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国際金融制度改革の必要 付論 − 市場を歪める金融緩和

朝日新聞7月17日付6面「顕れたもろさ コロナ危機と経済5」で、金融緩和による材料高騰の話が出ていた。実需に基づかず、思惑で原材料が上がるというのは、在庫を持たなくても商品をやりとりできる先物市場あってのものだと考えられる。在庫を抱えなければならないとなったら、そのコストを考えれば思惑だけで買い占めなどはできないからだ。在庫を抱えても物価が上がるということならば、それは実需に基づくものだと考えて良いと思うが、在庫リスクなしで価格変動の鞘取り主導で価格が上がるというのは、それは実需とはいえない。そういうものを生み出すのが先物市場であり、その意味で、決して生産者の価格変動リスクをヘッジするなどといった、その金融商品の理想的な姿を実現しているとは言い難く、むしろ価格変動リスクを増幅している、というのが実態なのだろう。

金融緩和と地域経済安全保障

これは、資源の効率的配分なる、完全市場の前提によってさらに悪化している。もし、買い手がジャスト・イン・タイムのような在庫をなるべく圧縮するという圧力がかかっていなければ、たとえば最大1年分くらいの飼料在庫を買い手が確保できる資本冗長性があれば、先物業者は買い占めたところで売り切れるかどうかわからないので、買い占めリスクがかなり下がることになる。期日が来れば先物業者にしてもそれを引き取らなければならないわけで、そこで現物を抱えてしまったら身動きが取れなくなるからだ。だから、値上がりリスクに対処するためには、買い手の方である程度の在庫を確保して自衛するというのが一番効果的であり、そうすることでたとえばサイロの建築費用であったり、在庫管理の運転資金需要が生まれ、まさにそれによって経済が動き出すのだ。そういった、決して利益率は高くないが、地域の経済安全保障を守るような地域密着の金融機関、典型的には地方銀行に合併・規模拡大・利益率上昇の圧力をかけ、一方で実業の利益を全て吸い上げるような金融商品の扱いを、フィンテックだ、と言って持ち上げるようなことをしていたら、いくら金融緩和しようとも、実体経済はどんどん縮小してしまう。

金融市場のもたらす実体経済の非効率

これからわかるのは、金融商品によって実現されるはずの「資源の効率的配分」は、決して経済の拡大に寄与することはなく、そして価格変動などのリスクを無くすものでもない、ということなのだ。そういう観点から言えば、資源の効率的配分を実現するため、という大義名分で拡大している金融商品というものが本当に必要なのか、というのは検討されるべきなのだろう。金融商品という実需を伴わないものを扱う仲介業者が入ることによって、本当の市場の情報が覆い隠され、逆に効率的市場が実現できなくなるということも大いにありうるからだ。たとえば、上記の例で、買い手の方の在庫状況がわかれば、実需に基づいて生産計画が立てられることになり、中間業者が例えばバイオエタノールに転売したから飼料としての需給が逼迫する、などといった、飼料としての実需でも、天候リスクでもない、中間業者リスクとでも呼べるような余計なリスクを抱え込むことも無くなる。このケースは、まさに中間業者によって効率的市場が阻害された例であり、在庫リスクを取る中間業者ならともかく、在庫を持たない思惑買によってそのようなリスクが発生すれば、それはまさに金融商品そのものが効率的市場を阻害していることになるのだ。

さらに歪みを拡大させるデリバティブ

そして、そのような金融商品が、さらにデリバティブとして、例えばエコ燃料としてのバイオエタノール、というバズワードとつながることで、さらに飼料としての実需からかけ離れてくる。こうなると、仕入価格の時点で飼料としては見合わないようなものになってくる。まあ、そこまで行けばそれはそれで実需だと言えるのかもしれないが、金融商品として上がった価格が、本当にバイオエタノールで吸収できるような価格なのか、というのは大いに疑問であり、結局どこかでバブルが弾けて暴落した在庫が溢れる、ということになれば、いったいどこに市場の安定化作用があるのか、ということになる。個別段階で計算上利益が確保できていたとしても、それは在庫すら持たない、まさに机上の空論であり、そしてそれを売り捌いてしまえば、その後それが実現しようがしまいが関係ない、という、金融商品の無責任さがそのような市場の変動を引き起こすのだ。それはいったい誰にとって利益をもたらすのか?売り手も、買い手も、市場によって翻弄されるだけで、それによって安定的な生産活動が促進されるわけでもない。なぜ、誰かが在庫も持たずにぼろ儲けするために、そのような市場に翻弄されなければならないのか。

賃金上昇を政策目標とすることの是非

この記事においては、そのような原材料価格の上昇を、量的緩和に伴う所与のものとした上で、それが物価上昇につながらないのがおかしい、という議論になって、そのためには値上がり分を上回る賃金上昇が必要なので、政策目標を物価ではなく賃金上昇率に切り替えるべきだとしている。量的緩和が市場に対して効果がない中で、それよりもさらに政策手段の限られた賃金上昇率を政策目標にして、いったいどのようにそれを実現するつもりなのか。最低賃金の引き上げ、あるいは労使交渉への介入など、全く生産性に関わらない政治闘争を、生産体である企業に持ち込んで、さらに生産性を下げるのがオチだろう。量的緩和が効かないのならば、なぜそれが効かないのか、ということを十分に検討した上で対策を練らなければ、量的緩和の効かない部分を放置した上に、さらに新たな賃金への政治介入という市場を歪める要素を加えるだけで、状況は悪くなる一方だろう。

結論 ー 量的緩和のボトルネックは金融商品

そのような、あまりに非生産的な、まさに無駄なことを無くすためにも、量的緩和が効かない直接的な原因である、金融商品、特に実需を伴わない先物やデリバティブといったものは、禁止されて然るべきだろう。

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