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「平成文化の精神」の終焉 ―キズナアイ活動休止に寄せて―

※サムネイルはKizuna AI The Last Live “hello, world 2022”<https://www.youtube.com/watch?v=GTa2HxIsBPM>より引用

先週土曜日の2月26日、一つの大きな日本の伝説が、幕を下ろした。
世界初のバーチャルYouTuber(VTuber)であり、同ジャンルの開拓者であったキズナアイが、5年に及ぶ活動を終了し、無期限の活動休止に至ったのである(ちなみに完全な活動終了ではなく、後々活動再開する予定ではある)。
彼女が日本でバズる前から1ファンとして動画を見ていた自分は、彼女のラストライブを視聴した後、しばらく耐え難い虚脱感に襲われたのである。
活動休止から数日が立ったが、ここで改めて自分がこの休止で感じたことについて書いてみることにする。

思えば私がキズナアイを知ることになったのは2017年2月に、ニコニコ動画でアップロードされていた、彼女に関するとある動画がきっかけである。そこでキズナアイというYouTuberを知るに至った私は早速彼女のチャンネルを知り、動画を見ていった。その時に感じた私の感想は「3Dアバターを使ったキャラ系のYouTuberとか、これはまたすごいイロモノのYouTuberが出てきたな…」である。しかしながら当時としては非常に高度な技術を用いた3DCGのトラッキング技術や、なにより彼女のキャラクターに惹かれ、チャンネル登録をしてときどき見たりしていた。このときはまだ日本ではそこまで注目されておらず、海外で人気のYouTuberであったため、コメント欄に日本語が無く、英語、ロシア語、韓国語、スペイン語であふれていたのも今となっては懐かしい。ちなみに個人的にこの時期で面白かった動画は『【有罪】第1回 キズナアイ裁判【無罪】』のエジソン君に対する切り返しと、20万人登録記念動画で当時流行していたブルゾンちえみのモノマネ動画である。

そんなこんなでひっそりと彼女の動画を見続けていたが、2017年12月、彼女にとって1度目の「事件」が起こる。彼女の動画内での発言(とあるネットミーム界隈で使われる用語を発言したこと)がニコニコ動画に転載され、遂に彼女が日本のネットからも注目されることとなり、チャンネル登録者100万名を達成したのである。そしてそれからミライアカリ、ねこます、輝夜月、電脳少女シロと所謂「四天王」への注目へも集まると同時にVTuberブームが到来し、ネット文化における一大ジャンルとして確立されるのである。そしてVTuberの創始者となったキズナアイはいつしか「親分」と呼ばれるようになった。この時、私はキズナアイ以外のVTuberの存在を知らず、「キズナアイ以外にもキズナアイみたいなバーチャルなYouTuber出てきたのかよ!」と驚愕して急いでその存在をYouTubeで確認しに行く反面、「ついにキズナアイが注目されるようになった・・・うれしい・・・」と後方彼氏面しながらその喜びを隠せずにいたものである。ちなみにこのときはニコニコ動画で他のVTuberをまとめて紹介していたとある投稿者がいて、彼が電脳少女シロを始めとした様々なVTuber紹介に貢献したことを覚えている。そしてその投稿者は最後に「にじさんじ」を紹介したのだが、そこで(3D主体であった当時としては珍しかった)イラストを用いた彼らの配信スタイルが注目されることになり、以後VTuberの基本スタイルとなる。かくしてVTuberは配信主体のコンテンツとなったのだが、私は正直このスタイル(というか動画共有サイトの生放送全般)が苦手であり、以後主立って他のVTuberを追っかけることはしなくなった。反面肝心のキズナアイは配信動画の比率を上げながらも以前の編集動画中心のスタイルを続けており、私はフォローを続けていた。全盛期の彼女の動画のうち、『実家が罠だらけ!』の実況動画、『Neverending NIghtmare』の実況動画は特に見ものである。

それからの彼女はBS日テレでの冠番組開始(録画して時々見ていた)、誕生日イベントの開催(これは一度も行けなかった・・残念)など、VTuberの始祖として着実に知名度を上げていったのだが、そんな折彼女に第2の「事件」が起こる。2019年、彼女の誕生日である6月30日前後に起こった「分裂騒動」である。このとき何の前触れもなくキズナアイが4人に増え、YouTubeのキズナアイチャンネルでは中国で活動を行う1人を除いた3人で動画を作成していく方針となったのだ。このことについて日本国内外を問わず大騒動となり、この時期の動画のコメント欄が様々な言語で荒らされることとなった。個人的にはこの「分裂(曰く『分人』と称していた)」自体は面白い試みではあると思ったのであるが、「肉体である『キャラクター』」と「魂である『演者』」を切り離せないこのVTuberというコンテンツの本質を見抜けないままこの分裂に踏み切った運営の方針に疑問を感じていた。さらにこのときの運営の回答が遅れ、謝罪もなかったため、憤慨したファンによりチャンネル登録者が目に見えて減っていたのを覚えている。私もこの時の視聴者の荒れ具合に耐えられなくなり、あと、キャラクターの中身が違うのに外面が同じで動画として理解しづらい当時のスタイルに嫌気がさし、なにより、この時期の動画がシンプルに面白くなく、一時期キズナアイの動画を積極的に追わなくなっていった(といっても現loveちゃんのASMR動画など、時々は見ていたが)。

そんなこともあり視聴者が離れたことを反省してか、2019年11月末に運営は運営体制を一新し、2人の新キズナアイに区別できるアクセサリーを与え区別できるようにし、名前を公募で募集した。ここから動画としての面白さも回復していき、私も積極的な視聴を再開した。
さらに翌年4月にはキズナアイ事業部門を独立させ、キズナアイの魂が積極的に動画制作の中心に立てるような体制に変更し、2人の新キズナアイも新たな「肉体」を手に入れ完全に別のVTuberとして活動することになった(うち1名はしばらくして活動終了したが)。この時期の動画としてはタイムショックの動画とつぐのひの実況が個人的好み。

そして新体制での活動も順調に進んでいた中、2021年12月、最後の「事件」が起こる。翌2022年2月26日のラストライブを以て自身の活動を一時的に無期限休止することを発表した。私はこのことをTwitterで知ったのだが、発表動画を見てショックを受け、「キズナアイ第一章の歴史にピリオド」、そして「『一つの大きな伝説』の完結」を感じずにはいられなかった。

まさかこの動画が伏線になっていたとは・・・そんなわけあるか

活動休止発表後のブラックアイ裁判の動画すき

そして時は過ぎ遂に、彼女のアップデート前の最後の活動であるラストライブが開催される。前日のFall AIsをリアタイして準備を整えてきた私は、「最後の活躍」に期待しながら、ライブを視聴した。(当然リアルタイムで)

会場時から流れていた名だたるYouTuberやVTuber、アーティストなどのコメントを見て、「昔こんな人とコラボしてたなあ」とか「こんなVTuberいたなあ、懐かしい」とか感慨に耽たり、「すごい大物からもコメントが来てる!」と改めてキズナアイの影響力の大きさに驚愕したりしていた中、遂に開演。最初のドラムロールを終えて、奥の壇上に数多のVTuberがひしめく中、キズナアイがステージに立ち、歌声を上げた瞬間、

感動のあまり鳥肌総立ちで言葉を失った。

そしてそこからはライブに熱狂し、気づけば最初のアンコール。ここまで体感10分ぐらいしかたっていないように感じた。(実際は1時間以上経っていた。)そしてフィナーレ。そしてスタッフロールが流れると同時に、ライブに対する感動でこの上なく魂が揺さぶられるのを感じた。

そしてライブが終わり、感動が収まってくることにつれて、年明け前の重大発表から予感していた「『一つの伝説』の終焉」に圧倒されてしまい、茫然自失になってしまった。

ここにおいて、「『平成文化の精神』の終焉」を感じずにはいられなかったのである。

思えば「平成」は、「昭和時代からサブカルチャーとしてアングラ的に根を伸ばしてきた『オタク文化』が一般に認知され始め、徐々に市民権を獲得し、日本を代表する『クール・ジャパン』文化に昇華した」時代でもあり、また「インターネットが徐々に一般社会に浸透し、情報化社会が発達する中で、ボーカロイドなどのバーチャルアイドルをはじめとした『ネット文化』が醸成された」時代であった。そして「インターネットの普及、動画共有サイトの発達により、メディア発信の中心がテレビからインターネットの動画共有サイトに移行した」時代でもあった。そんな中においてネット文化の象徴たるバーチャルアイドルであり、オタク的萌え要素を内包し、メディア発信の中心であるYouTubeでコンテンツを発信する「バーチャルYouTuber」、ひいてはそれの草分けとなったキズナアイは、まさに「平成の文化」の象徴であり、「平成文化の精神」の体現者であったのではなかろうか。
夏目漱石の『こころ』に出てくる「先生」は乃木希典大将の殉死に「明治の精神」の終焉を感じ取ったが、私はキズナアイがこの令和の時代に活動休止をしたことに、「平成文化の精神」が永久に去った報知のごとく感じずにはいられないのである。

ただキズナアイが乃木大将と違うのは、彼女はあくまで一時的な活動休止であり、いつか復帰することを公言している点である。しかしながら、復帰し「世界中のみんなとつながるためにアップデート」した後の彼女は、もはや「平成文化の精神の体現者」であったかつての彼女ではなく、「新時代―令和―の一文化」としての新たな存在である。そういう意味では、やはりこの活動休止は「永久に去った」報知なのである。私はそこに言いようもない寂寥感に苛まれるのである。

・・・・・とまあいろいろ長々と書いたわけだが、要するに「アイちゃんが活動休止してすごく寂しい」という話である。ただ、それでもこの5年間平成最後の大文化である「バーチャルYouTuber」の先駆けとして業界を牽引したキズナアイとキズナアイ運営には「ありがとう。そしてお疲れさまでした。」という感謝と労いの言葉を贈らずにはいられない。そして最後に一言。

「復活、待ってます。」

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