドファンディングを通じたコミュニティの形成、がどのくらい成立するかというと、ちょっと疑問ではあります。既にあるボードゲームコミュニティに参加することで得られるもの以上のものがあるようにも思えないのですが。などということを碌にボードゲームコミュニティに参加していない私が言うのも何ですが、クラウドファンディングを使う前にまずは既存のコミュニティに参加する方が先ではないかいう気がします。

消費者との直接的な繋がり:これも前項と同様ですね。既にあるコミュニティに参加すること以上の繋がりが得られるか、と言われるとやや疑問が残ります。ゲームマーケットに参加することとどちらが上か、というと、どうなんでしょうか?

より良いものを作る:これは当初の想定を圧倒的に上回ることでコンポーネントの改良・改善が可能になったJameyだから言えることで、大抵の場合は当初の予定ぎりぎりでそれ以上のことはできなかったりするわけです。国内の場合、売れ行きはそれなりの規模でしょうし、そこまで質の向上は図れないのではないかと思います。

プロモーション:今のところ、それ自体がプロモーションとなるほど知名度と集客力を持ったクラウドファンディングサイトは国内に存在しないと思います。「クラウドファンディングで資金調達をしている」ということ自体に目新しさはあるとは思いますが。

切迫感:まあ個人的に切迫感で煽って売る手法が好きではないのですが、そもそもキャンペーン終了後にも一般販路で販売を計画している場合は切迫感を演出すること自体が難しいですよね。限定発売であったり販売価格の大幅な割引がない限り切迫感を利点として上げることはできないでしょう。

信頼:私はそもそもKickStarterを信頼していませんので(何かトラブルがあってもKickStarterは基本的に出資者を助けてくれません。私はJameyの次のプロジェクトに出資することに問題を感じませんが、それはJameyを信頼しているからであってKickStarterを信頼しているからではありません)、これについては同意できません。クラウドファンディングは販売サイトではありませんし、国内サイトがどういう規約で運営しているかはわかりませんが、確実なものではないと思っています。その点は出資する側も気をつけて利用するべきだと思います。

思ったよりもずっと大変だ:これは本当にそうだろうなあ、と思います。クラウドファンディング自体にはいろいろな利点があると思いますが、それを活かすためにはそれなりの労力と資金が必要でしょう。その労力と資金を他の方法に使うことも検討した上でクラウドファンディングを使うかどうかを判断するべきだと思います。

個人的には現状、国内のクラウドファンディングサイトを使うメリットは(ボードゲームに限らず)あまりない、と思っています。想定出資者層が限られていること、ターゲットに届く宣伝手段になり得ていないこと、相当量の手数料が取られること、を考えた場合、クラウドファンディングの外にコミュニティを形成する、あるいは外にある既存のコミュニティを利用する方が効率的ではないかと思います。とはいえ、だから「国内クラウドファンディングを使っているものは駄目だ」という気もありません。個人的な希望としては、プロジェクトの実現にどのくらいのお金が必要で、集まった金額をどのように使うのか(使ったのか)の内訳を明らかにしてもらえると判断材料となるのでありがたいです。KickStarterでもそういうプロジェクト結構見ますよね。

なんにせよいろいろな形で新たな試みが生まれるのは良いと思います。ということで。

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