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プラントO&M分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する技術動向とこれから

皆様はじめまして。EMLの上野と申します。

弊社は、プラントオーナー様向けにプラントの設備保全DXに関するサービスを提供している会社です。プラント保全基幹システムである、EMLink(及びEMシリーズ)の開発・販売を中心に付帯するコンサルティングサービス(DX支援)や先端研究機関との産学連携活動を推進しております。

初回の投稿から少し間が空いてしまいましたが、本日は我が国のプラント産業における新たな潮流 - デジタル・トランスフォーメーション(DX)についてマクロ的観点から弊社の見解を述べさせて頂きます。(技術的な所見については次回以降)


我が国のプラント設備運用における「本質的課題」

プラント設備を生産アセットとして抱える石油・石油化学・化学産業は、我が国の高度経済成長期と共に急速に発展し、連関するサプライチェーンは1970~80年台に確立されています。従って、現在でも多くの企業がこれらのレガシー・サプライチェーン・アセット(つまり、比較的古い生産設備の集合体)を運営しながら収益機会を獲得してる状況にあります。

そのような状況の中、現在でも我が国の基幹事業である化学・素材産業(プラント産業)に、注目すべき二つのマクロ環境的課題が生じております。

一つ目の課題は、関係者の皆様も肌感覚で捉えていると思いますが、プラント設備全体の老朽化です。プラント設備は、一度の投資が企業規模に対して非常に大きな金額となることから、所謂「スクラップ&ビルド」方式ではなく個々の機械設備を修繕/リプレイスしながら全体として数10年単位で使い続けるケースが非常に多くなります(基礎化学品に近づくと半世紀以上の歴史を持つプラントも見られます)。
近年、高度成長期以降に建設されたプラント設備老朽化が深刻化の一途を辿り、これは年々増加する事故報告件数(図1左)にも明示的に表れていると考えられます。
*事故報告の集計区分・範囲変更による影響も含まれています

二つ目の課題は、現在/将来における保全技術者の不足です。総合メンテナンス企業であるマイスターエンジニアリングの分析によれば、プラント関連職を含む機械修理技術者数は、2000年から2045年にかけて約半減すると予想されています(図1右)。設備を保有するオーナー企業側の技術者だけでなく、メンテナンス実務を行う外注専門業者のリソース不足、技術承継問題が深刻化する可能性を示唆しています。既に、プラント現場では保全技術者不足が叫ばれている中、10年後には現在の8割の水準まで落ち込むことが予想され、人材不足は既に危険水域まで達しているといっても過言ではありません。
*㈱マイスターエンジニアリング発行調査レポート:http://www.mystar.co.jp/news/pdf/news_20230428.pdf

図1 プラント現場における「マクロ環境的課題」

これら2つの「マクロ環境的課題」は、我が国の経済発展の経緯や土地の利活用、法令、人口動態に起因するものであり、直接的な解決は不可能に近いと言えます。従って、生産能力 / 生産性維持のためにはテクノロジーを活用したO&M業務(Operation and Maintenance)の抜本的改革が急務であり、その一つの手段としてデジタル・トランスフォーメーション(DX)による飛躍的な生産性の向上が求められています。

プラントO&M分野でのデジタル技術動向

グローバルから当該領域を俯瞰すると、圧倒的な投資余力を有するオイルメジャーを中心に進展し、オイル&ガス業界のDX投資額は2022年の約5兆円から2027年までには約10兆円になると予想されています。こうした動きは、下流ケミカル業界でも観察されており、グローバル全体では、石油~化学業界まで合わせて数十兆円規模のマーケットになることを示唆しています

EMLにて直近の実証フェーズ以降のプラントO&Mに関するグローバル動向を調査した結果、60を超える事例(ベンダの技術カタログではなく、プラントユーザー側が公表した先進的DX事例)が見つかっております。

図2 プラントO&M分野におけるグローバル・DX技術動向(既に実証フェーズの技術)

各事例の技術動向を整理しますと、テクノロジー軸では

(1)    ロボティクス:自動巡回ロボット、壁面 / 狭所空間移動ロボット(2)    IoT・センシング:回転機振動センサ、アナログ計器のA/D変換ツール

など、2010年代前半より多くの技術ベンダにより開発されてきたハードウエア系のテクノロジーが広く実用化されてきたことに加えてて、

(3)    データ基盤・ML:運転、保全データの統合整備プラットフォーム確率、機械学習による不具合因子解析
(4)    AI制御: AIを用いた自動運転、損傷要因AI解析
(5)    xR:ヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブルデバイス活用

 といった、2010年台後半から急速に進化を遂げて実証フェーズに入りつつあるソフトウェア系のテクノロジーも開発競争が盛んです。また、直近ではハード×ソフトの連携を前提とした複合型のテクノロジーで多くの事例が派生しています。これらの”デジタルテクノロジー”は、特にグローバル企業のプラント現場で実証フェーズを迎えており、今後はより一層加速度を増していくものと考えられます。

国内プラント産業におけるDX推進のこれから

翻って、国内化学産業においては、一部大手企業(石油精製、石油化学系企業)では大型投資による現場DXの推進が見られるものの、産業全体に広くその傾向が認められるわけではありません。その背景には、もちろん企業規模に比例した投資余力という大変重要なファクターはあると思いますが、もう一段深堀すると、一品一様の設備で危険流体を扱うプラント設備ならではの構造的課題があると考えております。

我が国の化学/素材産業は、そのほとんどが従業員200名以下の中堅・小規模なプラント設備であり、産業全体のDX推進・競争力向上のためには、(個社の巨大な投資に頼らず)各ステークホルダー同士の垣根を超えた協力と構造的課題の解消が不可欠です。
*今回は割愛しますが、EMLが横浜国立大学と共催する「中堅・小規模プラントの現場DX推進に関する研究会」にて、多くのプレイヤーと議論しながら(投資規模以外の)構造的課題を整理しています。

EMLでは多数のプラントユーザーと議論を交わす中で、構造的課題を解消するためのヒントは「現場での電子機器利活用」と「データ標準化」の2つにあると仮説を持っています。

今後の弊社noteでは、国内プラント産業にあまねくデジタルテクノロジーを普及させるために必要な2つのテーマ(重要ファクター)を定め、各々について技術・業務プロセス・コスト・法令の各種観点から深堀してまいります。

  • テーマ1:現場データ測定のための電子機器利活用推進

  • テーマ2:プラント設備/メンテナンスデータの産業間標準化