水曜午後5時55分


水曜午後5時55分。

私の統計だと最寄りスーパーのお肉コーナーに半額シールが貼られる時間はちょうどこのあたり。肩に掛けていたカバンを買い物カートのフックにかけ、カート上段にカゴをセットする

時計を見る。時刻は午後5時30分。
半額シールの時間まではあと25分、バスの出発時刻まではあと40分くらいの余裕がある。

最寄りスーパーといっても自宅からまあまあ距離のあるところに立地しているので買い物は1週間に1回きり。7日間、私の食欲とお料理欲を満たすのに十分な食料が必要なのだ。

最初に向かうのは野菜コーナー。トマトが高いということを一人暮らしになるまで知らなかった。お得なミニトマトの大容量パックもあるが一人暮らしでは賞味期限内に消化できず、必ずカビを生やしてしまう。かといって、大きいトマトは1度包丁を入れると2日以内に消化しなければという義務感に駆られる。量も値段も納得いかないままようやく8個入りミニトマトを1パック買う。

アボガドの相場は不安定だ。同じシーズンでも1週間前は158円だったのに今日は98円、なんてことはよくある。黒々しさの度合いと柔らかさを瞬時に見極めて2つカゴに収める。アボガドは私の大好物だ。

葉物野菜、キャベツとレタスを選ぶコツはまきの強さとみずみずしさ。表面の葉がみずみずしく、葉の巻きはキャベツはしっかりと強いもの、レタスは適度にふんわりとしたものを選ぶといいらしい。サニーレタスのほうが栄養価が高いらしいが、家にあるクルトンとシーザーサラダドレッシングを思い出し、普通のレタスを半玉買うことにした。

健康と美容における発酵の力は計り知れない。発酵食品が好きすぎて微生物を育てていた時期がある。キムチを1パック取ったあと、納豆コーナーへと向かう。納豆は糸の力しか勝たん。が、今日は糸の力より少し安いおかめちゃんにしておこう。

納豆コーナー隣のお魚コーナー。ジムに通い始めてからタンパク質への意識が高まり、魚と肉を毎日交互に摂取するのが目標になっているのだか、魚はなかなかコスパが悪い。しかしふくよかでつやつやな旬のブリから目が離せない。えいやっと1パック手に取る。ブリと大根の煮付けをしよう、と大根を取りに一旦野菜コーナーに戻ったあと、魚たちとの睨めっこを再開する。

すると、バックルームからラベル機を持った店員さん‪が登場した。計算通り。
図々しさ丸出しの振る舞いはしたくないし、私は品位を保ちたい。しかしこのタイミングは逃せない。

すっ、とお魚コーナーからりむぅぶして彼女の後ろをついていく。周囲にいた主婦たちも一斉に目を光らせる。ラベル機を持った彼女は1番手前の牛肉コーナーから、手際よくシールを貼っていく。半額シールに吸い込まれるようにここへ集まる主婦たちは、まるで花の蜜を求める蜂のようだ。

カルビもロースも、ましてや黒毛和牛も必要ない。半額シールが貼られてもなお、学生のご身分では手が届かない。大根の煮付けはこま切れ肉…!見つめていた遠くのこま切れ肉のパックにシールが貼られる。腕をのばし、確実に1パックつかむ。よしよし。

豚肉コーナーに進んだラベル機の彼女は淡々とシールを貼っていく。奥方達の手が伸びる。冷気が漂う小さな空間で繰り広げられる闘いはどこか優雅だ。私も、と豚のこま切れ肉に手を伸ばそうとしたのと同時に、右側から別の手がそれを掴み、次の瞬間には下に置かれていたシールのないパックが露になっていた。

判断が遅れた悔しさを胸に抱き、ラベル機を持った彼女と奥方達を置いて、先に鶏肉コーナーにすすむ。既にちらほらと20%引きシールが貼ってあるが半額シールが上書きされる可能性もある。豚肉や牛肉と同様に、鶏肉は料理のレパートリーを増やしてくれるのだが、出汁もとれるし、なにより低カロリー高タンパク質で非常に優れものだ。ささみ肉はもともとコスパがいいのでこれでもいいや、と20%引きされているささみ肉をカゴに入れる。むね肉に半額シール貼られないかなと願っていたが、ラベル機を持った彼女は素通りしてしまった。仕方なく20%引きのむね肉を手に取った。

ラベル機の彼女がバックルームに戻り、満足した奥方たちもバラバラに散っていく。
さて次は、と私は卵と牛乳を求めて乳製品コーナーに移動した。それぞれカゴに入れて、予算2000円の買い物だが、お肉の半額シールのおかげで浮いたお金を好物のクリームチーズのために使うことにする。

レジでの最終結果発表。2000円を攻めて、ぎりぎり超えなかったときの胸の高まりは、
ゲームのファイナルステージをコンプリートした時の高揚感にも似ている。

料理が好きなのか、お買い物が好きなのか、半額シールが好きなのか、レジでの高揚感が好きなのか。たぶん、全部好き。
週に一回の私のルーティンである。




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