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旧約聖書物語 7

領土を獲得したのち
ヨシュアの死後に退廃し力を失い
多民族の支配下に置かれた民の前に現れた
新たな指導者としての士師たち

谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 ヨシュアの死後 (士師記1~4)
2 デボラ女士師 (士師記4-5)
3 士師ギデオン (士師記6-8)
4 士師ギデオン その2 (士師記6-8)
5 ギデオンの子アビメレク (士師記9)
6 ギデオンの子アビメレク その2 (士師記9)
7 士師エフタ (士師記10-12)
8 士師エフタ その2 (士師記10-12)
9 士師エフタ その3 (士師記10-12)


1 ヨシュアの死後 

        (士師記1~4)

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イスラエルの民を
乳と蜜の流れる土地に導き入れ
並み居る強敵達を滅ぼし尽くして
領土とそれを守る力を与えた
ヨシュアの死後
イスラエル諸部族はそれぞれが
自らのものとすべき
領土を得るための戦いを行い
次々とそれらを勝ち取っていた。

しかし、彼らはかつてヨシュアが
神との契約においてしたように
敵を滅ぼし尽くすことはせず
一部を残し、あるいは
一部を奴隷として生かし使った。
更に時代が代わり
ヨシュアと彼が為した奇跡や偉業を
直接見知る者もいなくなった時
民は次第に
自分達をエジプトから救い出した神
そして先祖の事を忘れ
他の国々の習慣にそまり他の神々を
崇めるようにすらなっていった。

神の怒りは民を
他の国々の手に渡す形となって現われ
こうして民はあるときは略奪され
あるときは討ち負かされ奴隷とされて
虐げられる者と成り果てていった。
神は時折、民の中に
民を裁き道を正す士師を置いて
民の苦境を救ったが
それでも民は士師が死ねば
たちまち他の神々を恋い慕い、中には
士師の言葉にすら
耳をかさない者さえ出始めた。

ラピトドの妻、女預言者デボラが
士師としてイスラエルを裁き
率いるようになったのはその頃である。
当時、すでに二十五年間
鉄の戦車九百両を有するカナンの王
ヤビンの支配下にあって
苦難の中で神の助けを求めていた民は
エフライム山地の
ナツメヤシの木の下に座し
預言と裁きを与えるデボラを
しだいに士師と仰ぎ始めた。

絶対神としての神がいて、その言葉を聞く預言者などの者がいて、その者が、かつてモーセが神の名において取り決めた契約を守らぬ民を裁き率いるという構図がここでも繰り返されますが、このあたりから、民を諌め率いる者を、旧約聖書は士師と呼び始めます。これは、ヨシュア以降、民は12部族のそれぞれがそれぞれの領土を自らのために奪い取るステージ入り、ヤコブ・イスラエルの民全体というよりは、その個別の戦いの中でそれぞれの部族のために戦い、あるいは率いる役割を果たす者が、あちらこちらに現れるようになったからだと考えられます。
また、神、預言者(指導者)、民の三段構造の中では、民はしばしば愚かな(神との約束を守らない)存在として描かれます。つまり神の加護によって領土を獲得した後、民は神との約束を忘れ、あるいは無視したことによって、神の怒りをかい、その罰として領土を他の民族に奪われたり、奴隷にされたりといった苦境に追いやられます。そしてそれがしばらく続くと、それを見かねた神が、民の眼を覚まさせ苦境を救う戦士として民の中に神の声を聞く預言者的な能力と軍略に長けた士師を民の中に置くという流れになっています。つまり士師は、それぞれの部族の苦境を救うために神が遣わした指導者というわけです。士師記では、そんな部族と様々な士師たちのことが描かれています。


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