見出し画像

レス

#レス

 妻との性行為がなくなって約三ヶ月になる。妻が家族になり、出産も含めて女として見れなくなっているのと、仕事で疲れているのと、息子が起きたら、と考えたらできなくなったのだ。

 僕は山際悠やまぎわゆうといい、三十五歳。小説家を目指す傍ら、生活のために焼き肉屋でパートをしている。僕だけの給料だけじゃ足りないので妻にも働いてもらっている。

 妻は正子まさこといい、三十七歳。スーパーマーケットでパートをしている。セックスレスになっているのは気にしているようだ。

 正子の方からは僕を求めてくる。でも、僕はその気がない。なので、最近ではあまり求めてこなくなった。子どものために離婚しないで結婚生活を続けている。

 僕らの子どもで上の長男は、遊子ゆずといい、六歳の小学一年生。下の長女は理子りこといい、一歳。妻は子どもらの勉学に力を入れている。遊子は算数と英語の塾に行かせており、理子には図鑑を買って見せている。僕としては、そんなに勉強ばかりしなくても、たくましく育ってくれたらいい、迷惑をかけない人になって欲しいと思っている。正子にそういう話しをしても、勉強はしなくちゃダメ! 考える力もつくし、知識も学べるから。学校の勉強にも役にたつし。そう言って僕の教育方針は受け入れてくれない。

 正子が言うには、
「あなたが言っていることは、当たり前のこと」
 という。でも、当たり前のことすらできない人がいる。そう言っても、「そんな人と一緒にしないでよ」
 そう言ってあしらわれる。

 妻は突然言い出した。
「あなたなんで私を抱いてくれないの?」
 ストレートな質問なので答えに困った。まさか、女として見れないとは言えないし。僕のせいにするかな。なので、こう言った。
「僕のモノが使いものにならなくてさ、トイレで用を足すときだけだわ、使うのは」
 すると正子は、
「病院にいったらは? 泌尿科とか」
 僕が唸っていると、
「だって、三ヶ月よ? しなくなってから。私だってたまにはしたいわよ」
 どうしよう、病院なんか行かなくたって使いものにはなる。だんだん、追い込まれてきた。本当のことを話すべきか。よし、話そう。
「病院には行かないよ。本当の理由を話すよ。正子が家族になり、出産も含めて女として見れなくなっているのと、仕事で疲れているのと、遊子が起きたら、と考えたらできなくなったのさ」
 正子は言った。
「私を女として見れなくなったんだ……。そうなんだ……。どうしたらいいだろうね……」
 僕が思うことを言った。
「仕事で疲れているのは、疲れていないときを狙って、遊子が起きたらと考えなくするためには、ラブホテルで二人きりになればいいかと思った。女として見れないというのも、ラブホテルに行って二人きりになればレスも解消されるかもと思ったよ」
 正子は感心したような表情をしている。そして、こう言った。
「なるほどね、その方法はいいかも。でも、ラブホテル行っている間、子ども達はどうしよう?」
 僕は得意気になって言った。
「僕の実家に預ければいいと思うよ」
 妻は腑に落ちない顔をした。正子は言った。
「理由訊かれたらどうする?」
 僕は動じることもなく、堂々と言った。
「そのときは、嘘はつかず正直に言うよ。僕がね」
 正子は笑い出した。なんか恥ずかしいなぁ。でも、僕は、
「恥ずかしいけど、僕らの結婚生活のためだよ。セックスレスで離婚する夫婦もいるんだから。そうはなりたくない」
 と、言った。妻は、
「なるほど~。なんだか悠、頼もしいね」
 そう言い、僕は、
「まあね、ありがとう」

 今は夜11時30分くらいで遊子と理子はさっき寝かしつけた。それから正子とさっきの話をした。

 僕の焼肉屋のパートは16時~23時30分の開店から閉店まで。時給制だ。今日は休みで家にいた。正子のスーパーマーケットでのパートは9時から16時までで、同じく時給制。

 僕の目指すものである小説家に向けて出版社に応募しようとしている。なので今から書こうと思う。夕ご飯は食べたが、妻に夜食を作ってもらうかな。いつもならもっと早い時間から書き始めるのだが、今日は正子とのセックスレスについて話していたから遅くなってしまった。大事な話しだから仕様がない。

現在いまは冬だから何か温かいものを頼んだ。最近はファンタジー小説を書いている。その中でもローファンタジーを執筆している。ローファンタジーとは、ファンタジーのジャンルの1つで現実世界を題材としたものだ。居間で執筆していると正子が、
「お疲れ様」
 と言いながらコーンスープとおにぎりを2個作って持ってきてくれた。
「ありがとな」
「がんばってね、未来の小説家さん」
 そう言われ嬉しくなり、
「うん! がんばるわ!」
 と言った。
 締め切りは、来年の3月末まで。今は12月半ば。そんなに余裕があるわけではない。でも、8割はできていると思うので、焦る必要もない。
 正子は欠伸をしながら、
「私、寝るね。おやすみ」
 と言いながら寝室へと向かった。僕は、
「おやすみ」
 と言った。少し眠い。僕は、おにぎりを食べコーンスープを飲んだ。美味しい、と心の中で思った。

 僕の仕事も、妻の仕事もシフト制だから、ラブホテルに行くのはお互い休みの日に行く予定。正子を呼んでお互いのシフト表を見ると、明後日が僕も正子も休みだ。母にメールを送った。
<あさってちょっと用事があって正子とでかけるから、遊子と理子を預かってくれないか?>
 今は夜中の12時過ぎだからもう寝ているだろう。明日になれば返信はくると思う。

 翌朝の7時30分くらいに、僕のスマートフォンにメールがきた。きっと母からだろう。開いて見てみると、
<いいけど、どこに行くの?>
 と書かれてあった。僕はすぐにメールを返した。
<ちょっと2人でデートしようと思って>
 すると、
<たまにはいいわね。夫婦水入らずで。いいよ、預かるよ。行っておいで。ちなみにいつ行くの?>
 日程の話しをしていなかった。
<明後日だよ午前中から夕方まで>
 母は、
<わかったよ、楽しんでおいで>
 そう言ってくれた。ありがたい。

 僕の両親は孫2人を溺愛しているから、嬉しいだろう。
 僕は翌日の夜、ネットで地元のラブホテルの料金について調べてみた。すると休憩は2時間で四千円、宿泊は七千円のようだ。2時間かぁ。宿泊するわけにはいかないので仕方ない、休憩にしよう。ほんとうはもっといたいけれど。この話を正子にした。僕と同じことを言った。
「他の地域も調べたけど、もっと高いのさ」
 正子は残念そうに、
「そうなんだ、なら仕方ないね。ここにしよう」
 と言った。僕は続けてしゃべった。
「ラブホテルには2時間しかいれないから、残った時間は買い物や食事をしないか?」
「そうね、そうしよっか」

 そして当日の朝。僕と正子は2人に伝えた。
「遊子、理子。今日はね、パパとママはちょっと用事があって出かけるからおじいちゃんと、おばあちゃんの家にいてね」
 遊子は、
「えー、パパとママどこに行くの?」
 と訊くので僕は、
「パパとママはね、クリスマスにサンタさんが来てくれるようにお願いしに行くんだよ」
 すると遊子は、
「ぼくも行きたい!」
 と言った。でも、僕はこう切り返した。
「サンタさんはパパとママの言うことをきくような、いい子のところにしか来てくれないんだ。だから、おじいちゃんとおばあちゃんの家にいてね」
 そう伝えると、
「はーい。じゃあ、おじいちゃんとおばあちゃんの家にいる。サンタさん、絶対来てくれるように言ってきてね!」
 納得したようで、僕は、
「わかったよ」
 と答えた。

 僕と正子は朝7時に起きた。妻がスマートフォンの目覚ましを設定していたのだ。遊子は学校に行かなければならない。帰りの話を僕の母親にしていなかった。今日は金曜日なので午前中で終わる。母にメールを送った。
<おはよう。遊子は昼12時で学校終わるから迎えに行ってね。理子は僕らが実家に連れて行くからよろしくね!>
 母は昔から起床時間は朝5時30分頃。父がトラックの運転手なので朝が早い。6時30分には出勤する。退勤時間は16時だ。父は61歳になるが、まだ現役でフルタイムで勤務している。母は専業主婦で63歳。母親のほうが2つ年上だ。
 父が仕事に行ったあと、メールがきた。
<わかったよ。今日は雨だね、昼は車で迎えに行くわ>
 実家には車が2台ある。父は黒い普通乗用車で、母は赤い軽自動車をそれぞれ乗っている。

 いまは冬なので、理子が風邪をひかないように温かい格好で3人で外出する。僕と正子はまず遊子を学校まで送り届け、そのあと理子を僕の実家においてきた。理子をじいちゃんとばあちゃんの家において出てこようとしたとき、泣き出した。正子はすぐに理子のところへ行き、抱きかかえあやした。すぐに泣き止み、キャッキャと笑い出した。「寝るまであやすよ」と妻は言った。「そうだね」と僕は言った。15分くらい母・正子の胸の中でゆりかごのようにあやされると理子は眠った。居間に敷いてある小さい敷き布団に寝かせ、その上から掛け布団をかけた。家の中だし、ストーブも焚いてあるから大丈夫だろう。

 そして、足音で起きないように、ゆっくりと歩いた。正子は僕の母に言った。「理子が目覚めて泣き出して、あやしても泣き止まない場合、私か悠に電話もらえますか? 戻ってくるので」
 母は笑みを浮かべながら言った。
「わかったよ。デート楽しんでおいで。こっちは何とかするから」
 正子も笑いながら、「わかりました」と答えた。「じゃあ、行ってくる」と僕は言って正子と2人で外に出て運転席に僕が乗り、助手席に正子が乗った。ラブホテルは山の上のほうにある。道路は圧雪なので、滑ってスリップした。正子は「大丈夫?」と訊くので、「大丈夫だよ。心配ご無用」と答えた。この町には、ラブホテルは1軒しかないので、決めてあったところに着いた。駐車場にバックで車を停めて、シャッターを閉めた。僕らは中に入りドアに鍵をかけた。もし、部屋の鍵をかけ忘れて誰かが入って来たら最悪だ。大変なことになる。正子は喋った。「お風呂沸かすねー!」と言うので僕は、「うん、わかった」と返事をした。正子は欲情しているのかな。僕は性欲が湧いてこない。もしかして、これって、性行為ができないパターン?まずいな。風呂が湧いたので、二人でタオルを持ち浴室に入った。正子は、「体洗ってあげる」というのでなされるがままにしていると、徐々に気持ちよくなってきた。「洗い終わったよ。今度は私の体を洗ってね」妻の下腹部には手術のあとがある。2人の子どもは帝王切開で産んだから。そのあとを見るだけでも萎えた。まずは、胸から洗い、背中もこすり、最後に両足を洗った。妻は「ありがとう!」と嬉しそうなのでよかった。でも、僕の局部は反応しない。正子はそれを見て、溜息をついて「興味、湧いてこない?」と言った。嘘はよくないので、正直に言った。「ぶっちゃけ何とも思わない」
妻は、「やっぱりかー」と残念そうだ。僕は謝った。「ごめんな」と。正子は慌てて、「謝らないでよ。余計みじめになるじゃない」そう言うので、「そうだな」と素直に言った。「私の体を触ってみてよ」すると、見ているときより、触ったほうが興奮した。僕は3ヶ月ぶりに思う存分触りまくった。最後まで達すると正子は嬉しそうだ。「セックスレス解消したわね!」僕は、「そうだな、よかったー! 離婚の危機かと思ったよ」
 ホテルに2時間滞在してから、買い物に出かけた。婦人服売り場で正子は
水玉模様のワンピースを買い、僕は紳士服売り場でブルージーンズを買った。そのあとは、ランチタイム。僕は、ハンバーグとライス大盛りで、妻はステーキと小ライスを食べた。「おいしいね」と正子は言った。僕も、「うん、旨い!」と答えた。
「さ、理子のことも心配だし、今日はこれくらいにしておかない?」
「そうだな、また今度な」
 こうして僕は正子との性行為はできるということに改めて気付いた。よかった。それから僕らは実家に行き、理子の様子を見てみると眠っていた。今は13時30分頃なので遊子は僕らで迎えに行くことにした。14時ころ教室などの掃除も終わり帰れるはず。僕は、セックスレスも解消したし、かわいい子どもも2人いるし、奥さんもいるから幸せを感じていた。この話を正子に話すと笑顔で「確かにそうね」と言っていた。この幸せが続くといいな。僕はそう切願せつがんした。

                                 終


 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?