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【創作小説】肉屋の正義の味方(捨て犬の安楽死って?ドリームボックスの残虐②)

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「まつおくん! 犬を捨てなきゃならない理由ってあるの!? どうしても!? 」
津久子は、内心のどうしょうもない血の沸騰するような感情を極力抑えて尋ねた。殺処分される犬たちが、どんな目に遭うかまつおはおそらく知らない。
「え……! つ、津久子さん……、うちじゃもう犬は飼えないんだ……」
まつおは、歯切れが悪い。
「どうして? ちゃんと説明できるの? 」
「え……」
津久子は、殺処分の現場ーー「ドリームボックス」を見せることを決心した。

津久子は、信子に頼んで「ドリームボックス」を見せてもらった。まつおを連れて。
「ドリームボックス」では、今 まさに部屋の中に犬たちが、詰め込まれようとしていた。
動物は、自分たちが「殺されるのだ」というのを本能的に察知する能力があるという。
犬たちは、小便を垂らすもの、プルプル震えるもの、泣き喚くもの、様々がいた。津久子は、内心の想いを封じ込めて まつおにも(ちゃんと見る)ことを促した。
まつおは、顔を真っ青にしている。
「こんな、こんな、犬たち怯えるの? おしっこ漏らしてるコもいるじゃない? こんなに怖がるの? 安楽死させるんでしょ? 大丈夫なのに……」
「『安楽』じゃないんだよ、見てみ」
近くにいた信子が、スイッチを押す。
部屋の壁が、犬たちを追いやって どんどん狭いスペースへ追いやる。そこで……
炭酸ガスが流し込まれた。犬たちは(ガウッガウッ)苦しげな喘ぎを始める。ドアにすがり付き、爪を立て、壁を削る……。窒息していくのだ。苦しげに、必死に掻く爪痕も悲しく……。
まつおは、正視できなかった。
津久子は、うつむいていた。

まつおは、しょんぼりと、自分の抱えていたトイプードルのボックスを見下ろした。
「トイちゃん……帰ろう……。ごめんな。あんな目には……遭わせられないよ……」
まつおの目にかなりの涙が。帰る姿は、肩がかたかたと震えていた。

あれから、3ヶ月。
津久子は、商店街の近くの高級住宅街を歩いていた。穏やかな日だった。
後ろから、軽自動車の音が近づいてくる。
「津久子さーん! 」
まつおだ。
「あら、まつおちゃん、どうしたの? 」
「津久子さん、この間はお世話になりました」
まつおは、以前より大人びて、丁寧なしっかりした口調で話し始めた。
「ボク、捨て犬や猫の保護活動NPO法人始めたんです。捨てられそうな犬猫や、殺処分寸前のペットを保護しようと……。まだまだ、活動し始めで右も左も分からないけど……」
津久子の表情が明るく変わった。まつおは続ける、
「資金はいくらでも何とかします。だから、戦います! なんとか、あんな悲惨な目に遭って死んでしまう犬たちが減るように、ぺットたちが、悲惨な目に遭わないように!! 」




(捨て犬の安楽死って?ドリームボックスの残虐編おわり)

トップ画像は、メイプル楓さんです。
いつもお世話になっております。

©2023.8.21.山田えみこ

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