靴磨きの少年と新NISA

今年から新NISAが始まり、わずか1日で三菱UFJ-eMAXIS Slim 全世界株式(通称オルカン)が1000億を集めたとかで随分と活況らしい。
その昔、はじめての人のための3000円投資生活を読んだ時は、敗者逆転のための抜け穴といった風情だったNISAだが、今や16%以上の人が加入しているそうで、似たり寄ったりの解説本も多数出版されるようになった。
イノベーターとアーリーアダプターは合わせて16%ほどとなるため、新NISAの施行によってアーリーマジョリティのラインまで達したのだろう。

先日Xで、陰謀論者と思しき人が「新NISAは政府の陰謀。これほど政府が投資を勧めてくるのには訳がある。騙されてはいけない。」などと主張しており、やはりこのテの人はレイトマジョリティ〜ラガード層なのだろうなあと思ったのだが、ふと有名な「靴磨きの少年」のエピソードを思い出した。

投資家だったケネディの父親がある時、ウォール街で靴磨きの少年に「〇〇の株は買った方が良い」と勧められる。
ケネディは、株式相場の事など何も知らなさそうな立場の少年まで株の話をするのかと驚き、今の相場は過熱しすぎていると判断。保有していた株を売却してまもなく世界恐慌が起こったため、株価大暴落の難を逃れた…という話がある。

この話が実話かどうかはさておき、示唆に富んだ話だと思う。

新NISAのなんだか妙に羽振り良さそうなニュースを連日のように見かけるが、おそらくさほど勉強していない人たちが、とりあえずS&P500かオルカンに突っ込んでいれば将来安泰と思い込んで投資する現状は確かに危うく見えてしまう。

S&P500は米国株であるし、オルカンは全世界を謳いながらも6割が米国株で構成されている。
今から定年まで、米国株がずっと安泰だと言い切ってしまうのは幻想に浸っているだけのように思える。

ダウ100年の推移

これは、microtrendから引用したグラフだが、100年の間にかなりの上下が見られる。
注目すべき点は、1929年の世界恐慌の後、元の水準まで株価が戻るのが1958年頃と、なんと回復に30年近くもかかっている。
また、1965年頃から株価が低迷した時には、そこから1990年代半ば頃まで回復に時間がかかっており、こちらも30年ほどとなっている。

もし定年前後にこの下降の波が押し寄せたらどうなるだろうか。

回復まで10年ぐらいであれば、かなり痛手を負うものの致命的と言う程ではないかもしれないが、65歳から株価が下がり、回復に30年もかかった場合、その間にほとんどが死んでしまうだろう。

テクノロジーの進歩により、かつてのように何十年も低迷したままという事はないだろうという意見もあるが、日本のような例もある訳で(これは政治の失敗だと言われているが)安直にS&P500礼賛、オルカン礼賛というのは懐疑的な目で見ている。

※積立の場合、開始年齢にもよるが20年30年と長期に渡るならば、仮に大暴落で半額近くになってしまったとしても、プラスで済む可能性が高いと思う。
ただし投資金額に対し、高い利益を見込んで定年を迎えた場合は、大きくアテが外れてしまうだろう。

(追記)確率的には30年でも元本割れする可能性があるらしい。ただし数%のリスクを気にして初めから選択しないというのは賢明ではないだろうと思う。


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