ボードゲームにおけるクラウドファンディング(3):2022年とこれから

(1)(2)でこれまでのボードゲーム・クラウドファンディングの状況を眺めてきたが、今回は2022年の現状とこれからについて見てみたい。などと持って回った書き方をする必要はなくて、今回はKICKSTARTERとGamefoundについての話である。
(最後に追記しました 2022/6/25)

KICKSTARTERへの批判

クラウドファンディングによってホビーボードゲームの資金を調達する、という方法が生まれてから10年以上経ち、クラウドファンディング、というかKICKSTARTERがボードゲーム市場において無視できないプラットフォームになっていることについては既に述べたとおりである。しかし、KICKSTARTERも(当然ながら)完璧な場所ではない。
よく言われていることだが、KICKSTARTERはプレオーダーでもショップでもなく、クリエイターと支援者を繋ぐ場なので、プロジェクトが遅延したり失敗したり予定のクオリティに達しなかったり、あるいはクリエイターが失踪したりというようなトラブルが起きた際の保証も補償もない。これまでにもボードゲーム関係でトラブルは度々発生していたが、そうした際にKICKSTARTER側から支援者に対するサポートは基本的になく、そうしたリスクがあることは理解して使う必要がある。
また、(支援者として直接の利害関係はないものの)2019年には労使間の問題が起こり、労働組合の結成に動いていた社員2人が解雇、会社として労働組合を認めないことを明言して多くの批判を受け、クリエイターの中にはKICKSTARTERを利用しないことを宣言する人も現れた(ボードゲーム関係では見なかったと思うがもしかしたらいたかもしれない)。この後紆余曲折があったものの2020年には無事労働組合が結成され、この問題については沈静化した。
2021年末にはKICKSTARTERがブロックチェーン技術を用いたプラットフォームに移行することを宣言。これも多くの批判を受けた/受けている。ブロックチェーン技術を用いることでクリエイター・支援者双方にとってなにがメリットになるのかが不明瞭であること、またそもそものブロックチェーン技術自体に対する批判(主にマイニングの電力消費による環境負荷を問題視する意見が強い)が主である。ボードゲーム関係者においてもこれを疑問視する声が強く、一部のパブリッシャーは即時/将来的なKICKSTARTERからの離脱を表明している(例えばRestoration Games)。

Gamefoundという新天地

こうした脱KICKSTARTERの動きの裏には(KICKSTARTERというプラットフォーム自体への批判と共に)Gamefoundの台頭があると思われる。前回見た通り、Gamefoundはクローズドβ(事前に審査を受けた限られたクリエイターしかキャンペーンを展開できない)で、少数のプロジェクトのみという状態にも関わらず、2021年にはKICKSTARTERの1/10に迫る額を集めた。2022 年2月にはドイツの老舗メーカーラベンスバーガーから約5億円の出資を受けたことを発表。3月末にはオープンβに移行し、事前の審査なく誰もがプロジェクトを始められるようになった(ただし、国籍に関する制限はあり、現時点では日本からプロジェクトを始めることはできない)。これ以降現在までに多くのプロジェクトが開始され盛況を見せている。Red Raven Games/Ryan LaukatのSleeping Godsのスタンドアローン続編"Sleeping Gods: Distant Skies"は2億円超を集めた(これは”Sleeping Gods"のKickStarterキャンペーンのおよそ倍額になる)し、現在進行中のCastles Of Burgundy: Special Editionキャンペーンも3億円に届く勢いだ。小規模プロジェクトもでてくるようになり、ボードゲームに関して言えばKICKSTARTERに近い場になりつつあるように見える。

KICKSTARTER vs Gamefound

KICKSTARTERとGamefoundの違いがどこにあるか、というとなかなか難しい。Gamefoundがテーブルトップゲーム関係だけに限った専門的なクラウドファンディングサイトであるのは明確な違いだが、その中でのプラットフォームとしての差異はそれほどはっきりしていない。良くも悪くもKICKSTARTERが唯一無二の存在として基盤を作ってしまったので、Gamefoundもそこから大きく外れることは難しいのかもしれない。KICKSTARTERが北米ベースであるのに対し、GamefoundがポーランドベースのEU基準である点は、クリエイター・ユーザー共に影響のある部分であろう(とはいえ日本人にとってはあまり関係がないが)。訴求できる客層の広さ・多さと宣伝力に関してはKICKSTARTERの方がまだまだ数段上に見えるが、Gamefoundはそもそも(現時点では)コアゲーマー層にターゲットを絞っているので、現状ある程度の棲み分けができているように見える。Gamefoundはそもそもクラウドファンディングキャンペーン後のプレッジマネージャーとしての機能もあるので、KICKSTARTERのキャンペーンからGamefoundのプレッジマネージャーという流れも続くだろうし、当面は両者が並行して動くことになるのではないだろうか。KICKSTARTERとGamefoundの両方でキャンペーンを開催したSami Laakso氏(Dale of Merchantsシリーズのデザイナー)によれば、Gamefoundの強みはプレッジマネージャーが一体化されていてキャンペーンページの構造が整理されているところのようだが、一方でユーザーとしてはGamefoundは検索性が悪く(とはいえKICKSTARTERもお世辞にも良いとは言えないのだが)、まだまだ改善の余地があると思う。
今までKICKSTARTERの独占状態だったボードゲームクラウドファンディングが、Gamefoundの登場で両者が(良い意味で)競い合って改善していくようになると一ユーザーとしてはありがたいところである。

日本でも少しずつクラウドファンディングが広まっているが、とはいえKICKSTARTERやGamefoundに参加するのは(基本的に情報がすべて英語であることもあって)相当のコアなゲーマーに限られているのではないかと思う。しかしボードゲーム市場にタイトルが溢れる一方で中小パブリッシャーに向かい風の吹く現状で、クラウドファンディングというのは重要な場であるし、今後もしばらくは欠かせないコミュニティであり続けると思われる。自分で参加するかはともかく、国内のボードゲーマーの方にも、クラウドファンディングという場があってそこから新たなゲームが生まれているのだ、ということを知っていただきたいし、そうした場の“面白さ”を感じてもらえればと思う次第である。

日本語でボードゲームのクラウドファンディング自体について解説しているような文章をあまり見かけないこと(支援の仕方の解説はそこそこありますが)、Gamefoundの登場に盛り上がっている人が少なそうなこと、そもそもGamefoundとはなにかすら日本語ではよくわからないこと、などから3回に分けて記事を書いてみました。私も内部の人間ではなく、外から見える範囲の限られた情報に基づくものではありますが、これを見てボードゲームの歴史や市場の状況について、少しでも新しい発見があれば幸いです。近年のボードゲーム業界において、クラウドファンディングを無視することはできませんし、そのトレンドを知らないと現状を理解することはできません。例えばBGGのレーティングを見ても、それがクラウドファンディング発のゲームであるかどうかで点数をどのように考えるべきかが変わってしまいます(私の感覚だと、クラウドファンディング発のゲームは点数が+0.5~1くらい高くなっている印象です。ミニチュア盛々系のゲームだと更に+0.5~1点くらい加算される感じ)。そういうところまで含めてゲームを見ると、また違った面白さがあるのではないでしょうか。それは、純粋にボードゲームを楽しむのとは違った斜に構えた態度ではあるのですが。

そしてBackerKitの参入

などという記事を書いた2日後にプレッジマネージャーの大手BackerKitがなんと自らクラウドファンディングプラットフォーム事業に参入することを発表。しかもボードゲーム関係からは『Gloomhaven/グルームヘイヴン』シリーズのCephalofairや、名作ゲームを現代的にアレンジして復刻させて立て続けにヒット作を飛ばしているRrstoration Gamesが参加を表明しており、なんというかKICKSTARTER vs Gamefoundなどと書いたのが恥ずかしくなる状況です……でも発表されるまで本当に秘密だったようなので私が知らなくても仕方ないよね。ボードゲーム関係に特化したGamefoundとは異なり、BackerKitはより広い範囲のクラウドファンディングプラットフォームを目指しているようですが、もしかしたらKICKSTARTERとGamefoundに加えてBackerKitも参加する三つ巴の状況になるかもしれません。既に大小のプロジェクトで賑わっているGamefoundに比べて未知の部分も多いですが、今後の展開に注目したいと思います。

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