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EMANが堀田量子第10章を書いてみた

 この記事は堀田量子の第 10 章と同じ内容を「私ならこういう感じに書く」という試みです。これを読めば理論の見通しが良くなって堀田量子の教科書を読みやすくなるかもしれません。数式に用いる記号は改変してあります。文体は「EMANらしく」常体にしておきます。

 今回はこの章の前半にあたる 10.1 節の内容だけを記事にしております。後半の 10.2 節は後日、別の記事として公開しようと思います。

 第 9 章と同じく元々の教科書ではとても短い章ですが、詳しく書き直したので他の章と同じくらいの分量に膨らんでいます。表向きは「磁場中の荷電粒子」といういかにも応用的な話であるかのように見えますが、実はこれまでに準備してきた話の総まとめ的な位置にあり、かなり重要な章であると私は考えています。

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 それでは、どうぞお楽しみください!

空間の次元を増やす

 久しぶりに A 系と B 系という二つの系を用意して議論しよう。どちらの系も粒子系である。どちらも調和振動子の基底状態$${ \ket{0} }$$になっているとすると合成系は$${ \ket{0} \otimes \ket{0} }$$と表せる。

 A 系にのみ作用する昇降演算子を$${ \hat{a} \,,\, \hat{a}^{\dagger} }$$という記号で表そう。また、B 系にのみ作用する昇降演算子を$${ \hat{b} \,,\, \hat{b}^{\dagger} }$$という記号で表そう。これらは同じものだが、分かりやすいように記号を書き分けることにした。

 これらを合成系に作用させるときには、例えば$${ (\hat{a}^{\dagger} \otimes \hat{I} )(\ket{0} \otimes \ket{0}) }$$だとか、$${ (\hat{I} \otimes \hat{b}^{\dagger})(\ket{0} \otimes \ket{0}) }$$だとかいう感じに表記するのが正式なやり方だが、$${ \hat{I} }$$や$${ \otimes }$$という記号を省略してしまっても意味は読み取れるだろう。例えば今挙げたようなものは$${ \hat{a}^{\dagger} \ket{0} \ket{0} }$$だとか、$${ \hat{b}^{\dagger} \ket{0} \ket{0} }$$だとかいう表記に簡略化できる。昇降演算子の記号をわざわざ書き分けたのはこのような表記を可能にするためである。

 基底状態$${ \ket{0} \ket{0} }$$に対してこのような演算子を繰り返し作用させることで、合成系の状態を様々に変えることが出来る。例えば次のような関係が成り立つことが前章までの話から簡単に推測できるだろう。

$$
\ket{n_a} \ket{n_b} \ =\ \frac{1}{\sqrt{n_a\,! \ n_b\,!}} (\hat{a}^{\dagger})^{n_a} \, (\hat{b}^{\dagger})^{n_b} \, \ket{0} \ket{0} \tag{1}
$$

 このような操作が可能であるという例として挙げてみただけであって、この式は今回は重要ではない。

 次に、A 系の位置演算子や運動量演算子を次のように定義しよう。

$$
\begin{aligned}
\hat{X} \ &=\ \sqrt{\frac{\hbar}{m \omega}}(\hat{a} + \hat{a}^{\dagger}) \\[5pt]
\hat{P}_{\!\scriptscriptstyle X} \ &=\ \frac{1}{i} \sqrt{\frac{\hbar m \omega}{2}}(\hat{a} - \hat{a}^{\dagger}) \tag{2}
\end{aligned}
$$

 第 8 章で定義したのと同じものを記号を変えて書いただけである。第 8 章では$${ L }$$という定数を使っていたが、第 9 章で$${ L }$$を調和振動子に合わせて書き換えたのでそれを使っている。これと同様に B 系の位置演算子や運動量演算子を次のように定義しよう。

$$
\begin{aligned}
\hat{Y} \ &=\ \sqrt{\frac{\hbar}{m \omega}}(\hat{b} + \hat{b}^{\dagger}) \\[5pt]
\hat{P}_{\!\scriptscriptstyle Y} \ &=\ \frac{1}{i} \sqrt{\frac{\hbar m \omega}{2}}(\hat{b} - \hat{b}^{\dagger}) \tag{3}
\end{aligned}
$$

 さて、A 系と B 系のハミルトニアンの和は次のように表せるだろう。

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