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運動量の測定

 この記事は堀田量子の第 10 章の後半と同じ内容を「私ならこういう感じに書く」という試みです。文体は「EMANらしく」常体にしています。

 基本的に各話完結という方針でこれまで書いてしましたが、今回は第 9 章や第 10 章前半との関連が強いため、そちらの記事も併せて読んでいただくという前提でお安くしてあります。

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 それでは、どうぞお楽しみください!

運動量を一回で測定できるか

 今回は一回きりの測定によって運動量の値を正確に知る方法があるのではないかという話である。

 普通に考えると、運動量を一回きりで正確に測定するのは無理なのではないかと思える。運動量を知るためには速度が分かればいいのだが、速度を知るためには一定時間をおいた二度の位置測定が必要になる。しかし位置を正確に測定しようとすればするほど運動量への影響が大きくなるため、二度目の位置測定で得られる値はもう最初の運動量を反映したものではなくなり、信用ならなくなる。こういうやり方とは別の方法を考えなくてはならない。

 ここまでの理論によると、運動量を正確に知ることの代償として、位置を正確に知ることが出来なくなるはずである。しかし運動量を正確に知ることが出来るのならそれくらいは喜んで受け入れよう。いや、このことを逆に考えてやればいいのではないだろうか。運動量を正確に得るための方法があるとすれば、それは位置情報を完全に犠牲にするような方法であるはずである。

 前回の記事からおぼろげに見えてきた話だと、ある瞬間に一様磁場をかけてやって一定の時間後に位置を測定すれば、磁場を掛けた瞬間の運動量に応じた位置に粒子が見いだされるというのであった。もちろん粒子が電荷を持っていないと使えない方法ではあるが、興味深いアイデアである。位置を測定すると言ったが、これには矛盾は無い。磁場を掛けた瞬間の位置についてはおそらく完全に分からなくなっているはずである。

方針

 簡単にこれから行う議論の方針を話しておこう。

 前章の話によって、我々は既に 1 次元調和振動子の伝播関数がどんなものであるかを知っている。この伝播関数というのは初期状態を知っていればそこから$${ t }$$秒後の波動関数がどんな形になるかを簡単に計算できるという便利なものだった。

 まずはこの伝播関数を拡張して 2 次元の調和振動子の問題に対しても使えるようにしてやろう。

 前回の話では、2 次元の調和振動子に対して回転する座標系に変換すれば一様磁場の掛かった世界を記述できるということを確認したのだった。このことを利用して、一様磁場の掛かった世界で使える伝播関数を導いてやろう。

 それが得られれば、一様磁場が掛かった状況での初期状態から一定時間後の波動関数の形を知ることが出来て、測定しているものの意味について考えることができるようになるはずである。

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