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【cinema】『歪んだ関係』若松孝二

すっきりしない空が続いて、家で仕事をしていて17:30くらいからそわそわして、多分ここで我慢すると後遺症がろくでもないような気がして、18:40くらいに急な予定変更を家族に告げた。単に「映画館で観たい病」である。

桜の興味は少なめ。今年の花見はこれで。2秒くらい。

身近なミニシアター、横浜シネマリン

夕方に思い立って、パッと思いついたのが近年よく行く横浜シネマリン。多摩川を渡るけど京急だけで行ける最寄りのミニシアター。最終上映回が本当に遅くて、今回もそれだけで出かけた。都心に出るには最終回に間に合うかわからないのと分母が多すぎて選ぶ時間も惜しい。今回は若松孝二特集やっている。平素の私ならあえて選ばないけど、だからこそ面白い。どうやら予約した『歪んだ関係』はサスペンスカラーが強いらしい。どうでもいい。私は映画館の椅子と暗闇に身を沈めたいのだ。日の出町は確か試聴室その3もここにあるような気がするけど、最近はもっぱら映画を観に行く。横浜駅より、中華街より、港より、ここが私のヨコハマ。

シネマリン入口

迫力まみれのスクリーン、音楽

自分が映画に接するようになった頃は「若松孝二」という名前の響き自体に既にキャラが立っていて、ピンク映画時代の作品タイトルが少女だった自分にはなかなか受け入れ難く、「エロティックな関係」とかはテレビかビデオでみたかなーくらいで、正直食わず嫌いをしていた。
若松孝二がいいのか、この『歪んだ関係』が良いのか、もうしょっぱなからズズズと引き摺り込まれた。ノスタルジーではなく、手書きなのかしら、演者のクレジットがかっこいい。

《ここからネタバレ》ってほどでもないけど

朝帰りした産婦人科医(林孝一)が、戻った自宅のベッドに横たわる妻(城山路子)の遺体を発見。犯人探しとそこに至るまでのそれぞれのストーリーが交わされる。半世紀以上前のサスペンスで飲酒運転、自白強要取り調べ、取り調べ室での喫煙、コンプラ違反が随所に転がっているけど(捜査官の鼻毛抜きもコンプラ違反ではないけどイヤ)、詐欺探偵と主人公の待ち合わせ場所が青山霊園の入り口で、まさにあの場所でそれだけで胸が熱くなり、週末青山霊園行ってみようかと思っている。そして、詐欺探偵(きっと藤田功、情報少ない)が運転する左ハンドルのオープンジープみたいな車は遊園地のアトラクションみたいなバーがついていたり、殺された奥さんが大学生といちゃつく旅館では、奥さんが旅館に入る時に女将から「もうダンナさん(浮気相手)待ってますよー」なんて大っぴらに話していたり、きっとラブホができる前ってこんな感じだったのかしら、実に粋である。
役者陣も今検索しても確かな情報に辿り着けない人が多いのだけど、お医者さんの林孝一さんの顔力、詐欺探偵のイナセっぷり、なんかリアクションの濃さでない人間そのものの迫力に圧倒される。圧倒されるというなら奥さんの城山路子(光岡早苗と名乗っていた時期の方が長いらしい)、真犯人役の産婦人科医院の看護師、新高恵子の美しさ、艶やかさ、密度にもうクラクラだった。母がかつて「イマドキの女優は普通っぽくてちっとも憧れを抱くことができない」と嘆いていたが、私は嘆きこそしないけど、手に届かないような遠くて眩しい美しさに浸ることができた。

音楽担当は誰なんだろう

冒頭からノックアウトされたけど、とにかく音楽が格好良くてたまらない。作品のテイストに合わせてだろうけど、ほぼベースとドラムのみ、スリリングで抑制の利いたフリージャズみたいなベースとドラムばかりの音楽がとにかくいい。かっこいい書体でのクレジットでも音楽担当はあったかな、見逃してしまったのかな。みだりにシーンを煽るでもなく、無音以上に静けさをもたらしたり、いや、サントラあったら買いたいですよ。どうやってこの頃は映画音楽作っていたんだろう。モリコーネとは対極で、でも、どうしようもなく映画音楽だと思う。

嗚呼、また観たい。スクリーンで。もう少し若松孝二掘ってみようかな。

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