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えんがちょ

【メンバーシップサポータープラン用連載記事 ③】

老親を総合病院の歯科に連れて行った時の待合室でのこと。

私が親の治療を待つために座っているすぐ横に七十代くらいだろうとおぼしき老夫婦がいた。夫は椅子にどっしりと腰掛け、妻はその横に荷物を持って立っている。
 夫は、待合室にいる短い間でも、私がため息をつきたくなるほど妻に対して横暴で支配的な態度だ。亭主関白というのとはまた違う。聞いているだけで心がしんどくなってくる。

ふと気づく。

夫が言葉や態度で毒を吐く度に、ちょうど私の目の高さにある妻の指が〝えんがちょ〟している。

しばらく、私は妻の指に注目していた。

やはりえんがちょをしている。

えんがちょなんて、若い人は知らない人もいるかもしれないが、子どもの頃、今と違って、野良犬が多かったこともあり、道には当たり前のように犬のうんちが転がっていた。

遊んでいると犬のうんちを踏んでしまう子がよくいた。私もよく踏んだ。

そんな時「えんがちょ、えんがちょ」と言いながら、人差し指に中指を重ね絡ませる仕草がはやった。

えんがちょとは、災難や不浄なものから自分を守る、また縁を切るためのおまじない。

宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」でも「えんがちょ、切った」と釜爺が千尋に言うシーンがある。こちらは、千に指で円を作らせて、釜爺が、その円(印)を手刀で切るという仕草だったが。これも、不浄なものから縁を切るというものだ。

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