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2023年フー・ファイターズの活動記録

■フーファイ、活動再開宣言

2023年、Foo Fightersがついに動き出しました。2022年3月にバンド内でデイヴとともに大きな柱となっていたドラマー、テイラー・ホーキンスが急逝したことで、すべてのフーファイとしての活動をストップ。個人での音楽活動は続けたもののバンドとしての存続さえ危ぶまれた時間のなか、年末の12/31に彼らは声明を出しました。そこには、あまりに辛すぎる時間を支えて見守ってくれたファンへの感謝、そして音楽が何よりも自分たちを救ってくれる存在であることを記していました。それでも、テイラーがいないバンドは別のものになるであろうことも理解して、これからも心のなかのテイラーとともに活動を続ける意志を示唆。それが遠い未来ではないことも書き綴っていました。
詳しくはこちらにて2022年の活動を振り返っています。


まだ当面時間がかかる、それでも仕方がないとファンは思っていただけに、これほど早い活動再開宣言はかなり驚きました。でも、これまでもどんなにハードな局面でも前に前に進み続けるのがFoo Fightersであったのも間違いなく、むしろファンの方が背中を押されたような気持ちでした。
バンドはその後、しばし音信不通であったものの2月にデイヴとネイトがアイルランドにいることがTwitterで流れてきて、ファンは「もしやレコーディングか…?」とざわざわ。未だそれが何だったのかは分かりませんが、デイヴとアイルランドは思い出深い繋がりもあります。かつてカートが亡くなった際に、当時Nirvanaのドラマーであったデイヴはショックを受けているなか乱れ飛ぶ憶測や報道に心身ともに追い詰められ、逃げ込んだのがアイルランドの地でした。そこで通りすがりにNirvanaのTシャツを着た少年を目にして、逃げてはいけないと我に返った彼が作ったのがFoo Fightersなのです。もし再びスタートを切るためにアイルランドにいてもおかしくはない、とファンは推測しています。


■止まらないライヴ告知&フジロック’23 ヘッドライナーに決定!!

年が明けて、さあこれからどう動くのかな…と思っていた矢先に始まったのが立て続けに告知されるフェスのヘッドライナー! どういう形でいつ動くのかもわからないままに5月のボストンでのフェスを皮切りに、アメリカ&EU、南米のフェスがばかすか告知されていきました。テイラーの後任ドラマーすら発表もなく戸惑うファンを完全に置いてけぼりにしながら、次々と告知しつつ間に差し込む謎のワンマン。フェス単品出演というより、これはもしかしてツアーなのか…? と薄っすら思いながら、もちろんそれも瞬殺でソールドアウトにしながら、どんどんスケジュールが埋まっていきます。

そんななかフジロックの最初のラインナップが発表になるタイミングで流出したリークにフーファイがいる、という衝撃のニュースが飛び込んで来ました。正直、もし再始動のツアーだとしてもまだ日本は入らないと思っていました。すでに夏のフェスはアメリカで多く決まっていましたし、合間で来る距離ではなく、かつバンドにとって今年は手堅い集客とファン層があるところで全体的な基盤を作るのではないかと勝手に思っていたのです。何よりまったく心の準備ができていないために個人的にはかなり動揺しました。
そして、今年も渋谷のビジョンでラインナップの発表となり、フジロッカーさんの配信を祈るように見つめる中、一番最初に出たロゴはFoo Fightersでした。

1stラインナップ発表時

2018年のサマソニ以来、5年ぶりの来日。
日本に再び来てくれる嬉しさと、でもテイラーがいない寂しさももちろんあって、この1年の色んな感情が溢れ出して大号泣。それでもとにかく嬉しかったです。世論はフジのヘッドライナーの変わり映えのなさにいろいろあるようですが、今年フーファイが来日する意味はファンにとってはとてつもなく大きく、新生フーファイをしっかり受け止めなくてはいけないんだなと感じることでもあります。おそらく、フーファイはフジロックが大好きで、前回出演の伝説の骨折玉座ライヴとなった2015年のときも、20周年ということもあり彼らからオファーをしたと聞いています。97年の嵐のフジロックに出てますから、その時の印象がとにかく大きいんでしょうね。本音は15年やってないワンマンで来てほしい!!のですが、バンドにとっては安心安定のフジロックなのかな……。
さらに、後日発表になった日割りで何とフジロックの花形である土曜日のヘッドライナーに決定! 嘘でしょ!? とさすがに思いました…。だって今まで万年金曜日のヘッドライナーで、お祭りの景気付けみたいな立ち位置だとファンも理解していました。日本での立ち位置はずっとそこくらいなんだろうなーと良い意味で諦めていたので、結成28年目にしてこの昇格ともいえる土曜日のトリは本当に驚きました。

個人的にもうひとつ大きなことは、同じ日にAlanis Morissetteが登場すること! 大名盤となった彼女の95年のアルバム「Jagged Little Pill」のツアーでドラムを叩いていたのがテイラー・ホーキンスでした。


ずば抜けた彼のパフォーマンスはアラニスとの相性も良く、私も勿論ですが多くの人の印象に残っていました。デイヴはそのアラニスのバックで叩くテイラーを見て、声をかけたという経緯があります(ドラマーを探してると聞いたから電話した、というテイラーの話もあるため、諸説有り)。アラニスはテイラーとずっと一緒にやりたかったそうなので、とてもショックだったと語っていましたが、でも思い返せば彼はフーファイに入るために生まれてきたような人だと分かったから、とも話していました。しかしその後は活動タイミングが合わず、なかなか接点がなかったアラニスとテイラー。それでも事あるごとにテイラーは恩人としてデイヴとアラニスを挙げていました。彼女がいなければ、自分の今はあり得ないと。デビュー盤が20周年を迎えたことを機にカムバックしたアラニスとテイラーはコロナ前の数年、ようやく2人の笑顔の写真などがあがり、いつかまた一緒に演奏できる日がくるのでは…と私もファンも大きく期待していました。

アラニスのInstagramから

しかし公の場でそれは叶わないまま、去年のテイラーのトリビュート・コンサートでもアラニスは1曲だけ登場。他のアーティストはデイヴから前フリの紹介があるなか、彼女は自分で望んだのでしょう、紹介もMCもなく、そのまま彼女らしくテイラーと何度も演奏したであろう「You Oughta Know」を歌いきって、その後デイヴと随分長い時間ハグしたのち、何も言わないままにステージを降りていきました。今も彼女のライヴで「Ironic」を演奏したあとにはテイラーの写真がスクリーンに映し出されています。彼女は公にテイラーに対するコメントを出すことはしていませんが、それだけ今も彼女の中に残る存在ではあるのかな、と勝手ながらに感じています。

ということもあり、実はフーファイとアラニスが同じ日でフェスに出るのはおそらく96年ぶりくらいになるのでは、と思います。テイラーが繋いだアラニスとフーファイの貴重な並びを日本で見られるなんて、胸熱すぎる。勿論デイヴとアラニスは旧知の仲ではありますからフジロックでのステージで去年のトリビュート・コンサート以来の再共演となるのか、と皆さんもわくわくしていますね。はー、テイラーにいてほしかったなぁ……。


■テイラー、お誕生日おめでとう

2/17はテイラーの誕生日。本当なら51歳の誕生日でした。
いつもメンバーの誰の誕生日でもそんなことには触れない公式さんですが、今年はテイラーの写真をあげていました。

みんなずっとずっと、永遠にあなたが恋しいです。
ずっと一生変わらないこのままのテイラーの姿で、きっと今もどこかで笑顔で大好きな音楽を続けていると信じています。

■4月再始動、新曲「Rescued」リリース

2月には、イギリスのラジオDJがポロッとフーファイが来月(3月)新曲をリリースする、という情報を話してしまい、遂に…!?とファンが沸いてみたり(のちにDJさんが肯定も否定もせず、ラジオでデイヴに謝罪してとりあえず終了)、3月にはイギリスのタブロイド紙The Sunで後任ドラマーがマット・キャメロンとアトム・ウィラードの2人体制になるというSunらしいゴシップでざわつかせたり(秒速でマットさんは否定)、少しずつ真偽不明の話が出ては消えていきました。
そして、テイラーが亡くなって1年。その日はテイラーの家でメンバーと家族が集まり、デイヴがBBQを振る舞ったそう。

5月からフェス、ツアーが始まるのに音沙汰がない状態のまま迎えた4月中旬。遂にバンドが動き出しました。

まずはボーカル抜きの音源だけ。みんなが最も気になっていたドラムが特に耳に付きます。この時点で大多数がデイヴが叩いてるに違いない、という意見が多く、実際楽曲クレジットにメンバー以外がいないことから間違いないという話が爆速で伝わってきました。ファンすげえ。
そして画像に映し出されている「俺と同じことを君も思っているのか?」という文章。

そして1週間後にはさらに、今度はギターが全面に出たような音源と「君も同じように感じているか? これが今起こっていることだと」という文章。フーファイらしいサウンドであることがこの2つのツイートでとても良くわかり、彼らが変わることなく”今までのフーファイ”で進み続けることも感じられて安堵したひとも多かったと思います。2022年にあれだけのことがあり、自らテイラーがいないことは違うバンドも同然、と記載していただけに、まったく違う音楽性も視野に入るのかもと思っていました。でも、彼らは今までの路線を突き進むことにしたのです。

4/19にFoo Fightersは新曲「Rescued」をリリース、同時に6/2に11枚目のアルバムとなる「But Here We Are」のリリースを発表。約1年ぶりに活動を再開しました。
プレスリリースには、彼らが2022年に経験し、感じてきたあらゆる感情をすべて描いた楽曲であること、その作業と家族や友人との関わり、そして何より音楽が深い癒しになったことが記されていました。
ほとんど真っ白で目を凝らさないと見えないバンドロゴやアルバムタイトルは、何かとこってりしがちなジャケ写が多かったフーファイにとって未だかつてないほどシンプルで、「それでも俺たちはここにいる」としたアルバム名も新たな決意のように感じられます。
何より、「Rescued」というタイトルと「俺を救ってくれ。誰か俺を生き返らせてくれないか」という今までにないほどに自分自身の気持ちをストレートにさらけ出した歌詞。苦しい1年であったデイヴ自身の言葉であることが間違いなく、フーファイらしいサウンドと相まってテイラーを思いながら聴いていました。
サウンド面では、一部のプレスリリースで発表されたグレック・カースティンとの共同プロデュースである点が前作から継続。ただ、かなり同じくグレッグがプロデュースした過去2作よりもフーファイ自身のサウンドメイクが強い印象に思えました。

今回のアルバムには繊細であまりにも深く重い背景もあるためか、いつもであればリリースに伴う必ず笑いが入るMVもなし、マーチ(グッズ)もごくごくシンプルなロゴの数アイテムのみ。派手に展開するアルバムのバンドルもまったくありませんでした。それを見ただけで、このアルバムが彼らの自浄作品であるような位置付けを察して、おそらくプロモーションも一切しないつもりなんだろうな…と感じています。

■コーチェラ飛び入りと先行曲2曲目「Under You」リリース

「Rescued」がリリースされてからも、夏のスケジュールが一気に埋まる勢いでフェスが決まっていきますが、やはりMVはおろか宣伝らしい宣伝もなく、サブスク関連の広告くらい。新しいドラマーの気配もなく、本人たちも沈黙したまま。
そんななかコーチェラを楽しむデイヴが目撃情報があちこちに出てきて、元気そうで良かったなーと思っていたんですが……

何してるん、あなたwwwwww
配信にばっちり映ってました。ちなみにコーチェラにシークレットでフーファイが出たわけでも、なんならもうコーチェラは21年位出てないんですけどね(笑)麦わら帽子を被ったお客さんで来て、ステージでギャーーーーー!!!!ってやって去っていく我らの大将。ちなみにWet Legは今年のフーファイのツアーでサポートアクトに出てくれます。いいなあ。

そんなこんなで5月に入り、もうそろそろツアーも始まるよね…どうするんだろ…とそわそわし始めた頃。Rescuedとは逆に、今度は歌詞だけのツイートがアップされました。

「目がさめて、100万マイル歩いた/ずっと君のことを探し続けてきたんだ/今までずっと昨日のように感じる/君と一緒に100万マイルを歩いたことを」
その歌詞は他の誰でもないテイラーに宛てたものだと、一聴して分かるものでした。このコーラスも、本当ならテイラーがかぶせていたパートかもしれない。幻聴すら聴こえそうなほど、耳に残る歌詞とメロディでした。

そして、5/17に新譜から2曲目の先行曲となる「Under You」がリリースされました。「乗り越えるんだ/乗り越えれると思えるか?/でも乗り越えることなんかできない/いつの日か君のことから抜け出すよ」とストレートすぎるほどに書かれたもがく感情であるにもかかわらず、驚いたのはその曲調でした。ものすごくポップでこんなにメロディがはっきりポップに振ったのは何年ぶり!? その歌詞に逆行するような超パワーポップソングになっていました。だいぶびっくりしたよ…。だからこそ、その歌詞が痛いくらいに耳に入ってきてしまう現象が起きてしまい、物凄い速さで歌詞も覚えてしまいましたね……。ギターで主メロを弾いてしまう「Generator」のような懐かしさのなかで、ドラムはやはりデイヴだね、と確信するアプローチ。びっくりするほどのポップさの中で、ネイトの技量や楽器隊の強さが光る曲でもありました。
同時にアナウンスされたのは、「Preparing Music for Concerts」と称された世界同時配信イベントの開催。タイトルが微妙にダサい……と思ったのはあとから配信収録中にノリで決まったせいだと分かることになるわけですが、ここで彼らがすべてを解禁するであろうと確信。
今まではワールドツアーの初日となると、事前に小さなクラブでウォームアップギグと称して事前にライヴをやったりして、そこでツアーのセトリやアレンジが分かることが多かったフーファイ。各国ファンはそれをSNSで追っかけるのが通常営業でした。ですが、今回はすべてが違います。何よりもテイラーの後任となるドラマーが最重要項目となっているわけで、それを世界各国公平に配信で発表する形にしたのです。

■お約束の寸劇とともに新ドラマーにジョシュ・フリーズを発表


5/21(日本時間で5/22早朝)全世界同時配信となったこのイベント。新曲のパフォーマンスとビハインド、ちょっとしたサプライズもあるかもよ? との前振りだったので、サプライズとは…とあれこれ思いながら当日までそわそわしながら待っていました。
音源はデイヴがドラムを叩いていたので、気持ち的にはまだ落ち着いて聴いていられますが、フーファイに新しいドラマーが入る、と思うと、やはりどこかでまだ信じがたく、とてつもない寂しさはあります。26年間、テイラーがいるフーファイを見続けていた故に想像ができないのは仕方がないことで、何よりメンバーが一番その気持ちの間で今も演奏をしているのだから、ファンとしても見守ってあげなくては、と私は自分に言い聞かせていました。


配信は彼らのスタジオである「Studio 606」で収録されました。新しいドラマーはトップシークレットで箝口令が敷かれていたはずなので納得です。リハ室は真っ黒なカーテンが敷かれた中で、楽器を抱えて談笑する5人のメンバー。本来の姿であるいつもながらに明るく、テイラーがいないせいなのか、メンバー全員がよく喋る喋る。デイヴがおしゃべりのイメージが強いと思いますが、このバンドは実は全員がよく喋ります。ネイトが物静か、とよく言われますが、テイラーは「ネイトがああいう感じだからそっとしておこう、みたいになるけど、全然ちげーから!」と昔言ってたのを思い出しつつ乱闘騒ぎの話をするメンバーを見ていると、ノックする音が。
「どーぞ!」とデイヴがいうと、顔を出したのはレッチリのチャド! しかもドラムスティックまで持ってる。一瞬にして「嘘だろありえないチャドなんておかしい。あんなに忙しい人が」と思うも、チャドは明るく挨拶をして「悪いんだけど、白のベンツが邪魔で出られなくてさ」とどうも駐車スペースの話のよう。ラミが「あ、俺のか?」とそそくさ。チャドが帰ったあとも「チャド良いやつだよなー! 覚えてるか? 俺等がレッチリと24年前くらいに一緒にツアーに回ってて、赤いシャツに黒いネクタイでさー」と談笑は続きます。そして再びノックの後に顔を出したのはモトリーのトミー・リー!! 「いや絶対ないから」とこちらが更に思うも、同じくドラムスティック片手のトミーは「差し入れもってきたよー!」となんとも微笑ましく、メンバーも「ありがとー!」と応じます。その後まだまだネイトの新しいベースストラップのいじりが始まり、談笑は止まりません。やっぱこれは彼らお得意の寸劇だわ……と気づき始めた頃、さらにノックが。出てきたのはToolのダニー、しかも右手にドラムスティック、左手には2頭の美人なプードル! ねえこれどんな状況なのwww ダニーは「トリミングしといたよー!」と。さすがのメンバーも戸惑いつつ「あいつがトリミングできるなんて知ってた!?やばくね?」みたいになってます。

そして、そんな寸劇のくだりを断ち切るべく
「あのさー! 悪いんだけど、もうそろそろ曲やろうよ!」
と顔を出したのが、ドラムセットに座った呆れ顔のw ジョシュ・フリーズ。胸には名札を貼っています(爆笑)。彼こそが新しいフーファイのドラマーでした。ジョシュはロック・オルタナ界で長らくミュージシャンに愛されるスーパー・セッションドラマーで、多種多様なバンドのドラムを任されています。NIN、Devoを始め日本のミュージシャンも数多く彼に依頼していて、最近ではスティングのドラムも担当していました。詳しくはこちらの鈴木さんのインタビューにて、ぜひ彼の人柄も含めて知ってください。

テイラーとジョシュは、音楽マニアなテイラーが元々彼のドラムが大好きで、ずっと聴いていたそう。ここ5-6年で特に仲が良くなり、テイラーのサイドプロジェクトChevy Metalのライヴにも参加してくれたことがあります。また、去年のテイラーのトリビュート・コンサートにも勿論参加。テイラーと同じセッティングで叩くと決心して挑んでくれたのがジョシュでした。当時のレポはこちらで紹介しています。

ジョシュが新ドラマーになるのでは、という話は当初よりすでにあちこちから聞こえていました。ジョシュの誕生会にデイヴがいたり、彼がついていたバンドのドラマーが変わっていたりとそんなこともあり、何より技量も十分すぎるほどで、さらにセッションドラマーとして数多くのバンドで叩いている精神的な強さ、テイラーは勿論フーファイとも歳が近く、仲がいいことも条件のすべてを満たしているように思えます。
傍から見れば、レギュラーで叩いていない期間が長くなったにせよロック界を代表する名ドラマーといわれるデイヴ・グロールのバンドでドラムを叩くプレッシャーと、それを27年間全力で成し遂げたテイラー・ホーキンスの後任ともなれば大変なことだと思います。どういった経緯でどういう気持ちで引き受けたのかはまだ彼の言葉で聞くことはできませんが、相当な覚悟があったのでは…と勝手ながらに思っています。

因みに、寸劇のなかでチャドの話していた白いベンツ、トミーの着ていたバンドTシャツ、そしてダニーが連れていた美人プードルはすべてジョシュに関わること(愛犬)だったそう。フーファイ側の芸が細かいw
こんな茶番に各バンド忙しい時間をあわせて付き合ってくれた3人には本当に感謝だし、いい仲間なんだなーと思います。そして、その茶番にしっかり呆れ顔をできる寸劇の才能があるジョシュも、フーファイに適任なのかもしれませんね。
因みに、新ドラマーではあるものの、新メンバーとかツアー(サポート)ドラマーとかいう括りは今のところありません。昔からそのあたりはぼんやりやるバンド(参考例:長年ツアーとレコーディングで弾いてたけどなんでメンバーじゃないんだろう、と急に我に返ったデイヴにメンバー昇格されたラミ&ツアーに疲れて脱退したものの、さりげなくカムバックしてゆるく世界を回りながらメンバー復帰したパットさん)なので、これからもそういう括りはしないんじゃないかなーと思います。

「All My Life」から始まった新生フーファイの音は、全世界のファンが安堵したものだったかもしれません。たしかにそこにはテイラーはいません。いるべきはずの姿のないバンドを見るのは、トリビュート・コンサート以上に本当に本当に寂しいものがありました。それでも、前に進むと決心したフーファイはやっぱり強かった。元から有力視されていたジョシュのドラムはアレンジがない限り原曲に忠実で、テイラーの力強い音に遜色ないパワーで完璧に叩いていきます。曲の飲み込み方が巧すぎて、ファンへ最大限配慮した絶対にがっかりさせないドラミングにメンバーも笑ってしまうほどです。そして、新生フーファイらしく今までにない切り口としてデイヴから依頼されたのかツーバスを準備していたジョシュ。爆速の「No Sons of Mine」にはデイヴも大満足の様子でした。これまでテイラーがメインだったコーラスはこの時点ではほぼシフティが担当。普段からソロ活動で歌っているシフティなので、無難にこなしてくれていて安心。曲間での和やかなお喋りもみんなよく喋りよく笑っていて、雰囲気の良さが伺えました。ドラマーの件で、ファンたちがどこかでずっとナーバスだった空気を見事一蹴したメンバーたち。これならきっと大丈夫! と確信できた1時間の配信でした。

■デイヴの娘とのデュエット曲「Show Me How」&歴代最長10分曲「The Teacher」公開

新譜がリリースされる直前に立て続けに公開された2曲。

美しいMVとともにリリースされた「Show Me How」はデイヴの長女ヴァイオレットとのデュエット曲です。現在17歳の彼女はとても美しい声と音楽センスを持ち合わせていて、親の七光り以上に才能を持つ存在に成長しています。これまでも学校が休みの期間などはフーファイのツアーにコーラス隊の中に参加したり、去年のテイラーのトリビュート・コンサートでメインボーカルを取るなど徐々に頭角を現してきましたが、彼女がここまで起用されるのは初めてのこと。さすが父娘だからか、絶妙なふたりの声のバランスに聞き入ってしまうほどに素晴らしい曲に仕上がっています。

そして新譜リリース直前に公開されたのがフーファイ歴代最長となる10分超えの長尺曲「The Teacher」。唯一メンバーが登場するMVも作成されました。デイヴの幼少時代から彼の成長過程で母親ヴァージニアの存在がどれほど大きいものか、その歌詞とサイケな映像に断片的に散らばる親子の姿から伝わってきます。デイヴの母親は去年8月に亡くなったとされ、デイヴは高齢だった母親と一緒に住んでいたという話もあります。教師であり、女手一つでデイヴたちを育て上げた母親への尊敬と愛情は、本やドキュメンタリーを一緒に制作するくらい強いものでもありました。「Show Me How」と「The Teacher」は母親への気持ちが切々と歌詞にも反映された曲でもあります。ぜひ日本盤でその歌詞を読んでみてください。

■2023年、新生フーファイのツアー開始!!

2022年3月から止まっていたライヴ活動が遂にスタートしました。

初日のニューハンプシャーでのライヴは満員のお客さんが拍手と大歓声で彼らを迎えました。メンバーもファンも万感の思いがあったと思います。この日は初めて演奏される曲も含めて全21曲、以前と変わらぬ全力の彼らのライヴだったようです。
仕事がよくできるジョシュは安定していましたが、楽曲のアレンジが大きく変わった曲もあったり、これまでとは違う部分も感じることが多かったです。そんななか一番大きく変わったのはコーラス面です。今まではコーラスはほぼテイラーがメイン、一部をシフティが取る形でした。それが今回はシフティと、ネイトがコーラスを取っています。ネイトは初期のフーファイで一瞬だけコーラスを取っていましたが、それ以降は前に出てくることはなくいつもアンプの前で安定感抜群で弾くのが日常。デイヴが一枚看板のように先頭に立ち、その後ろでテイラーを筆頭に援護していく構成でした。それが、今回のツアーはデイヴと同じ位置にシフティ、ネイト、パットが前一列に並ぶことが増えて、大きくステージの見え方が変化。今までの、”フーファイはデイヴのバンド”という位置づけから”全員でフーファイをやっていく”という印象を強く感じました。テイラーのいないその状況を演奏面ではジョシュが支え、バンドの精神面では全員で前に立ち、全部を背負って乗り越えていこうとしているようにも思えます。これはとても大きくて、28年目にして新しく、そして胸にくるものがあります。それでも、テイラーを決して忘れることはない彼らの想いは目に見えて、曲にも現れています。この初日だけの演奏になりましたが、テイラーが作詞作曲した最初の曲「Cold Day in the Sun」をデイヴがテイラーへの想いを話しながら涙ながらに弾き語りで歌い、それを優しく後ろから見守るメンバーたちがいたり、テイラーの好きな曲だから毎晩必ず演奏すると誓った「Aurora」。その宣言通り、ツアー開始からこれまでフェスも含めて毎回必ず演奏しています。

ボストンでのフェスはフーファイのファミリーデーだったそうで、ホーキンス一家も一緒に来ていたそう。…ということで、テイラーの息子シェーンが再びステージに登場!

登場するやいなや「ちょっとドラム調整するからなんか喋ってて」とデイヴに言う大物ぶり、挙げ句、曲紹介してる途中に演奏を始めてしまうデイヴを雑に扱うシェーンおもろすぎる(笑)とーちゃん代わりに日頃いろいろ多分言われてるんだろうと勝手に察してるんだけど、それでもドラムを叩けばこの勢い。デイヴもわろてる。少しずつステージ慣れもしてる感じなので、たまにこうして叩きながら、彼自身が目指す姿になれたらいいなと願っています。

ツアー余談。
デイヴ大将、故郷のライヴハウスで銅像になる。

斬新だね……。



■11枚目のアルバム「But Here We Are」リリース

2023年6月2日、フーファイ11枚目となるアルバム「But Here We Are」がリリースされました。目立ったプロモーションがまったくないなか、リリース前日には世界各国で早朝の朝日が昇るタイミングでのリスニングパーティも開催され(日本は時差の関係で他の国より早いリリースになるからか開催はなし)、ラジオ体操並みに朝5-6時に集まる熱心なファンが夜明けとともに、いち早くバンドの再始動をその音とともに体感できたようです。

「But Here We Are」というアルバムは、バンド史上もっとも悲しく美しく、そして力強いアルバムに仕上がっていました。ポジティヴな強さはこれまでもバンドの象徴でしたが、今回はそのベクトルがあまりにも大きなものを失ったものすごくマイナスから強烈に発生しているので、どの曲もどこかに必ず喪失感をまとうのは初めてのこと。歌詞が見えないほどに薄く印字され、「For Virginia & Taylor」と裏ジャケットの隅に書かれたパッケージ。ストレートすぎるほどにその悲しみや苦しみ、行きどころのない感情を書き綴った歌詞は、英語圏のファンじゃなくてよかったかもしれないと思うほど、ときに胸をめちゃくちゃに締め付けます。プロデュースはフーファイと前作まで2作担当してきたグレッグ・カースティン。レコーディングメンバーは前作「Medicine at Midnight」のチームで、グレッグのスタジオとスタジオ606で録音されたもののようです。レコーディング情報も極秘だったので、唯一リリース後にFacebook等にupされた数枚の写真のみの情報。とにかく多くを語ることはないアルバムになりました。いつもは大人数でカメラもいたりするレコーディング風景ですが、今回は最少人数で行われたようです。公表されてはいませんが、ジョシュ加入の配信時の会話でこのアルバムを叩いたのはデイヴ本人であることを示唆する内容があったため、ファンはデイヴが全曲を叩いたという認識でいます。

A most heartfelt and profound ‘thank you’ to Greg Kurstin, Julian Burg, Darrell Thorp, Spike Stent, John Lousteau,...

Posted by Foo Fighters on Thursday, June 8, 2023

写真にあるレコーディングされた(予定だった?)曲が30曲あり、昔から出ては消えている曲もちらほら(そして今回も入らず)。思った以上に曲数を準備していたことにも驚きました。

アルバムの中で今回、個人的に注目したのは「But Here We Are」そして「Beyond Me」です。
「But Here We Are」はBest of You系統とも思えますが、アルバムタイトルにもなった今期の彼らの強い意志を叫ぶ曲。

フーファイらしいその真っ直ぐな激強サウンドに響く怒涛の変速ドラムパターン。こりゃデイヴ、やったな……と最初に聴いたときはウワー!ってなりましたが、今やギターを弾いてるほうが長いんだけど…と本人も言ってはいるものの名ロックドラマーの手腕としてさすがでしょう。でも何より、この楽曲は新生フーファイのそのものの曲ともいえるし、ライヴ向きであり、強いアンセムになると思うのですが、今回のツアーでセトリから外れており……。これから続くツアーでぜひ育ててほしいなと思います。

「Beyond Me」は個人的に物凄く刺さった曲になりました。フーファイとしてのここまでのいわゆるバラードの良さを詰め込んだ楽曲は、近年でもあまりなかったと思います。メロディから楽曲展開、歌詞、サウンドメイクに至るまで、あらゆる角度でよくできた楽曲だと思ったのが第一印象でした。近年のフーファイは若干大げさなサウンドメイクをしがちで、それでもはまってしまうバンドではあったのですが、彼らの3rdアルバム「There is Nothing Left to Lose」のようなシンプルなメロディとドラマチックな楽曲展開を感じつつ、ギターソロがとてもいい。何度聴いてもすごく好きな曲です。
今回のアルバム全般的に、重いテーマのなかに沈みそうなデイヴを他のメンバーがサウンド面で引っ張り上げているようにも思えます。それぐらい、全員が素晴らしい仕事をしたアルバムになりました。今までのアルバムと比べることはできないですが、各メディアでは最高傑作ともいわれて高評価を得ています。

個人的にはテイラーがいたらどう叩いただろう、と思う瞬間が何度もありましたし、散りばめられたテイラーへの想いを聴いては何度も泣いています。テイラーがいたら生まれなかったアルバムでもあり、でもどこかにずっと彼を感じることができる5人が全身全霊で作ってくれたアルバム。ファンとしても大切な1枚になりました。

■デイヴからの感謝の手紙とグラストンベリーへの匂わせ…?

高い評価を受ける新譜リリースと、並行してアメリカ国内のフェスやワンマン、ドイツのRock Am Ringのヘッドライナーで連日ファンからもとても温かい気持ちを受け取る日々にデイヴが感謝の手紙をupしました。

日本語訳はこちらで確認できます。

https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/126208/2

一緒に歌い、叫び、涙しながら、喜びというさまざまな感情を掻き立て、一緒に共有してくれるファンへの感謝の気持ちをデイヴは書き綴っています。今までもこれからも、お互いにそういう存在でいよう、と締められた手紙にこの1年以上、メンバーがどんな思いで過ごしているかずっと気になっていた気持ちがようやくホッとできました。

しかしファンはそれだけでは終わりません。この手紙にあった「Churning up」の文字にUKファンはざわざわ。実は6月末に開催されるグラストンベリーに謎のバンド「The Churnups」がいて、これがフーファイでは? という一説があったためです。同時にPulp説もあり真偽が謎でしたが、この若干違和感のある一文にUKファンは歓喜。いくつも決まる海外ツアーの中で、フーファイにとって最大の熱狂的ファンコミュニティであるイギリスがまだ発表されていなかったのです。
フーファイは過去何度も変名バンドとしてライヴを行っていますが、基本最後まで黙ってやることができません(笑)必ず匂わせ、何なら先にほぼ言っちゃうくらいの我慢のできなさで有名です。なので、きっとこれも匂わせでは…と数多くのUKファンがグラストに向けて意気込んでいきました。

■グラストンベリーで変名バンド「The Churnups」としてサプライズ(?)登場

グラスト当日、すでに会場にいるデイヴがキャッチされ(笑)全然潜んでなくて笑いつつ、BBCの配信リストにも謎バンドなのにしっかり「The Churnups」がラインナップされ、もう何もかも準備万端でその時を迎えました。

知ってはいたけどやっぱりアガる。それがフー・ファイターズというバンドのすごさです。そしてこのお客さんの数!!!!!

夕方の1時間枠に10万人といわれるヘッドライナークラスの集客をしてしまう彼ら、ほんとにほんとにUKに愛されるロックバンドすぎて私まで感激してしまいました。そしてとんでもない大合唱で、お客さんがバンドを引っ張っていく大熱量は同じファンでも毎度敵わないと思います。今までも歴史的なライヴをUKでやってきたフーファイですが、このグラストも格別の内容になりました。
ステージ脇ではポール・マッカートニー、ガンズのダフ&スラッシュも見学。ステージ脇の観客数もすごい。


もうどうにもお客さんが優勝すぎるので動画を見ていただきたい。
長年フーファイを常に最大熱量で応援してくれたUKファンの心強さは28年経っても全く変わることなく、とにかくすごいとしか言いようがないです。
そしてこの日、来年6月のUKツアーが解禁。すべてスタジアムクラスという、本国アメリカ以上に規模の大きなツアーも見事に即日完売!!
時期的にもしかしたら来年のグラストに正式にヘッドライナーとして登場するのでは…? ともいわれています。

そして、その後のデイヴ大将はグラスト無双を開始。
Pretendersにお邪魔したり、

ヘッドライナーのガンズにも入れてもらったり(最後のカーテンコールまで入れていただいて……)(過去よりも今は今でとても仲良しで嬉しい)

誰よりもグラストを満喫していったのでした。