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魔法の本 「はてしない物語」 大人の読書感想文

「他の本は読んだ後に現実世界に戻ってこられるが、この本は危険なので読まない方が良い。」

と、いじめっ子から目をつけられ、追いかけられる途中で逃げるように入った書店で、書店の主人に言われた一言。

手にしているのは「ネバーエンディングストーリー」

手にとるだけで違う世界に連れて行ってくれる美しい本。

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小学校の図書館で手にしたこの本は、今思えば、図書館の蔵書の中で一際、外国っぽさを放っていて、目立っていたのかもしれない。
大人になってこども向けの図書コーナーに行くといわゆる「こども向け」の本で溢れていて、このような装丁の本は見かけない。

本の世界に入れる「魔法の本」。

幼い頃読んだ印象と今読んだ印象、魔法の本について、変わらないのは2つ

・装丁の美しさ

・児童文学らしからぬ構成

まず、本の主人公が本の中で手にする「あかがね色の本の装丁」。

主人公が読んでいる本と同じ、「はてしない物語」を今、自分が手にして読んでいるという面白さがある。

主人公は本の中の世界ファンタージエンに入り込んでいくのだが、まさに私もこどもの頃、この本の装丁に引き込まれて、この本を読む面白さを知った。

私自身は本や映画に入り込んでしまうタイプで、幼い頃は今以上に現実世界と本の世界を混同していたような気がする。

この本は内容自体が二重、三重のメタ構造になっていて、大人になった今でこそそれを冷静にみているけど、子供のころはそれがわからず、本の世界と現実を行ったりきたりするこの物語に、とにかく引き込まれていった。

この本は人間を襲ってくる「虚無」に対抗できる「想像力」を持っているという希望を教えてくれる本だけど、
いつの間にか身についた慢心さと、慕う仲間も切り捨てる残酷さなども、こども向けとは思えないほど、鋭い文章でなかなかに容赦なく、残酷に描かれている。
映画では描かれていない、その部分がこの本の本質。

原作者のエンデが、映画版に怒っていたというのも納得。「はてしない物語」は実は凡庸な少年成長ファンタジーではない。

主人公がコンプレックスを克服して、願いを叶えて、物語の中でヒーローになるも、それが過去になっていく。

それでもラストは「よくやった」と希望で終わったかに見える。でも、それさえも今読めば、この繰り返しなのか・・・とか虚無感を感じたりもする。

この歳になると本を読んで何か読みとらなければとか、無駄に色々考えてしまうけど、当時は何を想ったのか気になります。
何も考えてなかった気もしますが(笑)

ラスト、果てしなく広がる雪原、採掘場の情景を表現する文章がとても美しい。

実はこの「はてない物語」を読み、映画「ネバーエンディングストーリー」を観て以降、ファンタジー物語を読んでないし、映画もみていない。

「ハリー・ポッターシリーズ」も観たことがなく、観ようと思ったこともない。
何故か、と考えた時に、自分の中でこの「はてしない物語」のインパクトが強すぎて、あらすじを読んで勝手に既視感を感じてしまったからだと思う。

冒険ファンタジーのストーリーはキャラさえ違うが、

「ピーターパン」「指輪物語」そしてこの「はてしない物語」

だいたいこの組み合わせではないか、と思ってしまうからかもしれない。

ファンタジーは違う世界に連れて行ってくれるものであって欲しいから、読む前から結末が見えてしまうのが嫌で、読まないのか、はたまた勝手に想像してしまうのか、理由は自分でもわからない。

これも大人になってわかることだが、「あかがね色の装丁」のはてしない物語は岩波書店のハードカバー版である。

本の厚みと美しい装丁、中も物語と同様に2色刷りで、ページをめくるという行為で本の中に引き込まれていく。

本そのものが物語に入り込む装置になっている。まさに本を読む体験が楽しい本。

昔ほど本や映画の世界に入ることができなくなったけど、今でも夢にでてきたら、また眠って(笑)同じ夢をみたいと思うし、いつでも入り込んでみたいと思う。

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