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SHI・RO・KU・MA


玄関を開けると、白い枕のようなものが転がっていた。いや、寝そべっていた。それはもぞもぞと顔をあげると、
「おかえりである。しろはまちくたびれてねてしまったのである」
怪訝な顔をして立ち尽くしていると、しろはハッ!となって、
「じこしょうかいしてなかったである!しろはしろくまである」
知っているシロクマとは似ても似つかない、てれん、とした何かはそう名乗った。
ぬぼーっと開いた口元と、ちょこんとついた耳が、微かにクマの面影をたたえていた。


しろくまにどうしてここに居るのかたずねた。
「んー…なんとなく、きがついたらいたのである」要領を得ない。
そもそもしろくまとはなんなのか。
「しろは、しろくま族のしろくまである。おもちとアイスでできているのである」
どうやら自分の知っている生物とは全く異なる存在らしい。
「すこし、たべてみるである?」
丁重にお断りした。
「ちゃんとさいせいするから、えんりょはいらないである?」
しろくまの気づかいは、こちらのお断りする理由が増えただけであった。


しろくまは、朝になる頃には煙のように消えていた。いついなくなったのかも気づかないほど、自然に消えていた。夢だったのだろう。
さして気にもとめず仕事に出かけ、夢のことなど日中は忘れている。
帰宅して玄関の扉を開けた。
「おかえりである!」
また白いへにゃっとしたものが迎えてくれた。
何故夜にだけ現れるのか。
「ひるまはあついから、くうかんにしみこんでいるのである」
空間に染み込む。チェシャ猫が姿を消すような感じだろうか。といってもチェシャ猫が消えるところも見たことはないので、ぼんやりした理解ではあった。

④今日は帰宅すると白い物体が2つに増えていた。
新しい方はしろくまより若干平べったく、尻尾のような突起がついていた。
「しろのともだちのとけである」
「はじめまして、とけくまだーよ。しろよりちょっとアイスがおおめにはいっているんだーよ」
もしかすると、尻尾に見えたものはアイスの棒か…?
「くうかんにしみこむやりかたは、とけにおしえてもらったのである」
「とけのとくいわざなのだーよ。それにしてもきょうはあつくて、よるでもとけ…とけ…」
とけくまは床にでろっと広がった。
なるほど、溶けるからとけくまか。


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