えむら若奈
夏休みを利用して福岡の実家へ帰省した大学生・香月壱弥(かつきいちや)は、町を守る土地神を祀った産土神社で、自らを「神」だと言い張る変わった子どもと出会う。 最初はただの遊びだと思っていた壱弥だったが、どうやらその子どもは自分にしか見えていないようで…… 「自称・神」と大学生とのほっこりほのぼの、ひと夏の記憶。
ある日、僕は彼女の秘密を知ってしまった―― ちょっと不思議な徳大寺さんと僕の、なんてことはないゆるい日常のお話。
【ナナシの神様】夏休みを利用して福岡の実家へ帰省した大学生・香月壱弥(かつきいちや)は、町を守る土地神を祀った産土神社で、自らを「神」だと言い張る変わった子どもと出会う。 最初はただの遊びだと思っていた壱弥だったが、どうやらその子どもは自分にしか見えていないようで…… 福岡県八女市の架空の町が舞台の現代ファンタジー。 【隣の席の徳大寺さん】ある日、僕は彼女の秘密を知ってしまった―― ちょっと不思議な徳大寺さんと僕の、なんてことはないゆるい日常のお話。 【勇者フミマロ】
目が覚めると、ナナシはすでに起きていた。というより、寝ていないのかもしれない。 壱弥が借りてきた本を熱心に読んでいたので、電気を消していいものか迷っていると、自分で手元だけの灯りを作って読むと言ったので気にせず消灯した。 そのまま朝まで熟睡していたので、寝ている間のナナシの行動は分からない。 「イチヤは健康的じゃのう」 ナナシは、日課の早朝ジョギングについてきた。 壱弥に伴走しているように見えるが、足は地についていない。時折、壱弥の目の高さまで浮き上がっては景色
ひとまず、壱弥は神道の本を三冊借りることにした。ナナシのことが分かるとは思えないが、まずは基本を学ぼうと考えたのだ。 帰宅して昼食を済ませた後、自室で借りてきた本を開いた。「神道への誘い」というタイトルのものだ。 その中に、産土神について書かれた一節があった。 産土神とは生まれた土地の守護神のことで、その者が生まれる前から死んだ後まで守護するとされている。 しばしば氏神と混同されるが、氏神はもともと氏名うじな、つまり血縁関係のある一族の祖先神あるいは守護神のことを指
「あ、そうだ!明日のお昼前、いっちゃんちくるけん」 「なんかあるん?」 「うん、ちょっと、ね。家おるやろ?」 「多分おるよ」 「絶対おって」 「あ、はい」 どことなく有無を言わさぬ物言いが姉と重なり、壱弥は一瞬たじろいでしまう。 女性に口答えしても良いことがない、という教訓は子供のころから染みついているのだが、それは希穂に対しても同じだった。 「よし。じゃあ、また明日ね!」 何の用事があるかそれ以上は聞くことができず、家へ入っていく希穂を黙って見送った。 原付の
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 最近、お昼休みも一緒に過ごすようになった。 毎日ではないけれど、徳大寺さんはお弁当を作ってきてくれる。酸っぱくないものを。 今日は、鶏肉と米を使ったタイ料理?を持ってきてくれた。 でも僕は歯が痛くて、口に入れた瞬間、少し顔をしかめてしまった。 「お、美味しくなかった?」 「あ、違うんだ。虫歯があるみたいで。今日は部活を休んで、歯医者に行くんだ」 「ミュータンス菌が悪さをしているのね」 「ミュータンス菌?」 「虫歯の原
「改めて訊かれると、なんでなのか気になってくるな」 「うむ。我はそのような習慣は知らぬぞ。ほれ、そのスマホとやらで調べてみんか」 何故か“スマホ”は知っているらしい。壱弥には、ナナシの知識の基準がよく分からなかった。 言われた通りスマートフォンで中元の由来を調べてみると、もともとは中国の道教に由来すると書いてあった。 かつて中国では一月十五日、七月十五日、十月十五日を「三元」として祝う習慣があり、七月十五日(中元)に半年間の無事を祝い先祖の供養をしていた。それが日本の
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 その日は顧問の先生の都合で、部活が1時間も早く終わった。 いつもどこからともなく現れる徳大寺さんの姿が、今日は見当たらない。 僕は帰り支度を整えて、図書室へと向かった。 窓際の席に、徳大寺さんがいる。後ろから近づいて名前を呼ぶと、弾かれたように顔をあげた。 「け、謙介くん。部活、もう終わったの?」 「うん、先生の都合で。何を書いてたの?」 徳大寺さんが開いているノートには、びっちりと文字が書かれてい
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 昼休みになるといつも、自席で小さな弁当箱を広げて黙々と食べているらしい。 僕は購買部へ買いに行ったり学食で食べたりしているから、徳大寺さんの弁当の中身をよく知らない。 その日の昼休み前、珍しく教室内で徳大寺さんが話しかけてきた。 「謙介くん、今日はお昼ご飯持ってきてる?」 「ううん。購買で買おうかなって」 「あの……それなら、一緒に食べない?じ、実は、その……作ってきたの」 徳大寺さんが、少し頬を赤ら
ジョギングを終えて帰宅する頃には、かなり気温が上がってきていた。 厚手の袴のようなものを着ているナナシだが、暑さを感じないのか涼しい顔をしている。 「ふむ。ここがイチヤの実家というやつであるな。なかなか立派じゃのう」 玄関前で建物を見まわしながらナナシが言った。 香月家は町南西の小高い丘の上にある。二階建ての母屋と平屋の離れがあり、離れでは祖父母が生活していた。 「四六時中、俺につきまとうわけ?」 「そんなことはないぞ。自由に動けるからのう」 「一緒にいるのは、
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 教室では相変わらずひとりで本を読んでいるけれど、ブックカバーを何種類も持っていることに、僕は最近気がついた。 きっとそのひとつひとつにも、名前がついているんだろう。 「僕の部活が終わるまで2時間以上あると思うけど、それまで何してるの?」 ある日の帰り道、僕は徳大寺さんに尋ねた。 「図書室にいるの。いろいろと、調べたいことがあるから」 予想通りの答えだった。 うちの高校の図書室はとても大きくて、蔵書数は10万冊ぐら
「どげんしたとね?狐につままれたごつ顔しとるばい」 「あ、いや。ちょっと疲れとるんかな。さっきここに子供がおったっちゃけど。もしかしたら、本当に狐だったんかな」 「ははは、そうかもしれんたいね。あぁ、昼頃に組合の方ば顔出すて、お父さんに言っとって」 「うん、わかった」 坂本は参拝を済ませてから帰っていったが、その間もずっと壱弥のとなりにいる子供の姿に気が付くことはなかった。 「ふむ、やはり我の姿は見えぬようじゃのう。本来そのはずなのじゃ。なぜか、お主には見えておるようで
子供の頃から、“神様”という存在は壱弥にとって身近なものだった。曾祖父が近くの産土神社に参拝することを日課としていて、いつも一緒について行っていたからだ。 「神様はわしらの目には見えんばってん、わしらのことをいつも見ておらっしゃあ」 それが、曾祖父の口癖。 誰も見ていないと思っても、神様が必ず見ている。それならば常に良い子でいなくては、と子供ながらに思った。 神様に顔向けできないような行いは、決してしない。この行動理念は、大人になった今でも変わっていない。
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 帰りのホームルームが終わったあとは、いつの間にか教室からいなくなる。 でも最近は、僕の部活が終わるのをどこかで待ってくれているらしい。 気が付いたら、徳大寺さんと下校することが日課になっていた。 「ねぇ、徳大寺さん。思ったんだけどさ」 「どうしたの、謙介くん」 徳大寺さんは、僕に対していつも笑顔だ。 「それ、僕と同じ名前なんだよね」 僕は、徳大寺さんが手にしている、角の塗装が少し剥げているスマホを指さした。
隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。 女子グループのどこにも属さず、かといって別にいじめられているわけでもない。 話しかけたら普通に返してくれるし、愛想は良い。 休み時間はいつも一人で本を読んでいて、たまに真剣な顔でノートに向かっている。 授業態度はいたって真面目で成績も優秀。 でも、徳大寺さんは、少し変わっている。 僕は聞いてしまった。ある日の自習時間―― 「あっ、メルフィ……」 消しゴムが床に落ちてしまった時に、彼女の口からとっさに出た言葉だ
ラグビー日本代表とオーストラリア代表(通称ワラビーズ)のテストマッチが大分で行われました。 結果は23-32で敗戦。 この試合について、楕円球を愛するみなさまはどう感じたでしょうか? わたしは悔しかったです。 勝てた試合でした。絶対に勝てたと思います。 後半34分、田村選手のPG成功で4点差と迫った直後、徳永選手のジャッカルから一気に攻撃へ展開。 そこまでは良かったけれど、ボールを持ったラファエレ選手が孤立してしまいました。サポート役のフィフィタ選手との呼吸が合っていなか
「ドラゴンクエスト」がファミコン用ソフトとして発売されてから、今年で35年。 5月の配信イベントで新作の発表に胸を躍らせてから、4ヶ月が過ぎました。 あの配信を観て「ドラクエ12をやるまで死ねない!!」と強く思ったものです。 小説の創作をするうえで個人情報をできるだけ晒したくないため、ドラクエのどの作品を最初にプレイしたかは書きません。 (なんとなく世代を想像させてしまうでしょうしw) 10をのぞくすべてのナンバリングタイトルをプレイしています。10だけ未プレイなのはネト