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「孤独」に 2

 まだの方は「孤独」に 1 からお読みください。




 Maison book girl「Solitude HOTEL」は、「海辺にて」からスタートした。



 2017年末、4Fの時のMaison book girlには色が無かった。映像を見ればわかると思うが、ずっと暗い洞窟を彷徨っているような公演だった。

 そんな彼女たちが「yume」で色を手にし、「SOUP」で朝を手にした。まさに海の中のようなブルーのライトに照らされたMaison book girlは、とても綺麗だった。この美しさが、これからも続くと思っていた。

 シャッター音が鳴り響く。海のようだと思っていたブルーの光は、魔法陣へと姿を変えた。「レインコートと首の無い鳥」は、いつだって不思議な現象を引き起こす。

 先ほど4人が姿を現した円い穴から、「cotoeri」の衣装に身を包んだ、Solitude HOTEL 4Fの4人が姿を現した。彼女たち「だったもの」はフードを目深に被り、顔は見えない。円いステージを囲むように、4人と4人「だったもの」は「townscape」を踊り始めた。 

 「過去との調和、そして対話だ」と思った。「今」があるのは「過去」があるからだ。Maison book girlは、過去とひとつになろうとしている。

 4Fのセットリストに逆行するように、曲は「言選り_」へと進んだ。
 4Fではこの曲でフードを意図的に被っていた4Fの4人は体操座りをして、Maison book girlの「今」を眺めていた。
 
 4Fの4人は「闇色の朝」が始まると、元いた円い穴の中へ吸い込まれていった。彼女たちの夜は、まだ明けていない。
 間奏、その穴の中から「蟲たちの電車」が光となって現われた。まるで朝を迎えたはずの4人を、こちら側へ迎えに来るかのように。


 物語が紡がれた。
 僕は知らなかったが、初期の頃によく朗読されていた「眠れる森」というポエトリーらしい。 

 「目覚まし時計を探す兎」や「2月の月」など、今までコショージメグミが他のポエトリーでも紡いできた登場人物がそこには居た。きっと彼女は、彼らを慈しんできたのだろうと思った。彼らも立派なこのホテルの住人である。

 2月の月が問うた。
 「目を閉じれば現れて、目を開ければ消えるもの、なーんだ?」



「物語は、巻き戻った」



 ステージが真っ暗になった。

 答えは「闇」だ。
 僕たちは、昼となく夜となく朝もない「闇」に誘われた。



 「長い夜が明けて」「狭い物語」は、今までMaison book girlが紡いできた物語のキーとなる楽曲だった。先述したとおり、彼女たちはこの曲たちで朝を、色を手にしたのだ。

 だが、朝は訪れない。色も取り戻されない。従来の何倍も表現豊かになったはずの彼女たちの曲は、この闇を抜け出す力をもう持たなかった。


 矢川葵が、和田輪が、「夢」の冒頭をアカペラで歌い始めた。
 「孤独な箱で」でも見た光景だ。この闇の中で、彼女たちはどんな夢を見るのだろうか。

 蓋を開ければ、彼女たちと、夢を見ている時の脳周波を示すクラップ音以外、そこには何もなかった。光も色も無い世界で、彼女たちは「無」の中で歌っていた。


 彼女たちの声しかないあの空間は、今まで見た彼女たちのどのパフォーマンスよりも、一番美しいものだった。Maison book girlは、その4人の歌声を以てして、自身がMaison book girlであるということを高らかに証明していた。


 「blue light」「十六歳」でも、色のある世界は取り戻されなかった。
バックスクリーンにはランダムに「00010010101100010」と、0と1だけが表示されるようになった。世界は壊れ始めている。


 白と黒しかない世界で、「snow irony_」が始まった。
 何て皮肉な歌詞なんだろう。こんなに明るい曲調なのに、この曲の歌詞がこんなに痛いのは初めての経験だった。

 終わりを受け容れたくないような声をして、矢川葵は「許さない」と叫び続けた。

見たくない見たくない見たくない見たくないこれ以上。
知りたくなかった。美しい記憶を笑って。
終わりを分かってた。汚れた結末、気付いてた。
許さない許さない許さない許さない許さない。


 終わりが始まるビートが流れ出した。
 Maison book girlの最新曲にして最終曲のひとつ、「Fiction」が始まった。この曲にはエピローグのような気持ちにさせられてしまう。
 矢川葵はこの曲のレコーディング中、落ちサビの歌メロが良くて泣いてしまったことがあるとインタビューで話していた。去年行われた「Solitude BOX Online」においても、矢川葵は泣いていた。そしてこの時も。
 彼女の涙の理由はきっとどれも違う。少なくともこの日は。

柔らかい羽をもいだら きっと君といた部屋に戻る
最後の約束をした日 ずっと忘れない 晴れた日に


 「手紙を書きます。」



 矢川葵が震える声で、和田輪が直情的に、井上唯が穏やかに、各々の「non Fiction」を語る。そのどれもが「彼女らしい」と思えることが、とても愛しく、とても辛い。「Maison book girlとしての」彼女たちは、もうすぐ消えてしまう。


 コショージメグミが語り出した「non Fiction」は、手紙では無かった。まるで、僕たちに語りかけているような口ぶりで彼女は、「そんな振りをした」と切なく笑った。


「僕を見つけて」


 蝉の声がする。耳鳴りのように鐘の音がする。
 光の点滅が凄くて、此処がどこかも忘れてしまいそうだった。

 終わってしまうんだ、もう会えないんだと思った。
 そんな鐘の音をかき消したのは、いつかのインタビューでメンバーが「いつかこんな演出がしたい」と言っていた、銀テープの飛ぶ音だった。


 7拍子のクラップが響き渡る。4人の背中がそこにある。
 彼女たちの始まりの歌。

 しかしもう彼女たちの衣装に、「Maison book girl」の文字は無い。オケは「bath room」だが、歌メロも歌詞も全く異なる。
 もうアレは、「bath room」では無いのかもしれない。もう彼女たちは、Maison book girlでは無いのかもしれない。

 溢れる涙を抑えることが出来なかった。お願いだから嘘であって欲しい、すべてが嘘であって欲しい。


 開演直後に耳をつんざいた、「last scene」が流れ出した。別れの時だ。


 ついに本当に光を失ってしまったMaison book girlの世界は、真っ暗闇の中ぶつ切りで、僕たちの前で幕を閉じた。あまりにも皮肉めいた歌詞と共に。



僕らの夢はいつも叶わない。きっと。



僕たちの拍手は、どこか力無かった。


――――――――――

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 終演後、すぐiPhoneの電源を入れ、公式サイトを確認した。
 そしてすべてを理解した。


Maison book girlのいない世界の始まりの日の夜、外は雨が降っていた。



 偶然会った初めましてのファン、今までお世話になったファンとも会話をしたが、お互い何も言葉が出てこなかった。
 そんな中でも、「また会いましょう」という言葉だけは、意識して使った。この人たちとの縁を失ってしまったら、本当にMaison book girlが終わってしまうような気がしたから。

 皆との縁を無くしたくなくて、衝動的にこんなツイートをした。

 
 たくさん反響が来た。皆同じ想いなのかもしれないと思った。
 

 正直まだ実現できるかは全然分からないけど(こんな時勢だし)、ふだん面倒くさがりの僕が衝動的にこんなことを言うようになってしまった。 
 Maison book girlは僕を根本的に変えてしまった。何物にも代えがたいあの日を境に。

 なんて不気味で、素敵な夢だったろう。僕は6年半、彼女たちの中で眠り続けていた。


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 「6irthday」であなた達が手向けてくれたリンドウの蕾は、2021年5月30日に花開いた。
 今度は僕たちが、この花を枯らさないようにしていくんだ。
 


 僕たちの「孤独」に、ずっと寄り添ってくれていたあなた達へ


 ありがとう。またいつか。



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