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旧約聖書物語 13

アッシリアの捕囚となった
イスラエルの民。
善意の人と人と彼を助ける天使。
終末と救世主の出現を伝える
預言者イザヤと預言者ミカ
ユダ国の王ヒゼキヤの善行と
それに天使の剣を以って報いる神。

谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 善意の人トビト (トビト記)
2 善意の人トビト その2 (トビト記)
3 善意の人トビト その3 (トビト記)
4 預言者イザヤ (イザヤ書)
5 イザヤの預言 1 (イザヤ書抜粋1)
6 イザヤの預言 2 (イザヤ書抜粋2)
7 預言者ミカ (ミカ書抜粋)
8 ユダの王ヒゼキア (列王記下18-19)
9 ユダの王ヒゼキア その2 (列王記下18-19)
10 アッシリア軍を撃つ天使 (列王記下19-20)


1 善意の人トビト 

        (トビト記)

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アッシリアがイスラエルを攻め
民を捕まえて連れ去るようになった頃
ナフタリ族アシェルの家系で
ガラリヤのティスベの地に住み
ハナニエルを祖父にトビエルを父に持つ
トビトという男がいた。
トビトにはハンナという名の妻と
トビアという名の息子がいたが
共に捕囚となってアッシリアの都
ニエベに連れて行かれた。
トビトはモーセに従い
常に神への捧げを怠らず
また家族親戚はもちろん
寡婦や孤児や改宗者たちとも
食物を分かちあう善意の人であった。
それというのもトビトもまた幼くして
父を無くした孤児だったからである。
トビトは捕囚として
ニエベに居留する身となっても
その生き方を変えず、同胞に善を施し
飢えた者には食物を
裸のものには着物を与えた。
またトビトは、殺されたまま
街中に放置された人を見ると
捨てて置けず、自らの手で埋葬し
弔うのを常としていた。
ある暑い夜そうして死体を葬った後
暑さを避けて中庭の隅で眠った
トビトの顔に鳥が糞を落とし
トビトはそれがもとで目に白い膜ができ
両目が見えなくなった。
さて、メディアのエクバタナに
サラという娘がいた。
七人の男に嫁いだが七人とも初夜の床で
悪魔アスモダイに殺されたため
まだ処女のままだった。
トビトとサラはある日
たまたま同じ日に世を儚み
同時に神に死を願った。
そこで二人を憐んだ神が
天使ラファエルを送って二人の悩みを
解決させることにしたその日
トビトは不意に
メディアのガバエルに預けていた
銀の事を思い出した。

旧約聖書としては珍しく、ここで預言者ではなく、異郷の地アッシリアにおいてもなお、誰に対しても優しく人の心を以って接する善意の人と表現される一人の人物が登場します。トビトは自ら奇跡を起こすわけでもなく、王や民を諌めるでもなく、ただ、人としての心を失わずに慎ましく暮らす一人の普通の人間です。目が見えなくなったこの人物を神は、天使ラファエルを遣わしてさりげなく助けます。それはまるで、捕囚の身としてアッシリアでの暮らしを耐えるイスラエルの民の心の中に宿る密かな願いの表れのようにも思われます。


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