資産運用特区

現実世界から遊離したようなことばかり書いている気がするので、時事問題にも取り組んでゆきたい。メディア記事を元にして具体的議論が盛り上がることは、議論の発展のために重要だと思うので、新聞記事などの評論というほどのこともないが、感想でも書いてゆきたい。

資産運用特区 創設へ

では、早速9月22日付日本経済新聞一面トップの「資産運用特区 創設へ」を見てみる。繰り返し記事になっているので、総理にとってはよほど重要で、アピールする必要があることのようだが、「首相が講演する「ニューヨーク経済クラブ」は1907年に設立された会員制組織で、米国経済界のリーダー層が集う。日本の首相がこの場で話をするのは初めてとなる。」とのこと。銀行員出身ということで、日本の総理には珍しく経済の話ができる、ということを示そうとしているか。

記事の中身は、資産運用立国についてが中心となっている。基本的に価値観が私と全くずれているので、個別に論評してもおそらく全く噛み合わないと思われる。そこで、「岸田首相の講演のポイント」との対照で、何らかの生産的な議論が成り立つように工夫してみたい。

日本経済の現状

まず、最近の日本経済については、「名目GDP成長率は主要先進国で最高の伸び」、「国内投資は100兆円超と史上最高を更新見通し」とのこと。「2000兆円を超える日本の個人金融資産を生かした資産運用ビジネスの発展を目指す」とのことだが、名目GDPの伸びが主要先進国で最高の国の国内投資が100兆円では、G20全ての投資を賄ってもあまりある資産だということになる。すなわち、過剰投資となり、不良債権化する見通しが高いことを意味する。そんな見通しの暗い資産運用立国を積極的に推し進める意味は一体どこにあるのだろうか。

経済対策との両立は

一方で、今秋の経済対策としては、「構造的賃上げと持続可能性を強める官民投資に重点」、「リスキリングや職務給導入など労働市場改革を前進」、「環境・AI・半導体などの先端分野で投資支援策」となっている。
これらを両立させるには、資産運用を実需要で行い、マーケットを拡大することで投資を喚起する、という方法しかないのではないか、と感じる。

生活運転資金クーポン

具体的には、一人月10万の生活運転資金について個人金融資産から政府が借入し、生活運転資金として、一人につき毎月10万のクーポンを貸し付け、それを支払いによって受け取った企業はその増加相当分についてクーポンによってもたらされた新規の需要だと考えて、賃上げに用いなければならない、と定め、賃金支払いでクーポンを消化し、そのクーポンを返済に回すことで循環させるという仕組みが考えられる。クーポンについては、返済が済めば先の月のものを前借りできることとし、それによってクーポンの流通速度を上げる。流通速度が上がれば、クーポン貸付について利子が発生してもクーポンで返済できるようになり、負担は減る。一方で、未返済残高が多い人は優先的に雇用しないといけないことを義務付け、それによって返済が滞らないようすることができる。クーポンは小売業者に溜まりがちだと思われるので、当月分のものについてはその月に限り仕入れ決済に使うことができるとし、なるべく早い使用を促進する。

需要直結政策クーポン

リスキリング、あるいは環境・AI・半導体等政策的テーマはこれまたクーポン融資を行い、最終需要が確保されるようにすることで、それぞれの分野への投資を促進する。クーポンはテーマに関わる財やサービスの購入に限定した上で、最終的にそのテーマに直接関わる投資を行った企業への支払いへ向くようにし、借入をクーポンで返済できるようにすれば、銀行は少し高めの利子設定をしても借り手の負担感は減るかもしれない。政策投資できちんと利益を出せるようにすることは重要なことだろう。クーポンは日銀借入の返済に現金と等価として環流することで、投資と融資との一貫性を確保できる。消費者へのこの政策クーポン融資は、毎月のクーポンで返済することもできるようにする。その際に受け取ったクーポンをそのまま返済に使えるようにするか、それともそれは一旦使った上で、新たに受け取ったクーポンによって返済するかはクーポンの流通度次第で変えられるようにしたら良いかもしれない。新たに受け取ったクーポンによる返済の方が政策効果は高いが、返済リスクを恐れてクーポンを使わずに死蔵させてしまうリスクを生じるかもしれない。

生き物としての金融を最大限活かすために

資産運用というのは、実体的な商流の動きの上で、その鞘取りを行うことで、利益を上げるものなので、実体経済が動かなければ、どれだけ運用のプロを集めてもまったく意味をなさない。2000兆もの巨額な資金を運用するのならば、それ相応の実需を整えてそれに臨まないと利益を出せるはずもない。金融というのは生き物にとっての血液のようなものであり、体のあちこちに酸素を送り届けて代わりに二酸化炭素を回収することで初めて意味を持つ。どこかにためておいたり、ただ血圧の高い(物理的には低い)ところに集まり続けるようなことではバランスが保てなくなってしまう。金融が会計で表現される以上、金融資産の裏側には必ず負債が必要であり、巨額の個人金融資産を保つためには、できるだけ多くの借金をしてもらう必要がある。個人の資産ならば、できる限り個人に負担にならないような仕組みで負債を担ってもらうというのが、貸借で考える金融において合理的な思考であると言えるのではないか。現状はそれを政府の巨額な負債でバランスをとっているのであり、そこに物理的に利益のでそうもない資産運用会社を呼び込むというのは、責任が自らに及ばないように借金の踏み倒しを考えているのではないか、と勘ぐりたくもなる。本気で資産を運用しようと考えるのならば、需要の創出と結びついた需要創出型投資というのが今後ますます重要となってゆくことだろう。

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