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Phase 2 まるで、胎児のように。

2020年、某日。

宣告の日…あの日からこれまでの記憶は、所々、とても朧気なんですよ。断片的というか…まぁ、元々過去に対する記憶力に乏しいところがあるんですよね、私って。

(空白)

憶えていることといえば…


2018年、5月中旬。

宣告初夜。

私は、いつもの椅子に腰掛けていた。いつも通り、特に変わったことはない。窓から見える景色も、そこに置かれたソーラーで動くおさるさんの玩具も、テーブルに置かれたリモコンも、ベッド際に賑わうぬいぐるみ達も。

何も、何も変わらない。

…気付いたら、部屋がオレンジ色に染まっていた。“夕飯、作らなきゃ…”そう考えた途端、一気に不穏な気持ちになった。

私の胃には、癌が棲んでいる。

食べること≒癌に餌をやる。そんな訳のわからない陳腐な考えが頭に浮かび、詭弁な私は、椅子の上で勢いよくギュっと膝を抱え、その膝におでこを押しつけ、体育座りをした。動かない景色の中で、オレンジ色に染まった “私” が動いた。

カタカタ腰を揺らしていたおさるさんは、徐々にその動きも鈍り、とうとう踊ることをやめてしまった。


世界に沈黙が訪れた。


部屋を満たしたオレンジ色は、水彩画のそれのように、層を成したジュレのように、、徐々に藍色に満たされ、やがて黒い闇が部屋中を満たしていった。それと同時に、とてつもない恐怖心と、喩えようのない不安が、身体全体を覆い尽くしていった。

部屋中を満たす黒い闇に、目も鼻も口も塞がれ、右も左もわからない、息ができない。気が狂いそうになりながら、それでもどうしていいのかわからずにうずくまったままでいたのだ、が…

腰が痛い…変なところでハッとする。

腰が痛いにもかかわらず、力任せに顔を上げ、勢いよく椅子から立ち上がり、部屋の明かりをつけた。風呂に入り、歯を磨いた。無意識に、平常を装っている私がいた。

照明が青白くて痛々しい。明かりをつけても闇は部屋のあちらこちらから滲み溢れていた。

そんな闇に発狂しそうになりながら、ベッドに横たわった。ぼうっとした意識の中で、寝たとも寝ないともつかない久遠を感じてうなされていた。



『死』



朦朧とした意識下でそのワードがゆらゆら揺れている。何かよくわからないけど怖い。何が怖いのか、わからないままに怖い。

人は死んだらどうなるのか?無になるのか?今の私は?私という生命体は。心は。

何処へいき、どうなってしまうのだろう。


世界は何も変わっちゃいないはずなのに、私だけが置き去りにされるような、時が止まってしまったような。。

過去にだけ影を残して、『無』になるという漠然とした恐怖。

そうだ。それだ。

死ぬ事が怖いんじゃないんだ。


そこまで気付いても、結局たどり着く答え(応え)のない恐怖には抗えず、ただただ、ひたすら夜が明けることを願いながら丸まっていた。




まるで、胎児のように。



Next Phase…

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