不妊治療についての情報提供のあり方についての私見


自己紹介

不妊治療、特に体外受精は、医療機関ごとに治療成績にかなりのバラツキがあることが知られています。2人目不妊に悩まされ、体外受精で妊娠・出産した経験から、患者が医療機関を選ぶ参考にできるよう、医療機関ごとの体外受精の治療成績 (= 簡単に言うと「何回移植して何回妊娠したか or 何回赤ちゃんが産まれたか」)を比較しやすいよう可視化するサイトを育休中のスキマ時間に作ってきました。

この可視化サイトの作成にあたり利用したのは、東京都が公開している体外受精の保険適用前の2019年1月~12月の時期のまあまあ古いデータでした。

追記: 全国を網羅するより新しいデータを利用した可視化サイトも作成しました。

日本における不妊治療についての情報公開状況

あまり広く知られていないことですが、2023年10月末に、こども家庭庁の医療機関検索ページから不妊治療を実施している医療機関を所在地の都道府県や治療内容から検索することができるようになりました。

このサイトの個別の医療機関のページに飛ぶと、診療時間や治療内容、保険適用後の体外受精の治療成績などかなり詳細な情報が確認できます。従来は都道府県単位でのみ体外受精を実施している医療機関の情報公開がなされていたので、このように全国的なデータが取りまとめられ、公開されるのは画期的なことです。
ただし、治療成績の公開は任意なので、公開していない医療機関もあります。また、後述するように、諸外国の医療機関検索のためのサイトと比べると、治療成績が棒グラフになっておらず可視化が不十分で、全国平均との比較が簡単にできず、患者自身が適切な医療機関を選ぶための助けになっているかという観点からみると、改善の余地があると考えられます。
また、欲を言えば、特定のクリニックについて調べたい患者を念頭に医療機関の名称から直接検索できるようにしたり、自宅や職場に近いクリニックを調べたい患者を念頭に現行の都道府県別の区割りに加えて指定した住所からX km以内などの条件で絞り込んだりなどの検索機能ももっと強化してほしいところです。

個別の医療機関の治療成績。0が並んでいる、成績を公開していない医療機関の例。
成績が公開されている医療機関でも、このテーブルがあるだけで、
棒グラフなどで可視化はされていないので治療成績の良い悪いは一見して分からない。

また、不妊治療の元当事者としては、個別の医療機関の詳細なページがなく、検索結果一覧から個別の医療機関をクリックしてポップアップ形式でしか詳細な情報が見られないのは使い勝手が悪い気もします。具体的には、検討中の医療機関の情報を家族など他の人と共有しようとしたときに不便です。そこで、患者本位のより良い情報公開の在り方の参考にするため、諸外国の体外受精や不妊治療についての情報公開するサイトの使い勝手を独自に調査してみました。

諸外国の不妊治療についての情報公開状況

調査が容易な、英語圏の国の不妊治療・体外受精ができる医療機関検索サイトと運営母体についてまとめます。以下にあげた全てのサイトで、個別の医療機関の治療成績は棒グラフで表示され、その国の全国平均と容易に比較可能です。こども家庭庁の医療機関のサイトでは、治療成績が文字列で表現され、全国平均と容易に比較可能でないため、諸外国のサイトにならって改善できる点があると考えられます。

アメリカ

Centers for Disease Control and Prevention (CDC)がデータを公開しています。CDCは健康に関する信頼できる情報の提供と、健康の増進を目的としたアメリカ合衆国連邦政府の機関だそうです。つまり、最初から不妊治療についでのデータ公開を念頭においたサイトではなく、極めて広範な健康に関するデータの開示の一環として生殖補助医療のデータも取り扱っていると考えられます。その性質からか、公開されているデータ量は多いですが、必ずしも不妊治療の当事者にとって見やすいわけではないです。
州を指定したり郵便番号から体外受精を取り扱う医療機関を検索可能です。

州を指定して検索した検索結果のページは、その州の医療機関がずらっと並ぶシンプルな作りです。

検索結果一覧

個別の医療機関のページに飛ぶと、治療実績や治療成績が確認可能です。公開されている情報は多岐に渡ります。フィルタリング機能があり、例えば特定の医療機関で男性不妊要因での体外受精に絞った治療成績も確認可能です。Show National Dataにクリックを入れることで特定の医療機関の治療成績を全国平均と比較できます。公開されているデータの情報量が多いためUIは少し見づらくデータの読み解きに労力がいります。

個別のクリニックページの例

https://nccd.cdc.gov/drh_art/rdPage.aspx?rdReport=DRH_ART.ClinicInfo&ClinicId=1&ShowNational=0&islCycleTypes=T002

個別のクリニックページの例

イギリス

Human Fertilisation and Embryology Authority (HFEA)のサイトから医療機関が検索可能。HFEAは英国における生殖医療と生殖医学研究管理運営機関だそうです。生殖医療に特化した団体のサイトだけあって、クリニックの検索のしやすさや治療成績の全国平均との差がみやすいUIなど、ユーザ目線に立った作りと感じます。

医療機関検索機能も充実しています。
郵便番号や指定した地域からXX km以内などの他、提供している治療内容で絞り込みもできます。

HFEAのサイトが他国と比べても特にすぐれていると感じるのは、検索結果の一覧ページから、個別の医療機関のページに飛ぶことなしに、体外受精の治療成績の全国平均と比較しての良し悪しや提供している治療内容など患者が最優先で知りたいことが確認可能な点です。

検索結果一覧
IVF birth rateに注目。"Consistent with national average", "Below national average"などと表示。

また、今回調べたサイトの中で唯一、検索結果を地図上に一覧表示するオプションも提供されており、実際にクリニックを探すユーザ目線でいろいろ考えられているなという印象です。

検索結果一覧を地図上で確認


個別のクリニックページの例


個別のクリニックのページの例。

オーストラリア

YourIVFSuccess というサイトからクリニック検索が可能です。オーストラリア政府が資金を拠出しているそうで、名前から分かる通り体外受精に特化したサイトです。 

https://yourivfsuccess.com.au/clinics

医療機関検索機能は地名や郵便番号から検索 or クリニック名から検索 の2択とシンプルな作りです。
個別の医療機関のページに飛ぶと、治療実績や治療成績が全国平均と比較しやすい形で確認可能です。UIは見やすいです。

個別のクリニックページの例

https://yourivfsuccess.com.au/clinics/329?term=&page=0&size=20&locationId=4967

個別のクリニックページの例

まとめ

  • こども家庭庁のサイトから全国の体外受精の医療機関についての情報や治療成績が確認可能になったのは画期的

    • 体外受精は身体的・精神的な負担が大きく、保険適用回数にも上限があるので、患者としては「1周期たりとも無駄にしたくない!」→ 治療を検討中の方はこども家庭庁のサイトも参照し受診する医療機関の決定の参考にしてほしい。体外受精をすれば必ず赤ちゃんを授かるとは限らないが、すべての患者さんに悔いのない体外受精を!というのが個人的な願い。

    • 医療機関検索 のサイトは有用なのに知名度が低すぎるので友人・家族・同僚に教えてあげよう

  • 諸外国の類似サイトと比べると改善の余地がある

    • 今後改善点を考えるのであれば、そもそも不妊治療に特化した情報公開をしているイギリスのHFEAやオーストラリアのYourIVFSuccessを参考にすべき

    • 1) 個別の医療機関の治療成績が全国平均と比べて同程度か、大幅に上回るか、大幅に下回るかを確認しやすくする 2)  住所を指定して近くの医療機関を検索するオプションを提供する など、不妊治療の当事者にとっての使いやすさを第一に考えると良さそう

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