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381.稲葉優子さんと行くみちひらきの旅(日吉東照宮~関蝉丸神社編 2023.4.2)


空を覆うような枝垂れ桜の下で、言葉もなく、降り注ぐ圧倒的な畏敬のもとに、動けずにいる。

(降ってくる。降ってくる。降ってくる)

(本文より)

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ことだま師仲間の稲葉優子さんから、

「日曜日に大津の関蝉丸神社にお詣りに行く」

という趣旨のメッセージが届いたのは、土曜日の朝。

関蝉丸神社は、2022年10月10日に、優子さんと京都府八幡市に坐する石清水八幡宮を一緒にお詣りしたことに端を発し、ご縁が結ばれた神社だ。

そのときの経緯は、「稲葉優子さんと行くみちひらきの旅(石清水八幡宮編 2022.10.10)」と、その番外編のブログに綴っている。

(この機会は逃せない)

幸い、午後の予定が空いていたので、14時にJR大津駅で待ち合わせした。

豊玉姫がお祀りされている関蝉丸神社下社は、そこから徒歩10分ほどのはず。
上社には、関所を越えていく旅人たちの守り神、猿田彦命がお祀りされている。

ところが、大津に到着すると、優子さんは、手にスマホを握りしめ、

「やっぱり、どうしても、日吉東照宮に行きたい」と。

(日吉東照宮?)

最寄り駅はJR大津ではない。

(ここから、どうやって?)

大津から日吉東照宮へのアクセスを、すでにリサーチ済みの優子さんのスマホナビに導かれ、JR大津駅から、京阪石山坂本線「島の関」駅へGO。

「島の関」駅が無人だったことに驚きながら、ホームに入ってきた電車に、行先も確かめずに乗りこむ。

降車するのは終点の「坂本比叡山口」なので、のんびりできると安心していたら、「近江神宮」駅止まりだという車内アナウンス。

あわてて、車内の路線図を確認すると、路線は一本なので、次の電車を待てばいいことがわかり、一緒に降ろされたお客さんとともに、近江神宮駅で待つ。

近江神宮といえば、かるた選手権大会のニュースで、何度も耳にする名称だ。
お詣りしたことはない。
ほどなく、電車がやってきて、こんどこそ終点の坂本比叡山口まで運ばれていく。

電車を降り、駅を出て、目に入る看板には、日吉大社があり、延暦寺へ向かうケーブルがあり、一日ではとても回り切れないエネルギーを感じる。

そんなご神域に、すでに日が傾きかけている午後3時に降り立ち、日吉大社にもケーブル乗り場にも背を向けて、日吉東照宮を目指す私たち。

(なんて、ぜいたくな時間)

参道は、「日吉馬場」と呼ばれている県道で、鳥居の向こうに、夢のような桜並木が続いているのが見える。


年度替わりの繁忙で、お花見には行けないと思っていたのに、こうして滋賀県にいる。

鳥居をくぐると、すぐ右手に、信じられない巨木の枝垂れ桜がそびえているのが目に入り、思わず、踏み出したばかりの参道からそれて、桜に近づいていく。

周囲は塀に囲まれていて、どこにも入口が見当たらない。
さらに進むと、名前を記した表札が掲げられた門があり、かたく鎖されている。

(まさか、個人宅!?)
(こんなに立派な枝垂れ桜がある庭って、どんなお屋敷なのーーー)

空を覆うような枝垂れ桜の下で、言葉もなく、降り注ぐ圧倒的な畏敬のもとに、動けずにいる。

「樹齢何年くらいかな」と、優子さんがつぶやいている声。
どのくらいなのか、想像もできない。

見上げると、いっぱいに、

(降ってくる。降ってくる。降ってくる)

あきらめきれずに入口を探してうろうろしていると、庭に人がいる気配。
植え込みのすきまから、年配の女性がしゃがんで、庭仕事をしているのが見えた。

「すみませーん」と、勇気を出して声をかける。

わかったことは、枝垂れ桜は隣の敷地のもので、詳しいことは知らないということ。
豊臣秀吉の「醍醐の花見」で有名な、京都の醍醐寺の桜と同じDNAを持つと言われていること。

「隣の〇〇院」と聞こえた気がして、お寺なら入口があるのではと思い、もう一度、先まで進んでみたけれど、外部のものが出入りできるような入口は見当たらず、うしろ髪をひかれる思いで、参道へ戻る。

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帰宅してから調べてわかったことは、このりっぱな枝垂れ桜の樹齢は二百年を超え、「太閤桜」と呼ばれていること。

豊臣秀吉の待医だった全宗が、かつて住んでいた延暦寺の里坊のひとつである「薬樹院」のものだということ。

「醍醐の花見」は、1598年の春に、豊臣秀吉が、七百本の桜を七日間で集め、醍醐の山々に茶屋を設けて催した盛大な宴だということ。

その5か月後に、秀吉は亡くなったこと。

どこから桜を集めたのかを記した記録も残されていて、醍醐寺の桜が受け継がれてきた故郷を探るために、畿内の樹齢二百年以上の枝垂れ桜のDNAが調査され、そのときに、薬樹院の枝垂れ桜と醍醐寺の枝垂れ桜のDNAが近いことがわかったそうだ。

薬樹院の者が、醍醐の花見に招かれていた記録も残っているそうで、薬樹院の枝垂れ桜は、後に醍醐寺から贈られたものではないかと書かれた資料もある。

桜の開花は短く、ほどなく風に散ってしまう。
でも、次の春には、再び開花する。
何百年でも。

醍醐寺の桜に逢いに行きたくなる。

家康が祀られている日吉東照宮を目指す途上で、あまりの威光に心を奪われ、足を止め、脇道にそれて、その下に立ったのが、秀吉縁の太閤桜というのも、感慨深い。

参道は、桜吹雪。
満開の時期を過ぎ、散り初めの今だからこそ、目にできる光景。



優子さんとのみちひらきの旅は、まだまだこれから。
つづきます。

次は、日吉東照宮でのお花見タイム。

浜田えみな


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