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HEAT: Pedal to the Metalのデザイナーダイアリーが面白い

Days of Wonderの新作"HEAT: Pedal to the Metal"のデザイナーダイアリーが公開されたのですが(DoWの商品ページ内にもPDFがあります)、これが大変に面白いのでお勧めです。
で終わりなんですが、まあ英語の記事だしまだ出ていないゲームだし軽く紹介しておこうかと。埋もれさせるには勿体ない記事なので。なお今回は著作権者に許諾を得たわけではないので引用で認められる範囲内に留めた紹介となります。興味がある方は是非全文をご一読ください。

まずは『HEAT: Pedal to the Metal』について簡単な紹介を。毎年出版されるDoWの大箱の最新作で、フォーミュラカーのレースをゲーム化した中量級(30-60分、1-6人)のゲームです。ルールを読んだ印象としてはファミリーゲームよりちょっと上、ファミリー+級というところでしょうか。ゲーム慣れしていない人でも少し頑張れば十分遊べる(数回遊べば問題なく理解できそう)範囲で、追加ルールも組み合わせればゲーマーも満足できる、という、まさにDoWらしいゲームと言えそうです。デザイナーはAsger Harding GranerudとDaniel Skjold Pedersenのコンビで、自転車レースをテーマにした"Flamme Rouge"が有名でしょうか。既に日本語ルールも公開されているので、日本語版も近日中に発売されるはずですが(追記:ホビージャパンから2023年1月に日本語版発売予定であることが発表されました。2023/01/05)
なお私はまだ『HEAT: Pedal to the Metal』をプレイしていないので、以下の感想は未プレイ時のものであることにご注意ください。

(『Flamme Rouge』の後に)同じようなカーレースのゲームが出せるのではないかと思った。もちろんカーレースのボードゲームは既に市場に溢れていたけれど、最大のもの(『Formula D』)のサイコロを振って移動する部分がそれほど好きではなかったし、その他のレースゲームの多くは賭け(に類する)要素が組み合わされていた。

これは確かにその通りで、というかレースと賭けのメカニズムが相性いいんでしょうね。レース要素の再現に注力するとハードコアになりがちなんですが、レース自体ではなく賭けの要素を入れることで抜きつ抜かれつというダイナミックな展開に無理なく意味を持たせることができるのではないでしょうか。シンプルに「一番最初にゴールする」という純粋なレースゲームは、シンプルであるが故になかなか現代的なゲームとして成立させるのが難しいのかもしれません。
賭けの要素がない純粋なレースゲームというと、ダイスベースであれば『Formula D』や『Rallyman GT』、カードベースだと『Thunder Alley』(ややレース感は薄め?)や『Snow Tails』、古いところで『Ave Caesar』あたりでしょうか。『The Quest for El Drado』もレースゲームと言えるでしょうが、デッキビルドの得点部分をマップベースに落とし込んだと捉える方がしっくりくるような気がします。個人的には『Leader 1』も好きなんですけど、レースゲームというよりはレースシム的な印象が強いし、レーサー視点のゲームではないですよね。

『HEAT: Pedal to the Metal』と『Flamme Rouge』との違いは、簡単に言えばハンドマネージメントとデッキマネージメントの違いだ。

正直最初にこのゲームの情報を見た時は『Flamme Rouge』とどこが違うのか?と思いましたし、最初にルールを読む時もそこを気にしていました。『Flamme Rouge』が、“毎ターン4枚引いてそのうちの1枚をプレイする”(残りの3枚はデッキに戻る)という形で、手番ごとの選択肢は常に4択に制限されており、むしろ中長期的な「どのカードを今消費するか」という戦略的視点からのデッキマネージメントを重視している一方で、『HEAT』では手番ごとの選択肢の幅が広く、また今使わなかった手札はそのまま次の手番での選択肢になるので、より短期的な戦術的な判断が求められるシステムになっています。もちろん『Flamme Rouge』でも手番ごとの位置取りが重要であったり、『HEAT』でもレース展開とコースの構成を予測した中長期的なペース配分を考える必要があったりと、まったく違うわけではないのですが、同じようなカードサイクルのメカニズムを主軸にした上で、カードプレイ部分の差で考え方の比重を変えるデザインは面白いし巧いな、と思います。

当然のことながら、車は自転車選手のように“疲れる”わけではありません。

『Flamme Rouge』における疲労のルールは特徴的で、基本的にデッキは徐々に劣化していきこの劣化は不可逆なのですが(レース中に疲労が一気に回復したりはしない)、『HEAT』においては溜まっていく疲労を表す“ストレス”とマシンに対する負荷を表す“ヒート”の2種類が用意され、後者の“ヒート”をマネージメントする点が重要となっています。ここぞというところでマシンに負荷を掛けて(“ヒート”カードをデッキに受け入れる)オーバーテイクを仕掛け、低速のテクニカルなポイントで放熱してマシンをコントロールする(“ヒート”カードをデッキから除去する)、という中期的なマネジメントが『HEAT』の面白さでありモーターカーレースらしさの表現ではないでしょうか。作品タイトルになるだけのことはありますね。
ただしネーミングというかルール的な記述については問題があって、無理をする代償を支払うという意味で“ヒートの支払い(Paying Heat)”をするのに、実際にやっているのはヒートカードをデッキに“足す”というのはちょっと直感的にはわかりにくいところだと思います。デッキビルド系のゲームに慣れている人ほど戸惑いそう。この辺もうちょっと表現をどうにかできなかったのかなあ……?

ギアの要素を入れたかった

『Formula D』が顕著ですが、モーターカーレースのゲームにおいてギアの操作というのは大変に重要なポイントで、低速でのコーナリングからギアを上げて高速ストレートで最高速勝負!という展開はやはり盛り込みたいところですよね。単純なカードプレイの前にギアの操作という一手間を加えるのはテンポを悪くしかねない処理だと思いますが、1速:カードを1枚プレイして進む/2速:カードを2枚プレイして進む……という処理は極めて直感的で良いと思います。手札から何枚のカードを出したいからここではギアを上げる/下げるというように逆算して(手順的にはギアシフトしてからカードプレイをするわけですから)考えることが容易なのもプレイヤーの自律性を高める効果がありそうです。

開発の初期のプロセスにおいて必要だと思われた要素のいくつかは、最終的には取り除かれました。

マシンに対するダメージや、ブレーキに対する別の処理、ターボによる加速を決めるダイス要素などが最終的なゲームからはなくなっています。概ねヒートカードを加えることによりデッキを劣化させる、という処理に抽象化することによって様々な負の要素を統合している、ように見えます(これは追加要素も同様)。ターボの加速については別にランダマイザを用意するのではなく、自分のデッキの山札からめくることをランダマイザとして使う、という形で統合しています。このように、複数の要素を別々のコンポーネント/処理によって表現するのではなく、抽象化して簡素なシステムに統合するところにデベロップの妙味を感じます。
もちろん、それぞれに別の処理を実装することによってそれぞれの独自性や特徴を前面に押し出す手法もあるわけで、良し悪しではなく商品パッケージの方向性に依存するものだとは思いますが、『HEAT』はDays of Wonderのファミリー~ファミリー+の、広い層が遊べるゲームを目指しているわけで、そういう意味でさすがのデベロップだと思います。

その他、コーナーのテクニカルな要素をどのように実装するかを考えた過程を示す(プロトタイプの)写真の数々や、それぞれのコースのデザイン意図(基本セットだけで4つのコースが含まれているのは個人的に高く評価しています。マップパックを別売りにすることだって簡単にできるので)、拡張要素やソロモードについてなど、盛りだくさんの内容なので、興味のある方は是非ご一読を。
個人的には久しぶりにDays of Wonderらしい大箱作品という感じがしますし、KdJを狙える作品ではないかと思います。ノミネートはされるんじゃないかな?ギリギリSdJの可能性もなくはない、かも?DoWが帰ってきた!という嬉しさもありますね。Asger Harding Granerud & Daniel Skjold Pedersenという意味では来年の『Flamme Rouge』拡張『Grand Tour』と合わせて、自転車レースとモーターカーレースという似て非なる2つのテーマを、同じ(セミ)クローズドなデッキ構築というメカニズムからどのように表現しているのか、その相違からゲームデザインとデベロップの過程が見えるという意味でも期待しています。

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