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EMANが堀田量子第9章を書いてみた

 この記事は、堀田量子の第 9 章と同じ内容を「私ならこういう感じに書く」という試みです。これを読めば理論の見通しが良くなって堀田量子の教科書を読みやすくなるかもしれません。数式に用いる記号は改変してあります。文体は「EMANらしく」常体にしておきます。

 元々の教科書ではとても短い章ですが、詳しく書き直したので他の章と同じくらいの分量に膨らんでいます。

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 それでは、どうぞお楽しみください!

物理的意味を探る

 前章では可算無限次元空間の中に$${ \ket{n} }$$という基底を導入して議論を展開していったのだった。今回はこの$${ \ket{n} }$$が物理的にどのような状態を意味しているのかを解明する話である。

 $${ \ket{n} }$$は個数演算子$${ \hat{N} }$$の固有状態なのだった。

$$
\hat{N} \, \ket{n} \ =\ n \, \ket{n} \tag{1}
$$

 よって、この$${ \hat{N} }$$がどんな物理量に相当する演算子なのかを調べてやればいいだろう。$${ \hat{N} }$$は次のように定義されていたのだった。

$$
\hat{N} = \hat{a}^\dagger \, \hat{a} \tag{2}
$$

 ところで、前章では昇降演算子$${ \hat{a} }$$や$${ \hat{a}^{\dagger} }$$を使って位置演算子$${ \hat{x} }$$や運動量演算子$${ \hat{p} }$$を定義したのだった。

$$
\begin{aligned}
\hat{x} \ &=\ \frac{L}{\sqrt{2}}(\hat{a} + \hat{a}^{\dagger}) \\[5pt]
\hat{p} \ &=\ \frac{\hbar}{\sqrt{2}\,i\,L}(\hat{a} - \hat{a}^{\dagger}) \tag{3}
\end{aligned}
$$

 そしてこれらを逆に解くことによって、昇降演算子を$${ \hat{x} }$$や$${ \hat{p} }$$で表すことができる。

$$
\begin{aligned}
\hat{a} \ &=\ \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \frac{\hat{x}}{L} + i \frac{L \hat{p}}{\hbar} \right) \\[5pt]
\hat{a}^{\dagger} \ &=\ \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \frac{\hat{x}}{L} - i \frac{L \hat{p}}{\hbar} \right) \tag{4}
\end{aligned}
$$

 この (4) 式を (2) 式に代入してやれば、$${ \hat{N} }$$を$${ \hat{x} }$$や$${ \hat{p} }$$で表せるので、$${ \hat{N} }$$がどんな物理量に相当するのかを推測できそうだ。

$$
\begin{aligned}
\hat{N} \ &=\ \frac{1}{2} \left( \frac{\hat{x}}{L} - i \frac{L \hat{p}}{\hbar} \right)\left( \frac{\hat{x}}{L} + i \frac{L \hat{p}}{\hbar} \right) \\
&=\ \frac{1}{2} \left( \frac{{\hat{x}}^2}{L^2} + \frac{L^2 {\hat{p}}^2}{\hbar^2} + \frac{i}{\hbar}( \hat{x}\hat{p} - \hat{p}\hat{x} ) \right) \\
&=\ \frac{1}{2} \left( \frac{{\hat{x}}^2}{L^2} + \frac{L^2 {\hat{p}}^2}{\hbar^2} + \frac{i}{\hbar} i\hbar \right) \\
&=\ \frac{1}{2} \frac{1}{L^2} {\hat{x}}^2 \ +\ \frac{1}{2} \frac{L^2}{\hbar^2} {\hat{p}}^2 \ -\ \frac{1}{2} \tag{5}
\end{aligned}
$$

 ここで$${ [\hat{x}, \hat{p} ] = i\hbar }$$という交換関係を利用した。位置の 2 乗に比例する量と、運動量の 2 乗に比例する量の和という形が出てきている。弾性エネルギーと運動エネルギーの和を思い出す。

$$
E \ =\ \frac{1}{2} kx^2 \ +\ \frac{p^2}{2m} \tag{6}
$$

 しかし次元が合っていない。(5) 式の両辺は無次元になっているからである。これをエネルギーの次元に合わせて解釈するためには係数を調整しないといけないだろう。まず (5) 式の両辺に$${ \hbar^2/(L^2 m) }$$を掛けてやろう。そうすれば (5) 式の最終行の右辺第 2 項を運動エネルギーっぽい見た目に変えられる。

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