保育の質評価スケール(ECERS)の導入についての疑問を中室先生にぶつけてきたよ


概要

↑のnoteに書いたように、杉並区役所にいって区職員さんや区議会議員さんにECERS導入を提案してきました。その際に、もらった懸念や質問を自分なりに整理して、この道の専門家の慶應義塾大学の中室牧子先生や伊芸研吾氏を交えて1時間ほど議論する時間をいただけました。非常に密度が濃く、時間が過ぎるのがあっという間でした。備忘録として内容を記します。

本論

私からの質問と先生からの回答を一問一答形式で書きます。

Q1 「アメリカ製のECERSという尺度に最適化した保育を行うことは妥当か。杉並区で定めている保育の目標との整合性をどうするかという問題もある。」※区職員さんや議員さんから出ていた質問
A1  「ECERSはこどもの発達を中心に据えた指標でそこにアメリカ特有の要素はない。実際に30カ国以上で利用されている。例えていうなら、心臓病の治療法にアメリカ流も日本流もないのと同様だ。」


Q2 「この記事で第三者評価の問題点とECERSの有用性を主張されているが、各保育所についてECERSの生スコアを公開すると保育所間の過度なランキング争いなどが発生するおそれがある。先生が考える保育の質にまつわる理想的な情報公開のあり方はどんなものか?」
A2 「難しい質問だ。保育の質についての情報公開を進めると、高所得な親ほど保育の質が高い保育所にこどもを通わせて格差が広がるという研究もある。一方で、親の保育所選びの助けになるようにある程度の情報公開は必要。かりに保育所のECERSスコアをそのまま公開せずとも、自治体側がそのデータを持っていれば質の低い保育所は頻繁に見回るなど、地域の保育所の全体的な質向上に活かすことができる。また、継続的にモニタリングすることも非常に大事で、ある年度である保育園のあるクラスのECERSのスコアから次の年度ではスコアが大幅に低下することもある。担任が変わることによる影響だ。」
参考 情報公開にかなり積極的な自治体の例として、ニューヨーク市で各施設のECERSとCLASS(※後述)の評価を公開している例https://tools.nycenet.edu/snapshot/2020/XAPN/PK/#INFO 
補足 中室研ではいろいろな自治体についてECERSの調査をしているが、今のところ全保育所のECERSスコアを公開するまでに至った自治体は存在しないとのこと。


Q3 「保育の質を測る指標として、なぜ他の指標ではなくECERSがよいのか?」※議員さんから出ていた質問
A3 「研究室では、ECERSしか測定していないので複数の指標を比較した結果は持っていない。最近ではCLASSという指標も用いられるようになってきており、こちらの方がよりこどもの発育を予測できるという研究もでてきている。一方で、CLASSはこどもと保育者の相互作用を重視しており、この項目については日本は国際比較すると全般的にきわめて高い水準にあり、CLASSを採用してしまうと保育所間の差が見られなくなってしまう恐れもある。導入するなら、ECERSから始めるのがいいのではないか。何事にも順番がある。例えるならば、KinKi Kidsの良さをわからずに、King & Princeの良さがわかるだろうか。」


Q4 「予算がネックになるかも知れない」
A4 「予算を圧縮する方法はいくつか考えられる。1つは、現在研究段階だが、ECERSのチェックリストの項目が多すぎるので、同等の性能を持つように項目を精選した縮小版ECERSを用いることだ。2つ目はECERSの調査を内製化すること。中室研が養成した調査員を派遣して評価するのではなく、ECERS書籍を読んで勉強してもらい、区内のA園の職員がB園を評価する、などすれば低予算で実施可能なのではないか。」


Q5 「保育所は第三者評価以外にも都道府県や市区町村が主体となって行う監査も受けている。実際にECERSを導入をするのであれば、第三者評価や各種監査をスリム化しないと現場の負担が過大になるのでは」
A5 「その通りで各種評価や監査を集約する必要がある。」
参考 中室先生のこのnote記事後半にも「背景となる根拠法や通知が異なる指導監査、確認監査、第三者評価の機能を集約化する必要」との記述あり
※この件に関して、中室先生は実際に各所に陳情にも行かれているとのこと

感想

すごく勉強になりました。議論にお付き合いいただいた皆様、ご協力ありがとうございました。
「KinKi Kidsの良さをわからずに、King & Princeの良さがわかるだろうか。」というフレーズが面白かったので、これから流行らせていきたいです。


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