見出し画像

旧約聖書物語 20(最終章)

大国の支配のもとで弾圧され
暮らしに一切を変えられるユダヤの民
その苦境のなかで律法に準じて
殉教する律法学者エリアザル。
さらに七人の兄弟とその母親の殉教
苦しみのどん底の中で叛逆するマタティア
そしてその意志を継いで
民を率いるユダ・マカバイ。
大国から派遣させてきた大軍とのゲリラ戦
幾多の犠牲にも屈せずに戦い続ける
死を覚悟のユダ・マカバイ率いる抵抗軍と
新興大国ローマとの同盟
対してさらなる大軍をもって
エルサレムを支配下に置こうとする
セレウコス朝シリア。
大国の狭間で次第に
存在基盤を失っていくユダヤ社会。


谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 律法学者エレアザルの殉教 (マカバイ記)
2 律法学者エレアザルの殉教 その2 (マカバイ記)
3 七人兄弟とその母親の殉教 (マカバイ記)
4 祭司マタティアの反抗 (マカバイ記)
5 マタティアの遺志を継ぐユダ・マカバイ (マカバイ記)
6 ユダ・マカバイの活躍 (マカバイ記)
7 エピファネスの死と、後継者エウパトルとの戦い (マカバイ記)
8 ベトザカリアの戦い マカバイ記 (マカバイ記)
9 ユダ・マカバイを助ける白馬の騎士 (マカバイ記)
10 ローマとの同盟 (マカバイ記)
11 ユダの死と後継者ヨナタン (マカバイ記)
12 その後のユダヤ (マカバイ記)
13 その後のユダヤ その2 (マカバイ記)
14 その後のユダヤ その3 (マカバイ記)


1 律法学者エレアザルの殉教 

        (マカバイ記)

画像1

大祭司の職をメネラオスに奪い取られて
姿を隠していたヤソンは
ある日メネラオスが頼みとする
アンティオコス王が死んだ
という噂を耳にすると
ここぞとばかり1000人の手下を集め
メネラオスを討つべく
突如エルサレムになだれ込んだ。
ヤソンは同胞のユダヤ人を
手当たり次第に殺しながら
メネラオスを追い詰めたが
噂が間違いであることが判ると
形勢は逆転し、反対に命からがら
街を逃げ出す羽目となった。
事件を知った王は
機に乗じてエルサレムに兵を送り
暴動鎮圧の名目のもと
街を武力で制圧した。
その結果、3日間で4万人が殺され
4万人が逮捕されて
奴隷として売りとばされた。
更に王はメネラオスの手引きを受け
遂に神殿に踏み入り
その財宝を略奪した。
神殿から1800タラントンもの浄財を
持ち出したアンティオコスは
民の怒りを刀で制圧するため
乱暴無比なフリギア出身の
フィリポスをエルサレム総督として残し
またアンティオキアからアポロニオスに
12000の兵を与えて送り込み
成人男子を虐殺し、女子どもを
奴隷として売りとばす事を命じた。
加えて王は、ユダヤ人を
律法と先祖の神から切り離し
生き方や風習そのものを一掃するために
行政官を送り込んだ。
こうして、エルサレムの神殿は
ゼウス・オリンポス宮
ゲリジム山の神殿は
ゼウス・クセイオス宮と呼称を変えられ
割札は禁止され、民は
祭事の執行や安息日の厳守はおろか
自分がユダヤ人であると
広言することすら出来なくなった。

ユダヤ人同士の結束どころか、欲や地位に目が眩んで民同士が反目しあい、それが高じて内戦状態に陥ってしまっては、ただでさえ風前の灯だったエルサレムのユダヤ人社会にもはや平安も未来もありません。ここぞとばかりに大国が大軍を擁して攻め入ります。神殿さえもギリシャ風の名前に変えられ、律法を守ることはおろか、習慣や普段の生活のありよう、すなわち文化的な基盤そのものさえ失ってしまえば、もはや共同体の維持は不可能です。


ここから先は

11,051字 / 13画像

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?